次の日、事件が起きた。
リハーサルに誰も行かずにレッスンルームに6人がいた。
それを見て慌てて、誰もいないところで電話をかける。
「すいません、ST☆RISHの作詞を担当させていただいてる朱利です」
電話の向こうの人が慌てたように誰も来ていないと言った。
「本当は本日から練習だったのですが、曲を本日彼らにお渡ししたんです」
『今日?』
「はい。そのため、大きくスケジュールがずれ込んでしまいました」
『あぁ、そうなんですか…』
「すいません。明日にはちゃんと彼らも参加できると思いますのでST☆RISHの皆さんに非はありません。責めないで頂ければ嬉しいです」
『あぁ、わかりました。じゃあ後日からってことで』
「はい」
電話を切って、溜息をつく。
…まさか、行かないとはね。
これからデビューしようって人間がしていい行動じゃない。
「こんな状態でリハーサルなんてできっかよ」
翔がレッスンルームで叫んだ。
「そうだよ…こんなんで、デビューライブなんて…」
「でも、僕達ボイコットして意味あるんでしょうか?」
四ノ宮に言葉に翔が反応する。
「じゃあお前はこのまま七海なしでやれんのかよ」
「そうは言ってません」
…なんだっていいけどさ、どれだけの人に迷惑掛ってるかわかってんのかな…
「なんか…違う気が…」
「今まですっと…一緒にやってきたんだぞ。そんなことできっかよ」
「学園長にもう1度掛け合ってみない?」
音也の声に溜息をついた。
「無駄だと思うよ」
「え?」
「トキヤのこととか、みんなのこと色々絡めてこうなってるだろうし」
「じゃあ、なにかよ…俺達は何をやっても無駄だってことか!!?」
翔の言葉に、視線を彼に向ける。
翔の肩が揺れた。
「君たちは昨日、何を聞いてたわけ?」
「え?」
「七海が先に行けと言ったんだ。追いつくと言ったんだ。お前らはそれを信じられないの?」
彼らが目を逸らした。
「友達なんでしょ?仲間なんじゃないの?お前らの」
「そうだよ!!」
「なら、七海が足りないものを見つけるって、信じなよ」
静かになった部屋。
突然、バンッとドアが開いた。
「春歌が…春歌が…」
声の主は、渋谷さんだった。
****
青い空の下。
一軒の家が見える場所で、6人が歌いだす。
俺はギターでメロディーだけ弾く。
家から出てきた七海が微笑んだ。
「友近にきいたらおばあちゃんの家かもって」
「迎えに来ました」
「諦められないよ、七海」
音也とトキヤが言う。
「君はただのファンじゃない。素晴らしい作曲家だ」
「人ありてこそ、我あり。お前はそれを気付かせてくれた」
レンと聖川がそれに続ける。
「全部、春ちゃんのお陰なんです」
「俺達集めた責任あんだから、傍にいなくちゃダメだろ」
四ノ宮と翔が続ける。
「七海さんの歌を歌いたいんです」
「帰ろう?一緒に」
音也が七海に手を伸ばした。
「七海、君は…彼ら6人のために努力してきたんだろ?そのまま、逃げていいの?」
「みなさん…ごめんなさい!!私、私…」
七海が頭を下げて、震えた声を出す。
そして、こちらに駆け寄ってきた。
「もう、逃げません!!みなさんの歌を書きます。書きたいんです。私にしか書けない最高の曲を書かせてください」
「そうだよ、俺達には七海しかいない」
「誰にも負けません」
七海が膝をついて泣きだす。
「みなさんの曲を作れるのは私しかいません」
ギターをケースに戻して、彼女を見つめる。
どこからともなく早乙女さんの声が聞こえてくる。
「学園長…いつの間に」
七海の後ろに現れた彼は周りを見渡した。
「いいところデスネー。ヘリじゃなくのんびりと電車で来るべきでしたー」
「はぁ…」
「Miss.七海。ユーは根っからの優しいキャラクター。でも、それが弱点。この世界は弱肉強食。物作りにおいて貪欲なエゴイストであってほしいのデース。どうやら、欠けていたものを見つけたようだ」
ギターを背負って、息を吐く。
「ユーを試してアイムソーリーヒゲソーリー。合格!!プリンスたちの曲を書くのはユーです!!」
「て、いうことは…」
「七海が俺達の作曲家だ!!」
「これで、8人全員揃いました」
嬉しそうな彼らをみつめて、終わったなーと空を見上げる。
「みなさん…やっと、ちゃんと8人揃いました」
七海が嬉しそうに笑う。
それにつられて、みんなが微笑んだ。
「残念だけど、7人だよ」
喜んでる彼らに冷たく吐き捨てると、視線が一斉にこちらに向いた。
「礫?」
トキヤが私の名前を呼んだ。
「音也」
「な、何?」
「音也は協力、してくれない?って言ったよね?」
音也が頷く。
「もう、協力は…しなくていいよね?ST☆RISHは揃った。6人で七海の歌を歌える。君の望んだとおりになった?」
「なった…けど…え?」
「じゃあ、俺の仕事はここまで」
私はひらりと手を振って早乙女さんの隣に並んだ。
「ちょ、礫!!?どういうことだよ」
翔が私の腕を掴んだ。
「いや、俺は七海に希望出してないし…てか、俺ソロだし」
「じゃあ、礫はいままで音也の言葉に忠実に俺達に協力してたってことかい?」
「そうだよ。まぁ、この人にも頼まれたんだけどね」
隣に立つ早乙女さんを指差す。
「ご苦労様ナノヨーMr.御幸。ユーの仕事はここまでデース」
「御幸君!!?」
「…ねェ、七海」
私はニコリと微笑む。
「君の歌は確かにすごいよ。けどね…俺は君に負けるつもりはない」
「Mr.御幸。時間デース。行きますヨー」
「わかってます。あ…」
ギターのケースから数枚の紙を出して七海に渡す。
「一応、あげるよ」
「え?」
「それが、朱利の書いた曲だ」
昨日の夜書いたから結構雑だけど…
「どうして、これを…御幸君が?」
「え?あぁ…学園に来てたよ、今日。リハに君たちが来てなかったからわざわざ来たみたい。そのとき預かった。あと、リハをサボったことは朱利が弁解してくれたみたいだよ」
私が、だけどね…まぁ、いいかな…
「じゃあね、もう会うことはないかもしれないけど…頑張って」
ひらひらと手を振って早乙女さんのヘリに乗る。
驚いた顔の彼らから目を逸らした。
「よかったんデスカー?朱利」
「はい。俺は元々七海のことそこまで好きではないし…俺には俺の歌いたい歌があって、歌って欲しい人がいる。アイツらに付き合うのはもう終わりです」
ヘリが上空に上がった。
…これで、おしまい。
****
初めて6人で歌ったときの違和感。
これだったんですね…
「マジかよ…礫」
「仕方ないですよ」
「え?トキヤ?」
「礫には…礫の道があります。私たちが邪魔するわけにはいかない」
口ではそう言えても、心の中にぽっかりと穴が開いた…気がする。
「御幸君が、ライバル…」
「俺が、協力してって…いわなければ…」
「それは違うだろう。御幸は一十木に言われなくとも学園長の頼みでここにきていた」
「初めから、仲間にはなれなかった…そういうことさ」
貴方は…やはり、私たち変わった人たちが嫌いですか?
視線を落として、七海さんの持つ楽譜が見える。
「すいません、七海さん。朱利が書いた楽譜…見せていただけませんか?」
「あ、はい」
綺麗な音符が散らばる紙をめくっていく。
最後のページ、最後の行に朱利という名前と『応援している』の文字があった。
****
「お疲れ、礫」
家に帰った私を日向サンが抱きしめた。
「…お疲れ、さま」
「辛かったか?」
「まぁ、それなりに…一応、大切な奴らだから」
日向サンの肩に頭を押し当てる。
「次は、俺の番だから」
「え?」
「早乙女さんが…顔出してデビューしないかって」
「本当か!?」
体を離されて、じっと見つめられる。
「本当。てか、最初からそのつもりだったみたいだけど俺が断ったじゃん?で、仲間がもう出るなら…いいんじゃないかって」
「それで、やるのか?」
「やるよ。デビューライブもやってくれるって。そこで顔出すつもり。あと、4人とのコラボ新曲もそこで発表」
日向サンが嬉しそうに笑った。
「よかったな」
「うん。やっとね、歌えるんだ」
「え?」
「やっと…歌おうと思えたんだ」
私も笑って、日向サンに抱き着く。
「ありがとう、救ってくれて」
「おう」
「生きててよかったって、今ならちゃんと言えるよ」
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