朝少し早く起きて、朝食と弁当の準備を始める。
「昨日の感じからお肉好きなんだろうな」
朝食はスクランブルエッグにベーコン。あとはトースト。
お弁当は唐揚げとウインナー卵焼きの定番な感じ。
「完成。じゃあ、持っていこうかな」
朝食にラップをかけて、お弁当は袋に入れる。
2つを持って、隣の部屋のカギを開けた。
「おじゃまします…」
音をたてないように入って、そっと朝食とお弁当を置く。
「蘭丸さん、まだ寝てる…お仕事、頑張ってくださいね」
返事はないけど、そう呟いて部屋を出た。
「今日は、学校行こう…」
蘭丸さんに元気貰ったしね…
学校に行って教室のドアを開けると視線が全てこちらに集まる。
「礫!!おはよう」
「おはよう…」
駆け寄ってきた翔に視線を移す。
「昨日、どうしたんだよ。みんな心配して…「大丈夫。ちょっと、呼ばれてるから職員室行くね」…え?」
言葉を遮って鞄を乱暴に机に投げ、教室を出た。
なんか、顔合わせにくい…
「Sクラスの御幸。至急学園長室に来なさい」
ちょうどそんなときに流れた放送。
ありがたいが、私何かしたっけ?
首を傾げながら、私は早乙女さんのところに向かった。
「呼ばれました、御幸です」
「待ってマシター。ユーの歌、大反響ナノヨー」
「ありがとうございます」
早乙女さんがまた、ニヤリと笑った。
「えっと…?」
「ユー、他の歌手に楽曲を提供してみませんカー?」
「他の…歌手…?」
「イェス」
…他の歌手…か。
「生意気、言っていいですか?」
「言ってみろ」
突然真面目になった声。
私は手をギュッと握り、早乙女さんを見る。
「楽曲を提供するのは俺が、俺の歌を歌ってほしいって認めた人だけです。歌えない奴にあげるくらいなら俺が歌います」
「…HAHAHAーいいでしょう。ただし、中途半端な歌は認めまセーン。いいな?」
「中途半端な歌なんか歌わせないよ。」
早乙女さんは満足したように笑った。
「詳しくは後で伝えマース。楽しみにしていますヨー」
頭を下げて、学園長室を出た。
完璧な歌を、作りたい。
自分自身の力で、作ってみたい。
こんなところで燻ってる場合じゃないんだ。
いつか、蘭丸さんにも歌って欲しいな…
「礫!!」
聞き慣れた声。
振り返るとトキヤがいた。
「あ、あの…礫、私は…」
「おはよう」
「、え?」
「また遅刻?」
****
遅刻して学校に行くと礫の後ろ姿が見えた。
一昨日のこと、謝らなくては、と礫を呼び止めるとゆっくりとこちらを見た。
「あ、あの…礫、私は…」
「おはよう」
「、え?」
「また遅刻?」
いつも通り微笑んだ礫に体が動かなくなった。
「えっと…はい…」
「両立しなきゃいけないのはわかるけどよ、無理すんなよ?」
「わかっています」
…覚えて、ない?
そんなわけないですよね?
彼が一番気にしていることを言ったのに。
「どうした?眉間に皺寄ってるぜ?」
「あ、いえ…あの、一昨日の…」
「ん?一昨日?あぁ、勝手帰ってごめんな。ちゃんと寝れたか?」
「はい」
…なかったことに…してる。
****
一昨日のこと話題にだされるとは思っていた。
別に怒ってるわけじゃない。ただ、もういいんだ…
「教室行こうよ。俺もお前も遅刻だな」
「そうですね。礫は何をしていたんです?鞄持ってないみたいですけど…」
「ん?学園長に呼び出されてた。無断欠席に怒ってた」
ま、嘘だけどこれが一番マシな嘘だろ?
教室に戻ってすぐに、授業が始まった。
頭の中は曲を作るのことばかりだけど。
蘭丸さん、ベースかしてくれないかなぁ…なんて、無理か…
昼休み、こないだの奴のドラム書いて…
あと、何書こうかな…
****
授業が終わると礫は真っ先に教室を出た。
「礫、授業が終わった途端教室飛び出していったな…」
「けど、テスト近いわけじゃないよ?どうしたんだろう」
「…見に、行きますか?彼が何をしているのか…」
私の言葉に、レンと翔が頷く。
「なんか、どんどん離れていっちまってる気がすんだよな、俺」
「それは、俺もかな…放送で、歌を歌った時以来…距離がある」
「俺は、高所恐怖症を治すあたりか?」
七海春歌と彼らが関わってから…か。
やっぱり、礫は…彼女が羨ましいのか?
「イッチー?どうしたんだい?」
「いえ…なんでもないです…なんでも…」
…けど、私には何も出来ない。
もう、彼の支えになれない。
直感的に、そう思った。
昼休み、鞄を持って教室をでた礫を3人で追った。
礫が入ったのは普段使われない奥まったレッスンルーム。
「…こんなとこで、なにしてんだ?」
翔がドアの窓を覗く。
聞こえてくるのは、ドラムの音だ。
「…ドラムかい?」
「あぁ、ドラム叩いてる。てか、上手くね?」
「上手ですね…けど、どうしてドラムなんか…」
3人で顔を見合わせる。
「作曲のため、なんだろうけど…ドラムまで自分でやるものなのかい?」
「いえ、普通はパソコンでやったりしますけど…」
「ん〜…ここは、もっと…こんな感じの方がいいのかな」
礫の声がして、太鼓の音がする。
「あ、こっちの方が良い。じゃあ、これは…」
「マジで、自分で作ってんのかよ…」
「みたいだね。礫ってここまで一生懸命にやってたんだ」
「…そうですね…努力、してる」
通しで聞こえてくるドラムの音は、やはり人よりもうまいと感じるものだった。
「完璧な歌、作りたいな」
中から聞こえた声に、3人で首を傾げる。
「完璧な歌?」
「今、そう言いましたね…」
まだ、ドラムが鳴りだす。
「そういえば…お弁当食べてくれたかな…」
礫の呟きに首を傾げる。
「お弁当?誰かにあげたんですか?」
「さぁ、俺達じゃねェし…他のクラスか?」
「他のクラスに行ってる様子はなかったけどね」
謎が、増える。
なんで完璧に拘ってるんだろう?
お弁当を渡した相手は?
「…何してんの?」
ドラムの音が消えたと思ったら頭上から落とされた音。
「礫!!?こ、これはだな…えっと…」
「落ち着きなよ、チビちゃん」
「チビって言うな!!じゃなくて…えっと…」
「用がないなら、さっさと教室帰れば?」
不機嫌な瞳が私たちを映す。
「…わ、悪かった…」
「なんで、そんな必死にやっているんだい?」
「…なんで?簡単だよ。認めてもらうため」
「礫の実力はみんな認めてるじゃん」
翔の言葉に、礫が笑った。
「天才だから?」
「え?」
「まぁ、いいや。練習するから…帰って」
礫はドアを閉めて、またドラムを弾きはじめた。
「どういう意味だ?」
「わからないのかい、チビちゃん。まぁ、チビちゃんにはわからないかもね」
「どういう意味だ、レン!!」
「…帰りましょう?邪魔になります」
その頃、蘭丸は―…
「あれ、らんらんー。そのお弁当どうしたの?え?手作りだよね?」
「だから、なんだよ」
「誰か作ってあげるような人、いたっけ?」
「愚民の食い物にしては美味そうだな」
「あげねぇよ、テメェらには!!ん、唐揚げ美味い…」
「ちょっと、らんらん。一口!!食べたい食べたい!!」
「うるせぇよ」
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