私は今、車に乗って顔合わせに向かっています。
隣には早乙女さん。

「スゴイ荷物デスネー」
「今まで作った歌の譜面とかだよ」
「期待、してマース。」
「頑張ります」

右腕は結局治っていない。
まだ紫色に腫れあがっているし、痛みは残ってる。

「腕は大丈夫デスカー?」
「え!!?」
「気づいてないと思ってたんデスカー?」

…早乙女さんだもんな…
バレてても仕方ないか…

「大丈夫です。痛みはありますけど…楽器は弾けます」
「…miss七海を突き落とした生徒には今回は罰を与えていまセーン。ユーがそう言ったからデスヨー?」
「ありがとうございます」

あの子たちは今は真面目に頑張ってるみたいだから…罰はいらないと思うんだよね。

「あと、ユーが真っ白にした教室は掃除しておきマシター」
「あ、どうも…」
「いい歌デシタヨー。歌わないんデスカー?」

私はピアスに触れる。

「歌いますよ、ちゃんと。けど、まだ…力が足りない」
「楽しみにしておきまショウ」

車が止まって、どこかの建物の前に降ろされた。

「ここの、10階か…」

エレベーターに乗って、言われた通りの部屋の前につく。
時計を見ると15分前。
まぁ、早いけどいいかな…

「今日だよね?朱利さんがくるの」
「愚民の歌など歌えるか」
「そんなこと言わないの!!」
「いい歌詞を書いてる方だと僕は思うよ」

うわぁ…なんか、無性に行きたくない。
愚民って何、愚民って…
まぁ、いいや。

ピアスに触れて、視界に入ったブレスに微笑む。

「行くしか、ねぇよな」

ドアをノックすると「入っていいよー」と楽しそうな声が聞こえた。

「失礼します」

頭を下げて、部屋に入って顔を上げる。

「今回、皆さんに曲を提供することになりました。朱利です…て、蘭丸さん!!?」

驚いた顔の蘭丸さんに俺は固まった。

「お前…なんで…」
「えっと…話すと多少長いんですけど…」
「何?蘭丸の知り合い?」

…そういえば、早乙女さん。事務所の先輩に提供するって言ってたよな…
蘭丸さん、先輩じゃん…
あぁ、早くも1つ夢が叶いそうです。
蘭丸さんに事情を説明すると納得してくれたらしい。

「らんらんと、朱利君はどういう関係なの?」
「らんらん、って蘭丸さんのこと…ですよね?えっと、困ってるときに助けていただいて…」
「へぇ、蘭丸が人助けね」

無表情の少年が蘭丸さんを見る。

「なんだよ」
「別に?珍しいなぁって思っただけ」

…さてと、どうしようかな…。
まさかの事態に余計な時間を使ってしまった。

「すいません…仕事の話させて貰っていいですか?」
「あ、ごめんね。いいよ」

そういや、この人たちの名前がわからない。
…まぁいっか。

「今回、楽曲を提供するにあたって俺の歌を歌ってほしい人を選びたいと所長に伝えたので事務所の方全員の歌を聞かせて貰いました」
「その中で、僕たちが選ばれたってこと?」
「そういうことになります」

鞄から、譜面を入れてるファイルを出してパラパラと捲る。

「残念ながら、皆さんの歌を聞いたのはそれが初めてだったので皆さんの歌いやすい歌がどんなものかわかりません。なので、選んでください」
「は?」

優雅にコーヒー飲んでいた人まで固まった。

「現在、作詞作曲が共にできている曲は150〜200以上あると思われます。」

机の上に、ファイルを並べていく。

「これをそのまま歌ってもらっても構いませんし、アレンジすることもできます。歌いやすい音程だけ言って貰って1から作るのでも構いません」
「お前、こんなに書いてたのか?」
「あぁ、はい。作詞だけならまだたくさんありますよ」

黒いノートも机の上に出す。

ファイルごとの曲調を説明すると、コーヒーを飲んでた人がファイルを開く。
それにつられてみんなファイルを開いた。

「そういえば、朱利は僕たちの名前知ってるの?」
「知りませんよ?」
「知らないの!!?嘘、お兄さんショック」

お兄さん…?

「僕は美風藍。15歳」
「寿嶺二だよ」
「カミュだ」

美風さんは年下なんだ。
他は年上、ね…
うわぁ、やりにくい。

「君のことは朱利でいいんだよね?」

寿さんが首を傾げる。

「あぁ、はい。芸名ですけど」
「本名は?」
「言いませんよ?俺、朱利として歌を届けたいので」

笑って言うと蘭丸さんに頭を撫でられた。

「うわっ!!?」
「最近、いい顔するようになったよな」
「そうですか?…まぁ、歌を作るの楽しいです」
「ちょっと、イチャイチャしないでよ」

美風さんに腕を引かれる。

「イチャイチャって…男同士ですよ?」
「いいの。ねぇ、この歌のここ…どんな感じに歌うの?」

指差された場所を見てあぁ、難しいもんなと思った。

「ピアノかキーボード、ありますか?」
「あるよー、そこに」

寿さんが指差す先に置いてあるキーボード。
あれ?部屋に入った時なかったよな…
まぁ、いっか…

数回音を出して、譜面を捲る。

「…同じ譜面?」
「違いますよ。これは、ピアノ用の譜面です」
「ふぅん…」
「歌って、いいですか」

みんなが頷いたのを確認して、弾きはじめる。
腕が痛むけど、こないだみたいに音は硬くない。
弾き終えて、みんなの方を見ると驚いていた。

「…えっと、大丈夫ですか?」
「上手だね…」

美風さんが、じっと私を見つめた。

「朱利君スゴイ!!」

寿さんがスゴイ勢いで抱き着かれた。

「結構やるな…」
「また上手くなったな」

カミュさんが驚いたように言って、蘭丸さんは嬉しそうに微笑んだ。

「朱利、自分でもっと歌えばいいのに」
「俺はまだ学生なので。今は、いいんです」
「ふぅん…僕は、これ歌う。いい?」
「はい」

美風さんが選んだ曲に付箋をつける。

「こういう、2人で歌う曲ってどうするの?」
「あぁ…作るだけ作ったんですけどね…いつか、誰かと歌おうと思ってますよ」
「…僕と歌う?」
「え?」

美風さんは少し笑ったように、見えた。

「…俺は、別にいいんですけど…早乙女さんの許可、必要ですよ?」
「じゃあ、今回のが成功したらお願いしよう」
「あ、はい」

その後、みんなも曲が決まった。
所々アレンジが必要な所もあるみたいだったけど…
頑張らないといけないな…

「それにしても、本当にすごいね。朱利君」
「そんなこと、ないですよ」
「お前、怪我治ってないよな?そんなに弾いて平気なのか?」

蘭丸さんが心配そうに言った。

「平気です、多分」
「朱利、怪我してるの?」
「あぁ、はい。右腕を少し」

どうも、美風さんに気に入られたみたいで私の隣からは退かない。
それをみて寿さんはニコニコと笑っていて、カミュさんはいまだ譜面を眺めている。
蘭丸さんは呆れたように溜息をついた。

「歌を作る人は、怪我しちゃダメだよ。これから歌を歌うならもっと体を大事にしないと」
「藍、それを朱利に言っても無駄だぞ」
「え?」

蘭丸さんの言葉に私は笑う。

「そうですね、俺に言っても無駄です」
「どうして?」
「だって、俺は自分を大事にする方法なんか知りませんから」

机に広げられたファイルを片づけていく。

「えっと、次の時はそれぞれの歌のサンプルを持ってきます。蘭丸さんは家でいいですよね」
「あぁ」
「皆さんは、次に会うときは1人1人なので…そのときアレンジとかもしていきます」
「はーい」

この4曲を歌って録音するのかな…
で、まぁ…美風さんとのコラボが出来るようにデュエット曲も歌っておこうかな…

「朱利はこの後どうするの?」
「え?あぁ…案外早く終わったので家で弁当食べて準備しようかなかぁと…」
「せっかくだし、ここで食べていけばいいんじゃない?お兄さん大歓迎」

…みんな食べていけって雰囲気だったので私は頷いた。

「じゃあ、そうさせてもらいます」



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