夕飯を作っていると電話が鳴った。
「もしもし?」
『礫!!大丈夫か!!?生きてるよな?』
「生きてるよ」
切羽詰った日向サンにクスクスと笑う。
「仕事、どう?」
『え?あぁ、まぁ…大変だけど平気だ。て、それよりお前の方が心配だ』
「俺は、平気。また、助けて貰ったから。」
『一ノ瀬にか?』
少し、声が低くなった気がする。
怒ってる?
「違う。もっと、優しい人」
『…誰だ、それ?』
「内緒。あ、俺の歌…他の歌手に提供することになったんだって」
『そうか…』
「早く帰って来てね。無理しないで」
『あぁ、じゃあな。』
電話を切って、俯く。
「トキヤには…もう、頼らないよ」
夕食を作って、隣の部屋のドアを開ける。
「おじゃましまーす。蘭丸さん、いますか?」
「おう、入っていいぜ」
ベースを弾いていた蘭丸さんが手招きした。
「夕食です。あ、朝と昼…平気でした?」
「あぁ、上手かった。唐揚げと卵焼き。俺の好みだった」
「ホントですか?よかった…」
お弁当箱と食器を回収して帰ろうとすると頭に手を乗せられる。
「学校、どうだった?」
「…周りとは距離ができました。けど…いいこともあったんですよ?」
「いいこと?」
「はいっ。今は、話せないんですけど…いつか、胸張って言いますね」
いつか、蘭丸さんの隣に立ちたい…なんてちょっと思ったりする。
なんか、似てるんだよね…蘭丸さん。
「楽しみに、してるぜ?」
「楽しみにしててください。じゃあ、また明日。ご飯持ってきます」
「おう、じゃあな。……礫」
「はい?」
「なんかあったら、言えよ。俺は、お前の味方になってやる」
はい、と答えて外に出る。
「…カッコイイ、かも…」
部屋のベランダに出ると、かすかにベースの音がする。
「…なんか、安心する…」
ベランダに椅子を出して、歌詞を書きはじめる。
辺りが暗くなって、星が出るまでずっと手を動かし続けた。
****
次の日。
今日、日向サンが帰ってくる。
家に帰らないでそのまま学校に来るらしい。
「ん〜…」
朝の陽ざしを浴びながら体を伸ばす。
「あ、御幸君!!」
「ん?あぁ…七海。おはよう」
湖の畔にいた私に声をかけたのは笑顔の七海だった。
「おはようございます。何してるんですか?」
「ん?作曲のネタを探しにね…七海は?」
「私もです。ちょっと、早く目が覚めたんです」
まぁ、七海の笑顔って可愛いし?変わっちゃうのはわかるよね…
私にはこんな笑顔できないし…
「御幸君っていつもどんな風に作曲しているんですか?」
「俺は…こういう場所にきて、音の流れてないイヤホンをすると自然とメロディーが流れてくるんだよね」
私にしか、聞こえない音…なんだけどね?
七海はそれを信じたようで目をキラキラとさせる。
「私、御幸君と一緒に作曲してみたいです」
「頼まれればお手伝いはしてあげるよ。まぁ、俺の作曲なんかより七海の曲の方がみんな好きだと思うぜ?」
「そ、そんなことないですよ!!御幸君の曲って私スゴイ好きです。曲によって雰囲気が全然違くて…けど、凄く温かい」
ノートをギュっと抱きしめて、七海は目を閉じた。
「ふわふわしてて、優しくて…でも、力強くて…人を引き付ける不思議な感じ…それに歌に愛があって…御幸君みたいなんです」
「俺みたい?…だったら、1つ間違ってるかな?」
「え?」
「俺には、愛はないと思うよ?」
クスクスと笑いながらそう言うと七海が、首を傾げた。
「そんなこと、ないと思います。だって、御幸君…一ノ瀬さんや翔君、神宮寺さんのこと凄く大切にしてる」
「…そう?」
「はい。一ノ瀬さん、御幸君といるときだけとても幸せそうに笑ってる。御幸君も…」
…私も?
トキヤといるときに?
……そんなこと、ないと思うけどな…そりゃ頼ってはいたけど…
「…七海、トキヤのことよく見てるんだね。」
「え?えぇ!!?そ、そんなこと、ないです!!」
「七海って、周りを良く見れてると思う。曲も綺麗だし…もっと誇っていいと思うよ?」
「そ、そんな!!私なんて、全然ですよ…周りに頼ってばかりで…迷惑ばかりかけて…」
表情が暗くなった。
こんな顔もするんだ…
「仲間なら、頼っていいんじゃない?みんな、七海の頑張りを認めてる。そういう環境にいれることってスゲェ幸せだよ?」
「そう、なんですかね…」
「そうなんだよ。音也も聖川も、翔もレンもお前を必要としてる。七海の実力も努力も認めてる…。アイツらは七海にもっと頼って欲しいって思ってると思うよ?」
「…あ、の…御幸君には…頼っちゃいけませんか?あ、いや…えっと…ア、アドバイス…とか欲しくて…えっと…」
顔を紅くして、わたわたと慌てだした七海に私は吹きだした。
「な、なんで笑って…」
「いいよ、頼れば?まぁ…俺に教えられることなんてないと思うよ?」
…あぁ、私汚いな。
笑ってるけど、心が…笑えない。
羨ましいって…思ってる。
認めてもらえてる七海が、羨ましくて、憎くて、妬ましくて。
「あ、ありがとうございますっ!!!」
「どういたしまして?」
『Sクラスの御幸礫。校内にいたら職員室に来なさい』
「ごめんな、呼ばれてるみたい」
「あ、お話できて楽しかったです。あの、最近よく職員室に呼ばれたりしてますけど…何かあったんですか?」
「ん?そうだね…授業聞いてなくて怒られちゃうんだよ」
「えぇ!!?御幸君が?」
驚いた七海の頭に手を乗せて、笑う。
「みんなには、内緒な」
立てた人差し指を唇に当てて微笑む。
「じゃ、またね」
「は、はい」
私は何をしてるんだろう。
心がぐちゃぐちゃになってる気がする。
…はぁ…最低だな、私
表情を作りなおして、職員室のドアを開いた。
「失礼します」
「礫!!久しぶりだな」
「あ、日向サン。帰ってきたんだね。あれ、もしかしてさっきの放送ってこれだけ?」
あぁ、と言って日向サンが笑う。
放送の私物化が進んでるよ、いいのか?
「元気そうじゃねぇか、礫」
「まぁね。日向サン、少し痩せた?疲れてるね」
「そうだな…」
「夕飯、俺が作るから」
私の言葉に、笑った頭を撫でてくれた日向サン。
この温もりも、変わらないな…
「そういえば、お前を助けてくれた優しい奴って誰だ?」
「まだ、気にしてたの?」
「そりゃあな」
まぁ、ご飯も届けにいくから結局バレるのか…
けど、なんでだろ…言いたくない…
「内緒、かな。」
「はぁ?」
「もうちょっと、秘密の関係でいさせてよ」
クスッと笑って、日向サンのくれたリングを手のひらで転がす。
「俺達の、関係みたいにな?」
「っ!!?」
「…このリング、彼女から貰ったって思われてんだって。…じゃ、夕飯楽しみにしててね、彼女さん」
「あ、おい!!」
手を振りながら、リングにキスをして日向サンを見ると顔を真っ赤にして目を逸らされた。
「ごめんね、蘭丸さんのことは…いいたくないんだ」
****
礫が、なぜか別人に見えた。
扇情的に微笑んで、リングにキスした礫に顔の熱が離れない。
「あら、龍也。何顔真っ赤にしてるのよ」
「り、林檎…」
「あ、分かった…礫ちゃんでしょ?」
林檎の言葉に視線を逸らす。
「なんか、礫ちゃん。いや、礫君?学校休んだ次の日からいい顔するのよ?モデルとか向いてるかも」
「…なんつーか、やべぇ…」
「ま、無意識だからもっと、ね?」
林檎がクスクスと笑う。
「まぁ、恋愛禁止よ?し・か・も一緒に住んでるんだから…」
「…わかってる。けど、」
「あーぁ、礫君。モテるわね、ホント」
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