ライブから数日後、私は学園長室にいた。

「来週の月曜日に、ユーとユーの歌を歌う人たちの顔合わせがありマース」
「了解です」
「完璧な歌、出来てマスカー?」
「はい」

私は自信満々に答えた。

「他人に、聞かせて恥じない歌を…作ってます」
「楽しみデスネー」

朱利として、沢山の歌を…届けたい。
もう、そうする以外に道がわからないから。

「早乙女さん」
「なんでショウ?」
「……いい歌を、届けられるように頑張ります」

それだけ伝えて私は部屋を出た。
耳のピアスに手を添える。

「…1人で、頑張らないと…」

もう、離してしまったから。
繋いでいた手を…

「貴女、最近調子乗ってない?」

レッスンルームで練習しようと学園長室から向かっていた時だった。
聞こえてきたのはあんまりいい雰囲気には思えない声だった。

音をたてないように曲がり角の先を見れば窓際に女子が集まっていた。
3人の女子に囲まれているのは…七海?

「レン様に近づいて…何様のつもり?」
「あ、あの…神宮寺さんはただのお友達で…」
「来栖君とか、音也君、聖川様にだって近づいて…」
「近づくなんて!!皆さん、私の大切なお友達です!!」

なるほど…女の嫉妬は、醜いね…
あぁ、けど私が抱いているものも女の醜い嫉妬か。

「御幸君にも媚び売ってるんでしょ!!?」

え?私?
…女に媚び売ってどうすんのさ…

「離れてよ、みんなから」
「い、嫌です!!みんな大切なお友達なんです」

ふと、気づく。
七海の後ろの窓が開いていた。

「これって、ヤバいんじゃ…」
「い、いいから離れなさいよ!!」

女の子の1人が七海の体を押した。
ふわりと、足が浮いて後ろに傾く。

「やっぱり…」

私は急いで、走り出す。

「え?」
「お、落ちた!!?」

女子たちは顔を青くさせる。
そんな女子たちを押しのけて窓から体を投げ出した。

「御幸君!!?」
「嘘!!?」

焦った声が聞こえたが、一番焦ってるのは七海だった。

「七海、手伸ばせ」
「は、はい」

手を伸ばした七海を力いっぱい引き寄せて自分の体を下にする。
あそこは、3階だから…平気かな…

「ど、どうするんですか!!?」
「目、閉じて…」
「え?」
「いいから」

七海は震えながら目を閉じる。
七海を抱きしめる腕に力を入れて、私は微笑んだ。

私は、本当によく飛び降りるな。
見上げた空はあの時も、こんな…青空だった。
空が遠くなって、身体に激痛が走った。

「っ!!!?」

体が傾いていたのか右半身から落ちたらしい。

「…っ!!だ、い丈夫か?」
「は、はい!!!御幸君は!!?」
「七海、怪我はないんだよな?」
「はい、私は…けど、」

涙目の七海に微笑む。

「俺は平気」

体を動かして言うと安心したように微笑んだ。

「よ、よかった…何も、なくて…」
「平気だから、七海は寮に戻りな?」
「御幸君は?」
「俺は用事あるから、行かなきゃ」

七海はありがとうございます、と走って行った

「っ〜…痛い…」

右腕が熱を持って、痛む。
指先に流れてきた血に溜息をついた。

「3階から落ちて平気なわけねぇだろ、バーカ」

痛む体を無視してレッスンルームに行くと先ほどの女子3人。

「あ、あの…」
「2人とも、無事だから今回は問題にはしない」
「え?」

驚いた顔の女子に、微笑む。

「けど、次はねぇから…わかってんだろ?」
「「「は、はいっ」」」
「だったら、出てけ。七海には謝っとけよ…」
「はい、ありがとうございます」

走って出て行った女子を見送って、私はその場に崩れ落ちた。

「…はぁ…痛い…」

パーカーを脱ぐと右腕は紫色に腫れあがり、木の枝で切れたのか切り傷があった。
そこから、血が止めどなく流れる。

「月曜日、なのに…大丈夫かな…」

この腕じゃドラムは愚かピアノも弾けないだろう。
病院に行くにしても私は別の世界から来てるから保険証がないからな…

「…帰って、手当てしよう」

練習を諦め、家に帰った。
だが、手当てをしようにも右手が使えないため上手くできない。

「…蘭丸さんに頼むか…いるかな…」

包帯やガーゼを持って隣の部屋のチャイムを鳴らす。

「はい?て、礫?どうした?」
「あの…手当て、して貰えますか?」
「は?」

蘭丸さんに腕を見せると、すごい勢いで部屋に入れられた。

「ソファに座れ」
「はい」
「お前、何したんだよ…」

私の前にしゃがんで、血を拭きとる蘭丸さんが心配そうに私を見つめる。

「七海が、窓から落ちて…それを庇って…」
「は?なんで、窓から落ちるような場面になんだよ。てか、なんで庇ってんだよ!!」
「七海は…女の子だし?」

放っておけるほど…冷たくなれなかった。
それに、そのまま…死ねたらって…どこかで考えてた。
七海が死ぬくらいなら私が死んだほうが…いいんだ…
蘭丸さんが呆れたように溜息をつく。

「お前も、女だろ」
「そう、だけど…俺は…慣れてるから」
「なんで、窓から落ちるのに慣れるんだよ」

傷口に絆創膏を貼られ、その上から湿布が貼られる。

「骨は、平気なんだよな?」
「あぁ、多分。そこまで痛くないから」
「…病院行けよ」

綺麗に包帯を巻かれた腕を眺める。

「…楽器、弾けないよね?」
「腫れが引くまでは安静にしとけよ」
「…はぁ…」

月曜日、間に合うかな…
練習も足りてない。
もっと、作らないといけないのに…

「礫、少しは自分を大事にしろよ」

蘭丸さんは私を、労わるように抱きしめた。

「あんまり、心配させんじゃねぇよ…」
「…ごめん…」
「…お前だって、女なんだ…自分を大事にしろ」

…自分を大事に、しろか…
日向サンによく言われたな…

「蘭丸さん、俺は…自分を大事にする方法を知らない…」
「は?」
「俺には、そんな価値も…ないし。俺が死んでも…七海が生きてればいい」

元々、ここにいるべきじゃないんだから…

「…許さねぇよ」
「え?」
「俺から、勝手に離れるなんて許さねぇからな…」

色の違う瞳に見つめられて、私は固まる。

「…勝手に、消えようとすんじゃねぇよ」
「…ごめん」
「わかれば…いい」

勝手に消えちゃいけないなら、蘭丸さんが私を殺して。
なんて、言えなかった。
泣きそうな蘭丸さんにただ、俯くしかなかった。

怪我のことがバレないようにパーカーを着て、夕飯を作る。
痛みはあるが、まぁ…我慢は出来ないほどじゃなかった。

いつも通り、蘭丸さんに届けると今日くらいは作らなくてよかったのに、と言われた。

「日向サン、おかえり。ご飯できてるよ」
「ただいま、サンキュ。て、なんでパーカー着てんだ?」
「ん?ちょっと、風邪っぽくて…寒いから」

逆に怪我が熱を持って熱いけど…

「無理すんなよ?来週顔合わせなんだろ?」
「まぁ、ね。頑張るから」
「頑張れよ」

ご飯を食べて、今まで作った譜面を眺める。
黒いノートはもう4冊目に入っていて沢山の歌詞が書かれている。
ボカロやRAD、BOC、ビジュアル系も…いい歌は出来る限り歌詞を書いてある。
それに、自分自身で作った歌も増えてきた。

「礫、なにしてんだ?」
「今まで書いた歌詞、眺めてた」
「…結構、書いたよな」

風呂から出た日向サンが隣に座る。

「お前が、ちゃんと音楽好きになってくれてよかった」
「え?」
「無理矢理だったからな、初めが…。なのに、こんな風に頑張ってくれてるわけだ。嬉しくないわけないだろ」
「まぁ…あの時、教えて貰えてよかったなとは思う」

死にたいって気持ちは今もハッキリ残ってて、今すぐに彼の元へ逃げ出したい。
けど、蘭丸さんと仕事してみたいなとか、あの歌を歌いとか…願望もあって…
だから、

「…今はこれでいい」
「そうか…」

今は、このまま…進めば、いいと思ってる。

「そういえば、日向サン仕事持って帰ってきたんじゃなかった?」
「あ、そうだよ。あのクソ親父の…」
「手伝うから怒んなよ?早乙女さんはもう仕方ない」

頭を抱えた日向サンに私はクスクスと笑った。



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