教室に礫が戻ってこなくて、放課後になっても荷物はそのままだった。
保健室にも屋上にもいなくて俺は焦って礫を探した。
途中で神宮寺、一ノ瀬、来栖も手伝うと言って捜索が始まった。
「いた…龍也さん!!」
神宮寺の声のもとに行くと、そこは普段使われないレッスンルーム。
ドラムがあるから礫は好んでここを使っていた。
神宮寺の横に並んで、教室の中を見ると白いチョークで至る所に譜面が書かれていた。
「なんだよ、これ…」
呆然とそれを見つめていると、来栖と一ノ瀬も駆け付ける。
「っ!!?なんですか、これ…」
「わかんねぇ…」
「礫!!?」
譜面の中央にいる礫はピクリとも動かないが、近づくに近づけない。
床に書かれた譜面は今までに見たことのないもので…
立ち入ることで消えてしまう。けど…
「目ェ覚ませ」
「礫、起きなさい」
「大丈夫かい、礫!!」
3人の言葉に、礫はピクリとも動かない。
「…どうする、龍也さん」
「入るしかないだろ…放っておけるわけないだろ?」
「けど、この譜面スゲェいい曲だぜ?」
来栖の言葉に、足を止めた。
****
誰かに、名前を呼ばれた気がして瞳を開ける。
声をする方を見ると日向サン、トキヤ、翔、レンが立っていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、平気だけど…」
右腕はまだ熱を持って痛みを発してる。
けど、ふわふわしていた体はいつも通りになっていた。
ふと、周りを見渡すと真っ白で左手にはチョークが握られていた。
「…俺が、書いたのか?」
自分を囲うように書かれた譜面を、立ち上がって眺める。
その中に見つけた歌詞に目を見開く。
「この、詩…」
頬に、また涙が伝った。
「礫!!?」
驚いた声が聞こえる。
この詩…あの人の詩だ…
あぁ、ごめんね。
頑張るよ…頑張るから。
お願い、傍にいて。
そうだよ、前に決めたじゃん。
こんな所で燻ってられないって…
ちゃんと、前に進むって…
頬の涙を拭って、入口を見る。
「ごめん、帰ろうか」
「大丈夫なのかい、礫?」
「平気」
白い譜面を踏み、彼らに近づく。
「俺には、朱利がついてるから」
「朱利?」
トキヤが首を傾げた。
「頑張れ」
左耳にだけ聞こえた声。
やっぱり、そこにいるんだよね?
温かい、左側に君がいる気がするんだ。
そう、信じてもいいんだよね?
「ありがとう、朱利…」
やっぱり、好きなんだ…
アナタの作った歌。
いつか、舞台に立てるようになったら歌うから…
もう少し待っててね…
「さ、帰ろう?迷惑かけてごめんね」
次の日の朝。
私はAクラスに行った。
いつも通り、七海達が騒いでて翔もそこにいた。
「あ、礫!!おはよう」
手を振った翔に、おはようと返して私は四ノ宮に近づく。
「どうしたんですか〜?」
「ちょっとごめん」
私は四ノ宮の眼鏡を外す。
「「「あぁぁぁぁぁあああああ!!!!」」」
大声を出して離れたみんなを無視して、四ノ宮を見つめる。
ゆっくりと、顔を上げた四ノ宮は昨日会った四ノ宮だった。
「…昨日は、ごめん」
「今日は泣いてねぇんだな」
「俺の傍には、朱利がいるから。君が、四ノ宮那月の傍にいるみたいにな」
微笑んでそう言うと、目を逸らされた。
「ありがとう、四ノ宮」
「砂月だ」
「砂月、な。ありがと。じゃあ、また」
目を閉じた砂月に眼鏡をかけて翔達を見る。
「突然ごめんな。じゃあ」
****
昨日の、告白をなかったことにしてくれたみたいで少し安心した。
けど、礫はまた少し変わってしまった。
「礫ってすごいね!!砂月と普通に会話してたよ!!」
「流石です…」
また礫が遠くに行ってしまった気がする。
なんでだろう?
なんで、こんなに苦しいんだよ…
「昨日は大丈夫だったかい?」
「レン。平気だよ。日向サンには怒られちゃったけどな。て、レンって俺が寮じゃないって知ってんのか?」
「チビちゃんに聞いたよ」
「そっか」
レンが女の子といないなんて、珍しいなぁと思いながら首を傾げる。
「礫は…どんどん変わっていくね」
「え?」
「俺達を置いて、どんどん変わっていく」
「…先に変わっていったのは…君達だよ」
頬杖をついて、机の横に立っているレンを見上げる。
「どういう、意味だい?」
「そのまんま。君達が俺を置いて変わっていった。これからも、変わっていくよ」
七海と、変わっていく。
変えられていく。
俺とは違う方向へ進んでいくんだ。
「けど、それでいいんだ。どんどん変わっていけばいい」
「礫と一緒には無理なのかい?」
「無理だね。俺は、君達とは違うから」
俺は俺の、朱利の歌を歌うためにいる。
けど、君達は歌を歌うためにいる。
多分、七海の歌を歌いたいんでしょ?
「まぁ、見守ってはいるよ」
「よくわからないよ、礫」
「わからなくていいよ」
クスクスと笑うと首を傾げられた。
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