そして、やってまいりました夏季合宿。

「ん〜…眠い…」
「眠いって、なんでそんな元気ないんだい?」
「あ、レン。そうだね、俺には関係ないからかな…」

荷物を横に置いて体を伸ばす。

「ペアとか、俺にはいらないわけだし?」
「そういうなって、礫。一緒に楽しもうぜ?」
「翔…まぁ、善処はする」

日差しがキツいなぁ…
なんて思いながら、溜息をついた。
日向サンが説明してるのを聞かずに、私は1人コテージに歩いて行った。
七海とトキヤが目を合わせてるのが遠くから見えて、視線をずらした。

「礫、お前も遊んできただどうだ?」

コテージのドアを開けたのは日向サン。

「遠慮しとく。どうでもいいや」
「どうでもいいって…折角の合宿だぞ?」
「俺には関係ないじゃん?」

譜面から視線を日向サンに向ける。

「礫、最近…学校で他の奴とあんまり喋らねぇよな」
「…そうだね…てか、日向サンも早くと行けば?監視してないとなんでしょ?」
「え?あぁ…行くけど」

日向サンを見送ってから、コテージの柵に海の方に足を投げ出して座った。

「おーい、礫!!いるか?」

ガチャとドアが開いて入ってきたのは翔。

「何?」
「お前、そんなとこ座ってるとあぶねぇぞ!!?て、お前なんでパーカーにズボンなんだよ。水着は?」
「…怪我、治ってないから」

近付いてくる足音。
音が止まると、体に腕が回された。

「…お前、最近…変だよ…」
「…別に…そんなことないけど」
「…そっか…その、怪我…マジで、どうしたんだよ…」
「なんでもない」

翔の腕を外して、柵から降りる。

「俺はここで作曲してるから、行ったら?ペアの相手、決めるんだろ?」
「そ、それは…一応、決めてある」

紅くなった顔を隠すように俯いた翔に視線を逸らす。

「そう、だったら…遊んできなよ」
「礫は、行かねぇの?折角の合宿なのに」
「俺はいいよ、疲れてるし。」
「わかった…」

部屋から出て行った翔。
折角の、合宿ね…
翔のパートナーは七海かな…

青い海に一度視線を向けて、ベッドに座る。
ウォークマンの曲を聞きながら、目を閉じた。


目が覚めたら夕方で、携帯には着信履歴。
携帯を片手に外に出る。

「うわー、真っ暗…」

適当な所で足を止める。

「もしもし」
『礫か?』
「蘭丸さん、電話出れなくてごめんなさい。寝てました」
『合宿なのに寝てんのかよ』

電話の向こうの笑い声に自分も笑う。
くるっと後ろを向くと、トキヤがいた。
バッチリ、目が合って離せなくなった。


****


聞い慣れた声がプールサイドに聞こえてきて、そちらを見ると礫がいた。
楽しそうに笑いながら電話をする彼から目が逸らせなくなった。
あんなに近くにいたはずなのに、いつの間にか遠くなっていた。
こちらを向いた礫と視線が合う。
礫は驚いた顔をしてけど、すぐに何もなかったかのように話し始めた。
今日は1度も礫と喋ってない気がする。
いや、礫の姿さえも見ていなかったような気がする。

「…礫…」

レコーディングルームで言われた言葉が頭の中に流れる。

「どうすれば、いいんですか…」


****


『じゃあ、無理すんなよ』
「ありがと、蘭丸さん。じゃあ、おやすみなさい」
『おやすみ』

電話を終えて視線を戻すとそこにトキヤはもういなかった。

「礫、何してんだよ」
「日向サン。蘭丸さんと電話してた」
「仲良いな」
「まぁ…大切な人達だから」

頭に乗せられた日向サンの手。

「どうかした?」
「あんまり、無理はするなよ。息抜きも大事だろ?最近仕事立て込んでたしな?」
「まぁ、そうだね…」

コテージに戻るとまた携帯が鳴る。

「出ていいぞ」
「あ、はい。もしもし?あ、寿さん!!こんばんは」
『合宿どう?楽しい?』
「疲れました」
『えー、楽しまないと駄目だよー』

日向サンが呆れたように溜息をつく。
そう言えば、卒業生って言ってたっけ?
知り合いかな…

「まぁ…頑張ります」
『頑張ることじゃないよー。そういえばアイアイが歌完璧だよーって言ってた』
「ホントですか?よかった」

その後少し話して、電話を切る。

「楽曲提供、完璧らしい」
「よかったな」

頭の上に乗せられた手が髪をぐしゃぐしゃにする。

「最近、ホント…らしくなってきたな」
「そう?あ、あと今度美風さんとコラボするんだよ」
「そうか、よかったな」

嬉しそうに笑った日向サンに自分も嬉しくなる。

「俺、昼間寝てたから外ぶらぶらしてくる」
「迷子になるなよ?」
「餓鬼かよ。じゃ、寝てていいから」

外を歩いてて偶然トキヤと七海を見つけた。

「一ノ瀬さん」

七海の声が聞こえて、私は木の陰に隠れる。

「あの…」
「君のことを、考えていました」

トキヤの言葉に七海が目を大きくする。

「初めて会った時から君を傷つけ、あの雨の夜も…」
「私が、余計なことを言ったからです…ごめんなさい」

頭を下げた七海。

「謝らないでください。私は自分に腹をたててるだけなんです。トキヤなのか、HAYATOなのか納得のいかない自分に」
「貴方の歌を聞いて私は音楽の虜になりました。…貴方のお陰です。今、私がここに居るのは……貴方の歌が、好きです。HAYATOやトキヤという名前じゃなくありのままの貴方の歌が」
「君は本当に素直な人だ…」

トキヤが、昔のことを話し始めた。
入院して、少年に出会って…
私が聞いたことのないような話。
ほらやっぱり。
トキヤも、七海に変えられた。

「歌いたい…どうしても…私には、歌しかありません」
「聞きたいです…貴方の歌が…お願いです、歌ってください」

泣きながらそう言った七海にトキヤが優しく微笑んだ。

「初めてみます…もう1度…最初から」

七海が帰っていって、トキヤが1人砂浜に残った。

「…トキヤ」
「礫…」
「頑張って?…トキヤなら…大丈夫だよ」

私はふわりと微笑む。

「……ホント、よかったよ」
「礫、私は……」
「トキヤ、俺は…それでいいと思うよ。トキヤが変わることに反対はしてないから」
「え?」
「じゃあね、トキヤ。頑張って?」

背を向けて歩き出そうとすると、腕を掴まれる。

「…なに?」
「変わってしまってすいません…私は…」
「人はみんな、変わっていくものだよ。俺や、トキヤみたいにね」

私はトキヤの腕を払って、その場を離れた。



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