知らぬが仏

次の日は臨時休校となったが、俺は何故か病院に呼ばれていた。

「ここか…」

指示された通りの病室のドアを開ければ、ベッドの側にオールマイトが座っていた。
そして、その隣に立つ 刑事さん。

「あぁ、来てくれたね!蛟くん!休みのところ申し訳ない!」

俺に気づいたオールマイトはそう言って、俺は手招いて座るよう促した。
ベッドに近づいて、やっとわかった。
そこに横たわっていたのは ミイラのように包帯に巻かれた相澤先生だった。

「相澤先生、もう起きて大丈夫なんですか?」
「これくらいはな…」

それなら、いいけど。
オールマイトももう具合は良いのだろうか?
てか、あのヨボヨボなままの方が体に負担がないのでは?
どういう原理なのかは わからないけど。

「あの、お話の前に。いいですか?」
「どうしたんだい?」
「オールマイトさん。いつもの格好になっていただいて大丈夫ですよ」

俺の言葉に 場の空気が凍った気がした。
うん、これまた変なこと言った?

「ど、どういうことかな?」

オールマイトがそう、俺に聞き返した。

「あの、ヨボヨボなやつ。オールマイトさんですよね?保健室で一度お会いしたかと」
「なんのこと言ってんだ?」

言葉を探すオールマイトさんの代わりに相澤先生がそう、俺に言った。

「知っての通り俺の個性、血を操ることなんですけど。その副作用って感じで 利き血ができるんです。匂いで ほぼその血液が誰のものかわかります」

彼らが顔を見合わせた。

「保健室で会ったあの人、多分吐血してて 体に血の匂いが残ってました。それが、昨日戦って出血した貴方の血と同じ匂いでした。まぁ、知ってはいけないことだったなら、知らなかったことにしておきます」

俺がそう言って、本題へどうぞと 促せば 少しの間の後 オールマイトさんが煙を出しながらあのヨボヨボな姿になった。

「その通りだよ。だが、これは マスコミにも学園内でも 知られてはいけないことだ。だから、」
「わざわざ人に言いふらしたりはしませんよ。正直、どっちだとしても 興味ないし…」
「興味ない!?」

オールマイトは、少しショックを受けているように見えた。
恐らく、俺の反応は普通ではなかったんだろう。
平和の象徴が こうなってたら本来は騒ぐべきなのか?
普通なら どう反応するんだろう。
今は、参考になる人がいないから わからない。

「…ヒーローだとしても、人間です。永遠ではない。時代が移ろえば 人も移ろうものです。ただ、それだけのことだと 俺は思ってます。貴方が背負って来た時代を貶すつもりも、貴方が先の時代に不要だと思っているわけでもないのですけど」
「君は…変わっているね」

オールマイトさんはそう言った。

たしかに、変わっているんだろう。
よく言われるし。
今に始まったことではない。

「それじゃあ、改めて 本題に入ってもいいかな?」

刑事さん…名前たしか塚内さんが俺を見た。

「君は、火災ゾーンで敵と戦闘したよね?尾白くんからも君からも証言を受けているけど」
「はい。それが、何か?」
「君が戦ったであろう全員。今、入院している」

塚内さんの言葉でなんとなく話の先が見えた。

「拒絶反応出たんですね やっぱり。あの少量でも、やっぱり出るんだ」
「…君は、何をしたんだい?」

腰のポーチから瓶を取り出す。

「これ、俺の血です。この血に睡眠薬とか体を痺れさせる薬剤を一緒に調合してあります。で、これを敵の血管内に入れました」
「なるほどね…」
「全員拒絶反応が出たなら 皆血液型が違かったんでしょうね」

君の血液型を聞いても?という言葉に「AB型RH-です」と答えれば納得したようだった。

「どうしてそれを使ったんだい?」
「動けなくさせるべきだって言われたので。とりあえず救助が来るまで動けなくなるのは これかなぁってだけです」
「死ぬかもしれない、とは 考えなかった?」

彼の問いかけに、俺は首を傾げた。

「この少量なら大丈夫だろうと思ってました。今の医療でなら救えるのも知ってますし」
「そうか」
「まぁ、、死んだとしても 敵だから いいんじゃないですかね」

また、空気が凍った気がする。
今日は 変なことばっかり言っているのかもしれない。
まぁ、大人3人相手にしてたら ボロが出るのは仕方ないのかもな…

「…わかった。次の話をしよう。」
「はい」
「昨日は言わなかったけど、相澤先生は出血が止まっていたから なんとか治療が間に合ったんだ。出血が続いていたら 今も生死を彷徨っていたかもしれない」

それなら、あの時の判断は間違ってなかったんだろう。
ただ、これを知られるのは正直、困る。
俺の個性届は自分の血を操れる と提出してあるからだ。
他人を操れるとなれば、また話が違ってくる。

「傷口がね、全部瘡蓋になっていて 止血ができていたんだけど。思い当たる節は?」

さて、どうやって逃げるのが正解か。
俺がやったというのは ほぼ確定だと思っているだろうし、そこは逃げられないな。
と、なると…

「相手の血に触れている時だけなら、操れます。だから、傷口の血に触れて 傷の修復を早めました」
「相手の血に触れているときだけ?」
「はい。だから、外的な損傷を止血するくらいしかできません。相手の血を俺の血みたいに 遠隔操作することもできないです」

瘡蓋になった後は血液の仕事じゃなくなるのでそれ以上もできません、と続けて言えば彼らは納得したらしい。

「お前は、俺の傷口の血に触れて 俺の流血だけ止めた。それ以上 何もできなかった ってことでいいのか?」
「はい。だから、例えば吐血している人の血を止めることはできないんです。出血が体内にあるので」
「わかった。それは、個性届には提出してないよな?」

オマケみたいな能力なので、と答えれば 確かに書くほどのことではないねと オールマイトさんが言った。

「わかった。わざわざありがとう」

塚内さんはそう言って、笑顔を見せた。
この事情聴取は もう終わりってことか。

「いえ。」

蛟、と相澤先生が俺を呼んだ。

「なんでしょう?」
「ありがとう。お前のお陰で、助かった」

彼のその言葉に 俺は笑った。

「人を助けるのが、ヒーローですから」
「そうか…」
「けど、先生も。自分を犠牲にして 俺たちを助けようとしましたね」

そう言って笑ってやれば、包帯から覗く目が見開かれた。

「もう 帰っても?」
「わざわざありがとう。気をつけて帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます」

病室から出て、クスクスと笑う。
まぁ上手く誤魔化せただろう。

たしかに相手の血を操ることはできる。
傷口に触れている時、ではなく相手の血を体内に摂取した時にだ。
自分の中身を好き勝手に弄られたとなれば、嫌な思いもするだろうし 伝える気はなかった。
流石にもう切れているのか、病室にいる先生を操ることはできなかったし。

まぁ、これがバレると色々面倒なんだよね。
だって 下手な話 相手の血さえあれば心臓を止めることもできるのだから。
くも膜下出血を起こさせて、時間差で殺すことだって、容易なこと。
不審死の犯人扱いされも、困るしね。

「知らぬが仏、ってとこだね」





「なんというか、変わった学生ですね」

塚内刑事が、彼の出て行った先を見ながら呟いた。
まぁ、言いたいことはわかる。
みんなの憧れるオールマイトさんに対しても あの態度。
そして、極め付けが最後の言葉。
自己犠牲がダメだって言った矢先にこれで、しかもアイツに助けられるとはなぁ…。
確かにあぁ、言われても仕方がないんだけど。

「クラスでも 浮いてるわけではないが 人とは一線を引いてる印象だな」
「確かに、それはあるね。考え方とかもなんか…大人というか 達観してるというか…」

年相応じゃないんだよな。
なのに子供でも知ってるようなことを知らなかったり。
言い方は悪いが、人間として何か…大切なものを持っていない。
そんな気がしてならなかった。

「敵だから、死んでもいい っていう考えは 少し極端だね」

塚内刑事はそう言って苦笑をこぼす。
確かに、救う為にやむを得ない場合もあるかもしれないが。
死んでもいいってわけじゃないしな。

「…その辺は少し、教育し直しておきます」
「宜しく頼むよ」


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