早乙女さんと監視室で画面を眺めていると七海が部屋を出たのが分かる。
そして、トキヤが帰ってきた。
「頼みマースね、Mr.御幸」
「はいはい、頼まれました。ちゃんと約束守ってくださいよー?」
「4人とのコラボデスネー?OKなのよー」
部屋から出て、2人が会うであろう場所に向かう。
少しは離れたところに腰かけて2人を眺める。
「一ノ瀬さん!!…大丈夫ですか?」
「すみません、貴女にまで心配をかけて」
「もう、戻ってこないんじゃないかって思っちゃいました」
「みんなに会うために…帰ってきました」
トキヤはちゃんと仲間を信じてるのに…
「みんなわかってくれます。きっと…」
「いい気なもんだな」
レンの声が響く。
そちらに視線を向けるとみんなが揃っていた。
「やっと現れたと思ったら子羊ちゃんに泣きごとか?」
「あ、あの…違うんです」
反論しようとした七海に近づいて腕を引く。
「御幸君!?」
「君が口を挟むべきじゃない」
「でも…」
トキヤに視線を向ける。
「トキヤ…」
「礫…」
「お前は、いつかこうなることがわかってたはずだ。言うべきことが、やるべきことがあるだろ」
「…はい」
七海を連れて一歩後ろに上がる。
「トキヤ、お前の言葉が聞きたい」
「なんで今まで黙ってたんだよ、トキヤ!!」
すみません、と言ってトキヤが頭を下げた。
「ふざけんじゃねぇよ!!お前と違って俺達はマジでデビューしようとしてんだ。七海の曲にかけてんだ!!全てを注いでんだ!!お前に、それが分かるかよ」
頭を下げてるトキヤが苦しそうに眉を寄せた。
「HAYATOだということを隠し、この学園に通い、皆さんを騙し、迷惑をかけたこと許してください」
深く頭を下げて、言葉を続ける。
「事務所は歌手活動に積極的ではなく、私は全てを捨てて、ここでやり直すつもりでした。でも、結局中途半端で…みなさんに迷惑をかけてしまいました」
七海も辛そうに目を閉じて、首をゆるゆると振る。
「でも…これだけは本当です。彼女の言葉で私は救われました。」
「一ノ瀬さん…」
「皆さんと一緒に歌わせてください。この気持ちに嘘はありません。お願いします」
あぁ…本当に、トキヤは変わった。
七海は私に出来なかったことを…やってのけた…
「一緒に?信じられるか、今更そんな言葉。誰よりもレディの歌をうまく歌える。そう言ってたろ?ありゃ、嘘か?どうなんだよ!!」
レンが珍しく真剣な瞳をしてる。
「確かに以前はそうでした。でも、変わったんです。彼女の考えに触れて…彼女は私たちが歌うことをいつも願ってました。一人でだとか、自分でだとか、そんなことはもうどうでもいいんです」
七海の目に涙が浮かぶ。
「初めて分かったんです。こんな出会い二度とありません。やっと、歌うべき場所が見つかったんです」
トキヤが七海の方に視線を向ける。
「七海さん、貴女にずっと言いたかったことがあります。大好きです…貴女の作る曲が。貴女の曲を歌わせてください」
「はいっ」
泣きながら言った七海にトキヤは微笑んだ。
「ありがとう」
そう言ったトキヤの声はひどく、優しい声だった。
そして、視線がこちらに向いた。
「礫」
「何かな、トキヤ?」
「ありがとうございました。それから、すみませんでした」
下げられた頭に首を傾げる。
「あの時、礫に…自分の迷いを言い当てられました。あの時だけじゃない…礫はいつも私の悩みに気づいて…なのに、私は…貴方を傷つけた」
「何の話か、俺には分からないよ」
下げられた頭に手を乗せて2回軽く叩く。
「よかったな、変われて。よかったね…お前の場所が見つかって」
「っはい…」
「やっとスタートラインか」
レンが嬉しそうに笑った。
「なんだ、その抜け駆け感は…」
翔がトキヤの首を絞める。
「テメェ、トキヤ。許さねぇぞ!!」
「みなさんの歌が聞けるなんて、私幸せですっ」
楽しそうにする彼らから目を逸らして携帯のメールを送信した。
そろそろ、本当に終わりが近づいてきたな。
雨が止んだ空を見上げて微笑む。
「待っててね、朱利…」
学園の至る所から光が上がる。
そして、早乙女さんの笑い声が響いた。
「ハァーイ、エブリバディー。こんばんは〜。今宵は皆さんにとーっても素敵なビッグニュースをお届けしちゃう。さ、光の中に飛び出せカモン!!」
光がクロスして空を覆う。
「大いなるプリンスたち!!我がシャイニング事務所が1000%の愛をこめてお送りするニューアイドル。その名も、ST☆RISH」
空にみんなの顔が映し出された。
慌てる彼らを学園長室に案内する。
「学園長、これって一体」
「僕達がデビュー?」
「俺達まだ卒業オーディションが…」
朝と同じく机に腰かけて携帯を開く。
「オーディション?ユーたちはパスよ。ユーたちの歌を初めて聞いたときこのグループはこの国を熱くすることができる。そう感じたのデース。ミーの勘は外れたことありませーん。予定が早まったのは誤算デスガ、この世界ではよくあること」
…元々、その気もあったくせに…
「たいした問題ナッシング〜。Mr.一ノ瀬が注目されてる今…ベリービッグチャーンス。この機を逃す気はなかバッティング」
みんなの嬉しそうな顔を見て、視線を早乙女さんに向ける。
「この6人なら、上手くいくぞ」
「いや、7人だろ?」
レンが七海の肩をポンッと叩く。
「8人の間違いですよ」
トキヤが私の腕を引いた。
「七海さんと、礫を入れて8人です」
七海が驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑う。
「頑張ります。もっともっと、いい曲書きます。どんどん作ります」
七海の言葉に被せるように早乙女さんの声が聞こえた。
「ソーリー」
「え?」
「Miss.七海。ユーは今回のプロジェクトには参加できません」
みんな驚いた顔をした。
「デビューライブの曲はプロの作曲家でゴーゴーゴーゴー」
「どういうことです、学園長」
モニターが下りてきて、黒いシルエットとプロフィールが表示される。
ほとんどシークレットだけど…
「…朱利…?」
「学園長、まさか」
「ザッツライト。たった1日で4枚のCDをミリオン達成させ、顔を明かさず
BGMやSEなど多くの曲を手掛ける。今、日本で一番パワーのある曲を書ける作曲家。朱利に、ユーたちのデビュー曲を頼んでおきマーシタ」
つーか、ここにいるから。
サングラス越しにこちらを見た早乙女さんに溜息をつく。
…元々言われてはいたけど…一応、書くか…
「そんなっ」
「待ってくれよ」
早乙女さんが笑う。
「朱利は天才デース。朱利に任せれば大ヒット間違いナーシ」
「天才…」
「イエスッ。Miss七海では到底及ばない」
翔の反論に笑い声がとまる。
「このプロジェクトで大事なのは強烈なインパクト。Miss.七海、確かユーは面白い才能と個性の持ち主デース。それを感じたからこそいままで大目に見てきました。そしてユーの驚くべき成長を遂げました。But、今回の件は別デース」
早乙女さんが七海を見つめる。
「Miss.七海。ユーに天才の朱利を越える歌を書けますか?」
「え、あ…あの…私…」
「ユーは、みんなの歌が聞けるだけでハッピー?」
「え?」
そういえば、さっきそんなこと言ってたな…
「ユーは、ファンですか?」
「ファン?」
「ST☆RISHには多くのファンがつくでしょう。でもユーはファンでなく作曲家です。プロとしてのハートをお持ちですか?」
「え?」
七海が目を逸らした。
「ユーにST☆RISHの運命を任せることはできません」
「学園長、私たちは七海さんの曲を歌いたいんです」
「今更、七海以外なんてありえねェ」
「ノーノー、プロの歌手ならだれが書いた曲でも歌いこなします」
反論の声を無視して早乙女さんが続けた。
「残念です、Miss.七海。この世界で生きていくために必要不可欠なもの…それがユーにはかけていました」
その言葉に、私はただ目を伏せた。
「Mr.御幸」
全員が出て行ったあと、一番最後に出ようとした私の名前を早乙女さんが呼んだ。
「これが最後デース」
「わかってる」
「本当に、いいんデスカー?」
少し、心配するような彼を見て、笑う。
「俺が、決めたことだよ」
「…わかりマシター」
ドアがガチャンと閉まる。
目を閉じて、息を吐く。
「これが、最後…」
噴水の前でみんなが集まっていた。
「七海がいなければ俺達は一つになってなかった」
「クソッ冗談じゃねぇぜ、こんなの」
「俺はレディの曲でなきゃ降りる」
噴水の明かりが届かない暗いところから彼らを眺める。
「え?」
「俺だって」
「七海外してデビューなんてねぇ!!」
レンに続き、音也に翔まで、それに賛成する。
「ダメです」
七海大きな声で言った。
「皆さんはデビューしてください。お願いです。こんなチャンス絶対に逃しちゃダメです」
「何言ってんだよ、お前」
「私のことなら大丈夫です。今より、もっともっと頑張って早く学園長に認めて貰いますから」
でも…と音也が七海を見た。
「絶対追いつきますから待っててください。みなさんはデビューライブのことだけを考えててください。こんなことで諦めてちゃダメです。お願いします」
七海の声が少し、震えてる。
我慢、してんだ…
てか、私ってこのメンバーで何すればいいの?
歌うわけじゃないから…一応アレンジとか、作詞担当になるのかな…
視線を彼らから外して溜息をついた。
←→
戻る
Top