心操人使
次の日から 学校が再開した。
そして、教室に来たのは包帯でぐるぐる巻きの相澤先生。
「先生無事だったのですね!」
「無事 言うんかなぁアレ…」
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」
戦いが終わってない?
まぁ、敵は逃げたし終わってはいない…のか?
「雄英体育祭が迫ってる」
「「クソ学校っぽいの来たぁぁあ!!」」
「待って待って!敵に侵入されたばっかで大丈夫なんですか!?」
体育祭、か。
有名なものだとは聞いたことがある。
「逆に開催する事で危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何よりうちの体育祭は最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ」
そんなに大事なもんかね、と小さく呟けば前の席の八百万がこちらを振り返った。
「全国のトップヒーローが観ますのよ。スカウト目的でね」
「へぇ、そうなんだ」
「当然 名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計3回のチャンスだ。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ」
ヒーローを志すなら、ねぇ。
窓の外を眺めながら 欠伸をこぼす。
そう、今更だが。
俺は別にヒーローを志して ここに来たわけではない。
世間一般的にヒーローになりたい人が多くて、それを夢見るのが"普通"だっただけ。
だから、ヒーローになると 言ったし その為にここにも来たし。
だからと言って本当にヒーローになりたいのか、と言われると。
「どーするのが、"普通"なのかなぁ」
▽
その日の放課後。
教室の前は人だかりが出来ていた。
「敵情視察だろ。戦いの前に見ときてぇんだろ。まぁ、意味ねぇから どけ モブ共」
「知らない人にとりあえずモブって言うのやめなよ!!」
相変わらずだな、爆豪は。
鞄を持って立ち上がったのはいいが、出られそうになくため息をつく。
「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
人だかりをかき分けて1番前に出て来たのは 心操だった。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構いるんだ。知ってた?」
「は?」
「体育祭のリザルトによっちゃ ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆も然りらしいよ」
へぇ、そうなんだ。
だとしたら、本当に心操とクラスメイトになる日が来るのかもしれないな。
「敵情視察?少なくとも俺は 調子乗ってっと足元ゴッソリ救っちゃうぞっつー 宣戦布告しにきたつもり」
…意外と言う子なんだな。
この間は大人しかったけど。
「隣のB組のモンだけどよう!敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだけどよぅ!エラく調子づいちゃってんな オイ!本番で恥ずかしい事んなっぞ!」
あーぁ、荒れてる荒れてる。
無視して出て行こうとする爆豪を鋭児郎が止めた。
「関係ねぇよ」
「はあーー!?」
「上に上がりゃ 関係ねぇ」
鞄を持って今度こそドアの方へ歩き出す。
爆豪が俺を見て舌打ちをした。
「テメェのスカした態度も、気にいらねぇ。体育祭で、ぶっ潰す」
「本当に物騒だね、爆豪は。熱くなるのはいいけどさ、」
心操と目が合って、俺はニコリと笑って手を振った。
「お前のペースで周りが動くと思うなよ」
「あ?」
「君が上に行こうが、下に行こうが どーでもいい」
心操、一緒に帰らない?と声をかければ彼は少しだけ嬉しそうに笑って頷いた。
「おい、待て。スカし野郎」
掴まれた肩を力任せに引っ張られる。
あぁ、もう。めんどくさい。
振り返り彼の方へと 手を伸ばす。
「お前、「やめろ、血郷!!」…焦凍…」
急に大きな声で叫ばれてそちらを向けば俺を睨む彼がいた。
溜息をつきながら両手を上げて降参です、と手をひらひら振る。
学校では関わらないとか言いながら、結局それを破ったのは彼で。
名前で呼んでる、とかざわつく声がクラスから聞こえた。
何か言いたげな爆豪の耳元に口を寄せる。
「"人"でいてね。壊しちゃうから」
「は?」
「じゃ、お疲れ」
帰ろう、と心操に声をかければ 人だかりが静かに道を開けた。
「さっき、怒ってた?」
「誰が?」
「血郷」
心操の言葉に首を傾げる。
怒ってたのかな?俺。
ちょっとめんどくさいし、いらないなぁって 思ったけど。
「んー、イライラはしてたのかも」
「そっか」
「心操も意外と 言う方なんだね。さっき、びっくりした」
そう?と彼が笑う。
「ヒーロー科に行きたいから、やっぱり」
「待ってるね」
「え?あ、ありがとう」
少し照れたのか彼は顔を背けてしまった。
そして、少し躊躇ってから この後時間ある?と俺を見つめた。
「あるよ。どうして?」
「ちょっと、話したいことがある」
「…じゃあ、どっかお店入ろうか」
▽
学校の近くの喫茶店に入って、彼はトマトジュース 俺は紅茶を頼んで席に座る。
そういえば、前に話した時もトマトジュースを飲んでた気がする。
「それで?話って?」
「あ、うん。俺の…個性のことなんだけど」
俺は自分の個性を人に話すのがあまり、好きではない。
知れば離れていってしまうかもしれないから。
けど、離れてしまうのだとしたら早めがいいと思った。
これ以上、彼と親しくなれば 失うのが 怖くなる。
「俺の個性、洗脳 なんだよね」
「洗脳?」
「そう」
血郷、と呼んで返事をした彼がピタリと動きを止める。
個性を解除すれば彼はなるほどね、と頷いた。
「名前を呼んで応えると洗脳されるの?」
「いや、名前じゃなくても 俺の問いかけに応えれば…」
「へぇ、すごいね」
彼はそう言って笑った。
「え…怖いとか、思わない…の?」
「なんで?」
「なんでって…犯罪者向きとか…自分を洗脳しないでとか…普通、思うだろ」
血郷はそれが普通なの?と首を傾げた。
「うーん。それがもし、"普通"なのだとしたら 俺はそうはなりたくないかな。まずさ、個性にヒーロー向きとか敵向きとかあるの?どんな個性だろうが、使う人間の問題じゃない?」
「それは、そうだけど…」
「それに、相澤先生に言われたんだけどさ。ヒーローにとっての正解って 人を救って、なおかつ自分も無傷なこと。これが正解らしいんだよね」
話の意図が見えなくて、俺は首を傾げる。
「心操の個性は確かに、災害現場とかには向いてないかもしれない。けど人質のいる現場とかならさ、自分も安全な位置から 人質も傷つけず、敵さえも無傷で制圧できる力があるんだよ?100点満点じゃ足りないくらいの、正解だと 俺は思うんだけど」
そんなことを、俺に言ってくれた人は過去にいただろうか。
「ヒーローはそれぞれ自分の得意分野で活躍しているし。心操はそういう現場で誰も傷つけずに救えるヒーローとして、活躍できると思う」
「…あ、ありがとう…そんなの、初めて、言われた」
「そうなの?あと、自分を洗脳しないでって思わないのか?だっけ。それに関して言えば、心操が俺に そんなことする奴だとは 思わないよ」
勘だけどね、と彼は言った。
「まずもって心操の個性に限らず、個性は人に使っちゃいけないんだから。そんなことしないでしょ」
トマトジュースを飲みながら、彼は不思議そうに首を傾げた。
きっと、こんな言葉が欲しかったんだ。ずっと。
「血郷、」
「ん?」
「ありがとう」
なんでよ、と彼が笑う。
わからなくてもいいんだ。
ただ本当に、ありがとうって 思ってる。
「俺、A組に行きたい」
「おいでよ。俺は、心操とクラスメイトになれたら嬉しいよ。煩くないし、一緒にいて 落ち着くし」
待ってるね、と彼は笑った。
「んーなんか不公平な気もするし俺の個性についても話す?」
「なんか、赤黒い液体操ってた」
「あ、そうそう。見たことあるのか 戦ってるところ」
彼は腰にあるポーチから赤黒い液体の入った瓶をテーブルに置いた。
「俺の個性は 血液を操ること。基本は採血した自分の血を操って戦ってるよ」
「体内の血も 操れるの?」
「うん。まぁ、戦いながら 自分の血を使うと 出血多量で死んじゃうから 基本はやらない」
血を操る、か。
同じだけの質量に限られるけど、銃とか刀とかも作れるよと彼は言った。
「接近戦がメイン?」
「んー、隠密行動の方が得意かな。暗闇で背後から捕まえたりする方が 見つかりにくいし」
まぁ接近戦で使われることの方が多いけどねと彼は笑った。
「あ、けどなんか。あれだね」
「なに?」
「俺と心操が組んだら めっちゃいい感じにならない?」
心操が敵の動きを止めて、俺が拘束してってやれば と彼が言った。
「確かに、そうだね」
「俺の血も相当な距離 遠隔操作できるし、人質も俺の血で安全な場所まで運べばいいし」
「そうなるためにはさ、まず俺がヒーロー科に行かなきゃ」
心操なら来ると思うけどね、となにを根拠にしているのかわからないけど彼は答えた。
「入試はひとりひとり見れないから システム上心操みたいなタイプは落とされちゃうけど。だからといって、心操みたいなタイプを手離すのは惜しいじゃん?だからこその、編入制度なんじゃない?」
「そうかな…」
「もし、そうじゃなかったら 体育祭はヒーロー科だけでやればいいじゃん」
スカウト目的なら、そうするのが普通だろう。
ヒーローになれない有象無象など、画面にいるだけ 邪魔だ。
「確かに」
「大丈夫だよ、自信持って。心操はヒーローになれるって 俺は信じてる」
「…ありがと」
こんなに、自分のほしい言葉をくれる人がいるだろうか。
みんな、俺がヒーローになりたいといえば笑ったのに。
彼は、こんなにも真剣に 向き合ってくれる。
「ねぇ、血郷」
「ん?」
「人使って、呼んでほしい」
急なお願いに目を丸くさせたが、笑いながら人使と彼は呼んだ。
「体育祭、楽しみにしてて」
「うん。楽しみにしてる」
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