入学式の日、私は短くなった銀髪を指で撫でながら校内を歩いていた。

早乙女さんや日向サンの命令で私は迷子の新入生の案内を頼まれた。
困ってれば手助けして来い、とのことで…

「早速、いたし…」

木々の下で何かを探す少年。

「何か、困りごとか?」
「え?あ、えっと…寮のカギを…」
「カギな…」

何をどうやったら、落とすんだ?

浮かんだ疑問を流して、一緒に探すと木の下に光る何か。

「…これ?」
「あ、それ…です」
「ん、もう無くすなよ?あと、早めに入学式に行った方がいいと思うぞ?」

私はそれだけ言って見回りを再開する。

その後2人の迷子さんを会場に連れて行った。
そろそろ、いないだろうな…と思いながら歩いていると木の下で一生懸命にジャンプする少年。
彼の視線の先にあるのは帽子。

「…ここの奴らは、アホばっかか…」

溜息をついて、地面を蹴った。
そして、少年の少し後ろで踏み切る。

体は少年の上を通り過ぎて、帽子を掴んで着地した。

「え?えぇ!!?」
慌てる少年の頭に帽子を乗せる。

「君の、だろ?」
「え?あ、あぁ…」
「そろそろ、行ったほうがいいと思うけど?時間…」

時計を見せると彼は急いで会場に向かって走って行った。

「…お仕事、終了かな」

面倒だが、私は会場に向かって歩を進めた。

「…終わりました、多分」

入口に立つ日向サンに告げるといつものように頭を撫でられる。

「ちゃんと全員来たぜ。お疲れさん」
「迷子2人と帽子君と鍵の子の4人だね、助けたの」
「…帽子と鍵?」

日向サンは首を傾げたが私は気にせず入口の壁に寄りかかる。

「なんか、制服着るとマジで男だな…」
「…男だから、一応」

胸にはサラシを巻いて、ワイシャツは第2ボタンまで開けている。その上にパーカーを着てブレザーという格好。
下はもちろんズボンだ。
ワイシャツの隙間から見える指輪のついたネックレスは日向サンが合格祝いにくれたもの。
指につけると楽器の演奏で邪魔になるから首に。

「後悔、してねぇか?」
「…そのまま、貴方に同じことを返そうか?」
「…俺は後悔してねぇよ」
「なら、俺の意志は関係ない。アンタが満足してんだろ?だったらそれでいい」

入学式が始まって、早乙女さんの桁違いの式辞に日向サンは頭を抱えていた。

「アンタも、苦労するな…ホント」
「まぁな…お前はこれからも巻き込まれる…頑張れよ」
「…努力する」

入学式が終わって、教室に移動した。


****


教室のドアを開けて中を見渡す。

…あれ、鍵の子と帽子君同じクラスか。

座席表をみると自分の名前は窓際の一番前にあった。

「あの、先ほどはありがとうございました」

席に向かって歩き出すと、後ろから聞こえた声。

「あぁ、鍵の子か…どういたしまして」
「…私は、一ノ瀬トキヤです」
「一ノ瀬、ね…俺は御幸礫。好きに呼んで」
「では、礫と呼ばせて貰います。私のことはトキヤで構いません」

彼はふわりと微笑んだ。
へぇ、随分綺麗に笑うな…

「トキヤ、誰と喋ってんだ?あ!!朝の!!」
「…騒がしいですよ、翔」
「朝はサンキュー!!俺来栖翔、お前は?」
「御幸礫」

…そういえば、私が女だってバレそうもないな…。
まぁ、一安心か…

「よろしくなっ。俺のことは翔って呼んでいいぜ。」
「よろしく、翔。俺のことは適当に呼んで」
「じゃ、礫って呼ぶな」

なんか、2人とも綺麗な顔してるな…
いや、日向サンもなんだろうけど
流石はアイドルを目指してるだけはあるな。

ただ日向サンたち以外の人と関わるのが久々だったからか、この短時間でものすごく疲れた。
私は窓の外を見ながら溜息を一つ、零した。

「おら、座れー」

席について間もなく、ドアが開いて入ってきたのは日向サン。
…担任だったのか。

「Sクラスの担任、日向龍也だ。」

それから、堅苦しい話をした日向サン。
私は右から左に聞き流していたけど…

「じゃあ、自己紹介しろ。端から順番にな」

始まった自己紹介タイムに私は欠伸を噛み殺す。

トキヤは歌を、翔は空手を披露していた。
翔の空手には日向サンも乱入していたけど…
トキヤはHAYATOとかいうアイドルの双子の弟らしい。
…HAYATOが誰かわからないけど

「おーい、お前が最後だぞ」

私の目の前に立っていた日向サンを見上げる。
…もう全員終わったのか。

「…御幸礫です。…特例で、アイドルコースと作曲家コースの両方に属します」

教室がざわついた。
そりゃそうか…特例だし…

「それだけかよ?得意なものとかは?」
「…楽器は色々なのが出来ます。ダンスも歌もある程度なら…」

「なんで、そんな奴が特例なんだ?」
「てか、本当に出来るの?」

教室から聞こえた言葉。
まぁ、そう思われても仕方ないんだろうけど。

「御幸、なんか歌ってみろよ。ピアノ、使っていいぜ」
「……どうも」

こうなることは容易に想像できた。
ピアノの前に座って、髪に指を絡ませる。

「何で弾かねぇの?」
「特例とか言ってたし、コネ入学とか?」
「うわぁ、それはないわ」

私は目を閉じて、ピアノを鳴らす。

「Remember again
Inside a world of broken words you cannot hide
you try to find the reasons why, as days collide
the seconds keep on passing, without a sound, you turn around
and as you walk away I call to you―――…」

前の世界で気に入っていたナノの歌のピアノアレンジ。

弾き終わって、頭を下げるとどこからともなく拍手が聞こえる。
日向サンは目を丸くしていた。
彼の前でこの曲を弾くのは初めてだからな…

「もう、いいですか?」
「あ、あぁ…座っていいぞ」

…発声せずに歌うと喉が痛い…
喉を押さえながら私は席に着いた。

男にしては、少し声が高かった…気がする。
まぁ、いっか…
長い長いHRが終わって、私は今日何度目かもわからない溜息をついた。

生徒が昼食のために教室を出ていくのを視界の端に映しながら窓の外に視線を向けた。

「もう、逃げられないな…」

私の声は騒がしい教室に飲み込まれた。



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