あれ以来、翔とトキヤの様子がおかしいです。
まぁ、いいけど…
楽曲提供の話も着実に進んでいるらしく、今度歌をちゃんと録音するらしい。
休み時間、翔と喋っていると日向サンに呼び止められた。
日向サンを見た途端翔が私の後ろに隠れる。
「何もしねぇよ、神宮寺に作詞の課題を出さないと厳罰だって伝えてくれるか?」
「レン?あぁ、最近授業出てないもんな…翔、よろしく」
「は?何で俺?」
「ん?最近のレン、嫌なんだよね」
「まぁ、分かった。ちょっと行ってくる」
走って行った翔の背中を見送る。
「本気?」
「あぁ、本気だ」
「そっか…残念だよ。レンの声は、好きだったんだけど…」
私がそう言うと、頭を撫でられた。
「んな顔すんなよ。出来る限りは俺もする。あとは、誰かが…アイツの心を動かさないといけねぇんだ」
「それは…七海ならできそうだな。あの子は、不思議な力を持ってる。彼女ならなんとかしてくれるかもね」
「お前じゃねぇのか?」
日向サンの言葉に私は俯いた。
「私には出来ない。わかってきたんだよね…結局、天才って言われちゃったらさ努力も認めて貰えなくて言葉さえも届かないんだって…孤独なんだよね」
「…お前の傍には俺がいる…抱え込むなよ」
「ありがとう…」
「神宮寺の所、行ってくる」
頭から手が離れていく。
ねぇ、日向サン。
貴方は優しいよね。
気付いたんだ。
みんな私を恵まれてるって言ってる。
そりゃトキヤは違うって言ってくれたけど…
多分、音楽の勉強を始めたのが入試の2か月前だってみんなに言っても、天才だったんだなで済まされちゃうんだと思う。
家族がいないって言っても、大切な人を失ったと言っても結局、そんなこと周りの人にしてみればどうだっていいことなんだ。
辛かったね、けど貴女は才能に恵まれたって言葉に隠れちゃう。
誰も、私の気持ちなんてわからない。
世の中、不平等だ。
私が一番欲しいものはどう足掻いたって一生手に入らない。
けど、みんな努力すれば、死ぬ気で足掻けば手に入るかもしれない。
「礫、随分…酷い顔をしてますよ」
「え?あ、トキヤ…」
「どうしました?」
トキヤも、優しいよな。
素直じゃないけど…
「トキヤって、家族いる?」
「え?あぁ…まぁ…」
「ん、そっか…いるよね」
「礫は、いないんですか?」
どこか辛そうなトキヤに微笑む。
「いないよ…みんなさ…私が恵まれてるって言うんだよ。けど、私からしたら…みんなの方が…」
頬に、涙が伝う。
トキヤが目を見開いた。
「礫…泣かないで、下さい…貴方に泣かれたら…どうすればいいかわからない」
そっと、頬の涙をぬぐわれる。
「才能なんて、いらない…そんなもの努力で掴み取ればいいじゃん…けど、けど!!」
「もう、何も言わなくていいですよ。わかってますから…」
子供をあやすように頭をなでられて頬に伝う涙が、止まらない。
「…礫、貴方は…少し抱え込みすぎです。私でよければ話を聞きますよ?」
「……ごめん」
「礫…どこかの空き教室に入りましょう」
滅多に使われない資料室に入って、ぎこちない手で頭を撫でられる。
「礫…」
彼の声にまた涙が零れ落ちる。
「…恵まれてるなんて、言われ続けて…努力も認めて貰えないで…」
「我慢、してたんですか?ずっと…」
「我慢する以外、どうすればいい?」
別に、最初は平気だった。
けどだんだん…成長するみんなを見てて…辛くなった。
しかも、辛いときに…トキヤがやさしくするから…
「まだまだ、始まったばっかりなのにな…」
「まぁ、勉強も歌も1位を取り続けてますもんね…作曲家とアイドルの両方のコースのテストを受けているのに…」
「廊下を歩くたびに、言われるんだ。天才だって、恵まれてるって…」
頬の涙を拭う。
誉め言葉も、行き過ぎれば人を傷つける言葉に変わる。
それを、初めて私は知った。
「…なんか、落ち着いたかも…」
「なら、よかった。…けど、無理はしないでください…あと、1つ…いいですか?」
「ん?」
頬の涙を拭いながら首を傾げる。
「礫の一人称って、俺ですよね?」
「え?うん」
「あ、いえ…気にしないでください」
トキヤは私の顔を覗き込む。
「…平気ですか?」
「平気だよ。弱いとこ、見せてごめん」
「信用されたって思ってもいいんですかね?」
「まぁ、そうかも…トキヤには話しやすい」
****
お昼に学食に行くとレンが退学すると音也たちが話していたのが聞こえた。
「…退学か…日向サンも結構思い切ったな…」
「授業も出ていないようですし…仕方ないかと…」
「トキヤもよくいないよな?音也がバイトだって言ってたけど」
「えぇ、まぁ…」
目を逸らした、トキヤ。
「早朝出ていくことが多いみたいだけど…よく見るよ」
「え?」
「ほら、俺は日向サンの所に住んでるからさ…結構早くに来ることあるんだよ」
トキヤが気まずそうに目を逸らした。
「まぁ、いいよ。話したくなったら教えて」
「わかりました」
夕方、聞こえてきたサックスの音色。
音の方に歩いて行くと七海とレン、聖川がいた。
「七海が、変えてくれたのかな…」
彼女には才能があって、人を変える力があって…
話は聞こえなかったけど、聖川がレンの頬を殴った。
そして、破り捨てられた紙切れを追って七海が走り去った。
「レン」
「…礫…」
「いいのか?そのままで…」
ハンカチを頬に当てる。
「…少しは、心が動いた?」
「なんのことかな?」
「俺は、レンが羨ましいよ」
「え?」
レンがハンカチを押さえたのを確認して手を放す。
「家族がいて、あんな風にお前のために何かをしてくれる友人がいて…まだまだ、成長できる。さっきの音色、俺は好きだ」
笑って、そう言うとレンが顔を背けた。
「なんで、この学校に入ったか俺は知らないし、聞く気もないけどさ…音楽が好きじゃなかったら試験になんか受からないんじゃないかな。レンは、俺みたいな選択肢を押し付けられたわけじゃないと思うし?」
「選択肢…?」
「…頑張れよ、レン。俺、まだお前といたい。お前の歌…聴いてたいから」
そう言って、私はそこを後にした。
レンは私とは違う。
死ぬか、この学園に入るかなんて究極の2択を出されたわけじゃないと思う…
「どうか、彼の心を動かしてくれ…七海」
****
その日の朝は、レンは来なかった。
休み時間Aクラスに行くと七海もいないと言っていた。
「昨日の放課後、七海という方が必死に何かを探してましたよ」
昼ごはんを食べていたとき、トキヤがそう言った。
「あの子はさ、才能がある。音楽もだけど、人の心を動かすことも…俺はそう思ってるよ」
「私は、あまり好きではないです…彼女は。HAYATOのファンらしくて…」
「初対面で間違えられたのか?まぁ、似てるもんな…まぁ、俺もあまり好きではない」
私の言葉に、驚いたように目を見開いた。
最近この表情よく見るな…
「あの子は、才能がある。けど、一番最初が悪かったからさ…努力したって思われてる…」
「…そういう、事ですか…」
「まぁ、あの子の人柄は嫌いじゃないよ。他人のために一生懸命になれるってすごいと思うし」
「そうですね…」
昼ごはんを食べ終わったころ、放送で呼び出された。
「何でしょうか?」
「朱利としての活動報告デース!!明日、スタジオでやりマース!!朝、迎えにいくので私服でOKOKなのヨ!!学校はお休みデース」
「ん、了解」
学園長室から、出ると日向サンが立っていた。
「明日、休むな」
「あぁ、わかってる…」
「レンのことなら、心配ないと思うよ。アイツは…変わるから。あ、夕飯は肉じゃががいい、よろしくね」
放課後
音也、翔、四ノ宮、七海、そしてもう一人の女の子が外で必死に何かを探していた。
多分、昨日の紙切れなんだろうな…
私はそれを屋上から眺めていた。
そこに、無情にもチャイムが鳴る。
チャイムが鳴ってすぐに、放送でレンの声が聞こえた。
『聞こえるかい?みんな。子羊ちゃん、聞こえる?龍也さんも、みんなも聞いてくれ』
「…あぁ、やっぱり。心が動いたんだ…」
地面に座って、壁に背中を預けて、トキヤを見上げる。
『俺の歌、今できた。眠ってた思いを解き放つよ。最後のフレーズまで…It‘s showtime』
流れてきた歌に、トキヤも微笑む。
「あまり、嬉しそうじゃないですね。礫」
「ん?嬉しいけど、素直には喜べないね。」
トキヤが私の頭を撫でた。
「俺、帰るわ」
「わかりました。また明日」
「ん、また」
廊下の先に、レン達が見えた。
翔や、音也がいる。
七海はいないか…
「礫、聞いてくれたかい?あと、ハンカチありがとう」
渡されたハンカチを強く握って笑う。
「嫌でも、聞こえたよ…心が動いたみたいでよかったよ」
「礫君、今日も可愛いです〜」
抱きつこうとした四ノ宮を避けて微笑む。
「……やっぱり…俺は、お前が羨ましいな」
俺は小さく呟いて彼らの横を通り過ぎた。
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