テストの結果発表の日。

皆が先に行っているらしく私は後からゆっくりと歩いて行った。

「…あった…」

一番上にあった名前。作曲も作詞も両方とも一番上に…

「1位の御幸礫って特例で両方やってるんだよね?」
「世の中不平等だよなぁ…」
「恵まれた家で先生つけてやってたんだよ、多分。お金持ちじゃない?」
「ずるいよな〜」

何処からともなく聞こえてきた声。

「礫!!スゲェな……礫?」

話しかけてきた翔に一度視線をやり、ごめんと告げた。

「え?礫!!?」

私は振り返らずに、教室に戻った。
私が教室に着いて少しして、教室のドアから顔を覗かせた日向サン。

「テスト、おめでとう」
「なぁ………気分悪いから帰るわ」
「え?」

鞄を持って、日向サンの横を通り過ぎた。

「あ、おい!!!!」

私はそのまま校舎を出た。
帰り道。草原に蹲る七海と黒猫が見えた。

「…あの子も、前に進むんだろうな…」

不平等、か…
恵まれた家?
私が?
そんなはず、ない。
だって、みんなには家族がいて…
大切な人がまだ、傍にいるんだろ?

携帯を開いて、足を止めた。

「……世の中、不平等ね……」

制服のまま、近くの公園のベンチに座る。

確かに私に教えてくれた人たちはとても優れた人たちだろう。
そこだけ見れば、恵まれているのかもしれない。
けど、家は、家族は関係ない。
本当に大切なものを失ったこともない癖に。


****


家に帰ると、礫はいなかった。

「え?…鞄もねぇし…帰ってない?」

けど、アイツが帰ったのは結構早い時間で…もしかして、昼も食ってないのか?

俺は外に飛びだした。
林檎にお願いして、学校にいないか確認してもらったがいないと言われた。
て、ことは…学校からマンションの間…


「…いた」

公園のベンチに座って、携帯を握りしめる礫。

「礫…!!」
「っ!!?…日向、サン…」
「お前、なにしてんだよ!!今何時だと思って…」

こちらを見た礫の瞳は、初めてコイツに会った時と同じように何も映していなかった。

「…帰りたい」
「は?」
「あの人のところへ…」

それっきり、礫は何も言わなかった。
無理矢理腕を引いて、家に帰る。

玄関のドアを閉めた途端、俺は礫を抱きしめた。

「なにがあった……?帰るって、どこにだ?」
「…帰れない。もう、いないんだ。もうないんだ。私の居場所は…ここにはないんだ」

何が、そうさせてる?
だって、1位を取って普通は嬉しいもんだろ?
皆コイツの実力は知ってるんだ、悪口なんか言われない。

なら、どうして?

「…礫、何があった?あんなに、楽しそうに歌ってただろ?」
「………今日は、もう寝る」
「おい、礫!!」

腕からすり抜けた礫はそのまま脱衣所に入っていった。


「結果発表の時、近くにいたのは来栖か…アイツに聞いてみるか…」


****


次の日の朝

礫はいつも通り起きて飯を食っていた。

「じゃあ、行ってくる」
「…いってらっしゃい」

どこか元気がない礫。
近くにいたいけど…仕事があるからな…

学校に行って、林檎の質問攻めを適当に受け流し少し早めに教室に行く。

「おい、来栖」
「日向先生!!どうしたんすか?」
「昨日、結果発表の時礫の近くにいたよな?」
「あ、はい」

来栖はどこか不安そうに俺の話を聞いていた。

「なんか、変わったことなかったか?昨日から少し様子がおかしいんだ」
「…俺が、礫にスゲェな!!って言ったらいつもならありがとうとか言うのにごめんって言って歩いて行っちゃって…結局授業には来ないし…」
「…そのとき、周りの奴らはなんか言ってたか?悪口とか…」
「いや、言ってなかった。あ、けど…」
「けど?」

来栖俯きながら言葉を続けた。

「…恵まれた家で幼い頃から教育を受けてたとか、世の中不平等とか…そんなことは言ってた。けど、まぁ…俺もそう思う」

恵まれた家?
世の中不平等…か…

「確かに、アイツは実力あるし…作曲も作詞も、もちろん歌唱力もスゲェと思う。教師だって一目置いてる部分はあるけどな…アイツは恵まれてなんかいないぜ?」
「え?」
「勝手に言っていいのかわかんねぇけど…「言っていいの?」」

突然聞こえた第3者の声。
それは聞き慣れた礫の声だった。

「「礫…」」
「おはよう、お2人さん。てか、何勝手に人の過去暴露しようとしてんの?」
「いや、それは…」
「礫!!俺、知りたい」

来栖が、礫の腕を掴んだ。

「少しでも、礫のこと多く知りたい。あ、違う。なんつーか、、えっと…」
「…知りたいなら、日向サンに聞いたら?俺から話すようなことじゃねぇし。まぁ、邪魔したのは俺か」

礫は腕を払って、教室に入っていった。

「悪いな、来栖」
「いや…平気です。…聞いてもいいですか?」
「あぁ、アイツに家族はいない。家族を失って、生きる為に無理矢理音楽をやらされてんだ。しかも、入試の二か月前から」
「生きる為に…けど、たった二ヶ月であれって…」

驚くのも無理はないか…
俺でも正直、驚いた。

「だから、アイツは恵まれた環境で学んだわけじゃない…多分それを言われたのが気に障ったんだろうな…」
「…そう、だったんだ…てか、先生。何でそんなこと知ってんの?」
「いや…まぁ、学園長からな…」
「それに、礫って呼んでる…」
「あぁ、まぁ…色々あんだよ。サンキュ、来栖」

…これで、理由はわかったけど…
どうすればいい?
それに、ずっと前から気になっていた。
アイツの中にいるの、アイツの中心にいるのは誰だ?


****


日向サンが入ってくる前に、私は教室を出た。
先生に見つからないように授業をサボっているとピアノの音色が聞こえてきた。

その音の聞こえる教室の前に行くと七海と聖川の会話が聞こえてくる。

「…ちゃんと、前に進めたみたいだな…」

楽しそうにピアノの音色に微笑む。

いいな、って思う。
進みたい道があるってことが羨ましい。
皆夢を持ってて、キラキラ光ってるんだ…

「俺からしたら、夢を持てるみんなの方がすごいと思うよ…」

不平等だって…?
それは私の方が言いたい。
家族がいて、大切な夢があって…大切な人がいる。
そんな貴方たちが憎いくらい、羨ましい。

「礫、こんなところで何をしているんですか?」
「…トキヤか。遅刻?」
「少し用事があったので。昨日、どうしたんですか?結果発表の後から姿を見ませんでしたけど…」
「ねぇ、トキヤ。俺って、恵まれてると思う?」

私の言葉に、トキヤは笑った。

「そんなこと、思いませんよ。今回のテストは、貴方の方が努力をした。ただそれだけだと私は思っています」
「…そっか…」

私は、ついトキヤに抱き着いた。

「え?」
「…ありがと…トキヤ……」
「何に対しての、お礼ですか。全く…」

背中に回された手に、目を閉じた。

「ごめん、ありがと…ちゃんと、また歌える…気がする…」
「貴方が歌わないなら、私が1位を取れると思ったんですけどね」
「うわ、酷いよ。それ」

体を離して、トキヤが微笑む。

「そういえば、こないだは逃げられましたけど…貴方の寮の部屋はどこですか?」
「え?」

一歩後ろに下がると腕を掴まれる。

「流石に2回も逃がしませんよ?」
「………最悪。」
「で?」

……さて、どうしようか…

「えっと、俺さ…寮には入ってないんだよ」
「は?」
「ごめん、うん…」
「けど、この学校は全寮制で…」

いや、うん。知ってる。
知ってるけど…
こればっかりは、仕方ない。

「じゃあ!!貴方はどこに住んでるんですか?」
「え?あー…えっと…」
「答えなさい。翔も知りたいと言っていました」
「知りたいならさ…日向サンに聞いて。あの人なら知ってるから」

私はそれだけ言って、逃げた。


放課後、七海が私の所に来てなんとかピアノが弾けたと嬉しそうに話した。

そこまでは、よかったんだよな。本当に…
七海と別れて図書室にいた私の所に林檎ちゃんが駆け込んできた。

「礫君、シャイニーが呼んでるわよ」
「何?こないだのUSBのことかな?」
「多分」

ノックもせずに私はドアを開ける。

「呼ばれてきたよー。あ、日向サン。こんにちわ」
「おう、元気になったみたいだな。つーか、あんま授業サボんなよ」
「トキヤに慰めてもらった。ごめんなさい。で、早乙女さんは?」
「待ってましたヨー」

突然私の前に登場した早乙女さん。
もう驚かないけどね…

「で?ご用件は?」
「ユーのUSB聞かせて貰いマシター。その中の曲でCMに使いたいのがあるんデース。ドウシマスカー?」
「別に、使ってくれていいよ。あ、声も入れて?」
「イェス!!」
「ん、どーぞ。必要なら取り直すよ。あ、けど…本名は出さないでほしい。曲名は出していいけど」

ワカリマシターと言って早乙女さんがニヤリと笑った。

「ユーは謎のシンガーソングライター!!」
「まぁ、それでいいよ」
「芸名は何がいいデスカー?」
「…んーなんでもいいけど…そうだな…朱利がいい」
「OKOKデース。朱利で楽曲を提供しまショウ!!」

そんなわけで、私のUSBから数曲CMやドラマのBGMなどに使うことが決まった。
詳しくはまた連絡するらしい。

「礫、帰るか?」
「そのつもり、日向サンは?」
「帰る。職員玄関で待ってろ」
「了解」

林檎ちゃんに手を振って、私は玄関に向かった。

「「礫」」
「ん?…げ、トキヤ…翔」

生徒の玄関の前で待ち伏せしていた翔とトキヤ。
帰ったと思っていたのに。

「聞いたぜ、礫。寮に入ってないんだろ?絶対に場所言わせるからな!!」
「言わないなら、ついて行くまでです」

…ヤバい、うん。どうしようかな…
日向サンのことだから、遅くなったら私を迎えにこっちにくるだろうし…

「な、なんでそこまで知りたいの?」
「友達だからだ!!隠し事はなしだろ」
「隠されると余計知りたくなりますし…」

…困った。
一歩後ろに下がると2人は一歩近づく。

「なんで、言えないんだよ」
「なんでって…それは…」

言えるわけないでしょ…
日向サンの家に住んでるとか…お前ら、何?みたいな空気になるじゃん。

「礫、どうした?帰るぞ…て、お前ら何してんだ?」
「ひ、日向先生…今帰るぞって…」

案の定迎えに来た日向サンの発言に2人が目を見開いた。

「もしかして、礫…日向先生と住んでいるんじゃ…」
「いや、えっと…日向サン、助けて」
「はぁ…」

2人の目が、獣になってる。
なんか、怖い…

「そーだよ、こいつは俺と住んでる。これで文句ないか?」
「大ありですよ!!なんで、寮に入らずに…」
「そ、そうだよ!!寮の部屋はまだ余って…」

日向サンが呆れたように2人に近づく。
そして、2人の耳元で何かを呟いた。
その途端顔が紅くなった2人。

「べ、別に…そういうわけじゃないです!!!」
「しかも、男同士だぜ!!?」

…何を言ったんだ?あの人…
まぁ、いいや…
2人が顔を紅くしながらこちらを見たので、微笑んでやると顔を逸らされた。

「ほら、礫。帰るぞ。あ、お前らもし暴露したら…どうなるかわかるよな?」
「「っ!!」」
「じゃ、また明日。2人とも」


おまけ

トキヤ(べ、別に…好きなわけではなくて…ただ、気になるだけで…え?気になるって礫は男で…)
翔(別に好きなわけじゃない!!ただ、アイツが心配で…て、なんでこんな顔が熱いんだよ!!これじゃまるで…)

「日向サン、何言ったの?」
「内緒だ(お前ら、礫のこと好きなんだろ?…なんて言ったけど…結局一番コイツが好きなのは俺か…)」
「つまんないなぁ…」



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