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ライブ会場は凄い人で女の子が多い。
「女、多いな…」
「蘭丸さん、苦手なんでしたっけ?」
「あぁ…嫌いだ」
「俺も女なのになぁ…」
蘭丸さんを見上げながら言うと、頭をガシガシと撫でられた。
「お前は、特別」
「それ、喜んでいい?」
「いいんじゃねぇか?」
まぁ、いいか…
ふと、空に視線を向けると曇天がひろがっていた。
「…雨、降りそうっすね…」
「そうだな…」
ライブ会場の一番後ろに立つ私と蘭丸さんは空を見上げる。
「…嫌な、予感がする…」
「え?」
「いや、すいません…」
トキヤ…
画面にHAYATOが映し出されると歓声が上がった。
大丈夫なのかな、トキヤ…
画面から視線を下に移動させると右手を掴まれる。
「え?」
「大丈夫だ…礫が、何を気にしてるかわかんねぇけど…俺がいる」
「…ありがと…」
その手をぎゅっと握り返す。
トキヤ…無理、しないでくれよ…
舞台に降り立ったHAYATOが笑顔で歌い始めた。
だが、聞こえてきた歌声に目を見開いた。
「ぇ…」
「なんだ、これ…歌に」
「心が、ない…」
私と蘭丸さんは顔を見合わせる。
「昔はもっとマシな歌、歌ってたよな?」
「確か…そうだったと…歌に、心がないし…どこか、辛そう…」
間奏に入って、HAYATOがスピンをしたとき、マイクが彼の手から離れた。
「あ…」
怪我した足に体重をかけた瞬間に見えた苦しげな表情。
舞台の上にHAYATOは腕を力なく下した。
ファンからの声援が響くなか、空から雨が降ってきた。
そして、照明に雷が落ちる。
声援は悲鳴に変わり、ファンの人達は足早に逃げていく。
「HAYATOーー!!!」
舞台の上に立つHAYATOに向かって叫んだのは四ノ宮だった。
「何故偽りの歌を歌う?」
四ノ宮が柵を乗り越えて、舞台に近づく。
「七海、眼鏡!!」
翔が焦ったように、七海に告げた。
スタッフをかわして、四ノ宮は舞台の上に上がっていく。
「礫…あれ、お前の学校の…」
「はい…」
「どうする?」
ここにいたら、トキヤに気づかれる。
蘭丸さんのこともみんなにバレる…
けど、足が動かなかった。
「光を浴びているがお前の本心は真っ暗な影さ。イライラするぜ…俺は自分を偽らない…四ノ宮那月の影さ」
…四ノ宮の様子も変だ。
私は繋がれた右手をぎゅっと握る。
「ごめん、蘭丸さん…濡れちゃうな…」
「んなこと、気にすんな……」
私は舞台をじっと見つめる。
「俺の歌を聞け」
四ノ宮の言葉に、HAYATOが頷いた。
流れ出した音楽と歌い始めた四ノ宮。
歌には心があって、迫力があったけど別人だった。
「…七海?」
舞台に上がった七海に音楽が止まった。
舞台上で七海を抱き寄せた四ノ宮。
「…礫、大丈夫か?…怖い顔、してるぜ」
「平気…」
一瞬、四ノ宮の動きが止まって、後ろから翔がひよこの帽子を被せた。
確か、ピヨちゃんとかいうキャラクターの…
「行くぞ!!」
「え?どうしてですか?」
「いいから!!」
翔に腕を引かれる四ノ宮はいつもの四ノ宮戻っていて、2人が舞台から走り出す。
それを追いかけた七海が、コードに足を引っかけ体が傾く。
それを、HAYATOが抱き留めた。
「…行こうか、蘭丸さん」
「あぁ…いいのか?」
「もういいや。どうせ、トキヤも…七海に変えられる」
雨が強くなった。
近くの屋根付きのところに逃げ込む。
「ごめんなさい、蘭丸さんまでびしょびしょ…」
ハンカチで、蘭丸さんの頬の水滴を拭く。
「俺は、平気だ…お前こそ、平気か?」
「うん…大丈夫…」
「…たく、無理すんなよ…泣きそうだぜ?」
抱きしめられて、頭を撫でられる。
「…大丈夫だ…無理、すんなって…」
「…うん……ありがと…」
マンションの前についたときにはお互いの服もびしょびしょで裾から水が滴り落ちていた。
「とりあえず俺の部屋、来い」
「ん、ありがと…」
蘭丸さんの部屋で、タオルを渡される。
「びしょびしょだね」
「だな、風邪ひくなよ?」
「蘭丸さんもね?」
買った洋服は濡れてなかったからよかったなぁとか思いながら髪を拭く。
「ちょっと!!蘭丸さんまだ髪濡れてる!!」
「平気だっつーの、これくらい」
「ダメだよ!!」
蘭丸さんの肩にかけられたタオルで髪の毛を拭いていく。
「…サンキュ」
「どういたしまして」
「もう、平気か?」
顔を覗かれて、私は微笑んだ。
「平気だよ。」
「ならよかった」
「心配させてごめんね。ご飯作ろうか?」
私の言葉に、蘭丸さんが笑った。
「おうっ!!」
蘭丸さんと別れて、自分の部屋に行く。
「ただいま、日向サン」
「おかえり、濡れただろ?」
「少しだけね」
笑いながら部屋に入って荷物を置いた。
「風呂入ってくる」
「おう、風邪ひくなよ?」
「平気。ありがとう」
シャワーの熱が体を温める。
「……どうせ、トキヤも…」
私には、何も出来ない。
何もしてあげられない…
手を差し伸べたって、傷つけるだけなんだ…
「私は、無力だ…」
壁を殴って、ずるずるとしゃがみ込む。
「…クソッ…」
握りしめられた手のひら。
少し前まで、トキヤと繋がっていたはずの手。
「私が悪いの?…朱利に、ならなければ…」
こうはならなかったの?
わからない。
わからないよ…
「教えてよ、朱利…」
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七海さんを支えたとき、視界の端に映った銀髪。
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次の日、私はいつも通りお弁当を届けてから、学校に行った。
「おはよう、トキヤ」
「おはよう、ございます」
教室でいつも通り挨拶をかわして、席に着く。
腕には蘭丸さんとお揃いのブレスレットがついている。
「あの…」
「ん?どうかした?」
「少し、いいですか?」
私は何もなかったかのように演じて、トキヤと人のいない教室に入った。
「どうした?」
「あの…昨日の、HAYATOのライブ…」
「あ、ライブ昨日だったのか?お疲れ」
微笑んで言うと、トキヤが目を見開く。
「ん?どうした?」
「あの、昨日…どこにいましたか?」
「昨日?知り合いと買い物行ってたけど?」
嘘は、ついてない。
そのついでに見に行ったのは…秘密で…
「そう、ですか…礫に、よく似た人を見たので。誰かに腕を引かれて…出ていく姿を、」
「見間違いじゃない?俺は行ってないし」
「そう、ですよね…」
俯いたトキヤの頭を撫でる。
「お疲れ様…」
「はい…」
ごめんね、トキヤ…
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