「おい、礫」
「なんですか、日向サン」

人が少なくなった教室で日向サンが小声で私に声をかける。

「いつの間に、練習してたんだ?」
「日向サンがお仕事に行っている間に…お昼、どうする?」
「学食行ってこいよ」
「…わかった」

私は鞄を掴んで教室を出る。

「あ、やっと来たぜ。礫、一緒に飯食おうぜ」
「私も、いますけど…」
「…待ってたの?まぁ、いいけど…」

私は2人と学食に向かって歩く。

「あ、そういえば…礫の歌スゲェな!!マジで、感動した」
「あれは礫が作ったんですか?」
「まぁ…」

この世界にいない人の歌。
だから、ここで歌えば私の作った歌になる。
なんか、ズルしてるな。

「そう言えば、HAYATOって誰?」
「「え?」」

話を替えようとそう尋ねると2人が固まった。

「知らないんですか?…初対面で何も言われなかったのでもしかしたらとは思いましたけど…」
「毎日のようにテレビに出てるぜ?」
「テレビはあまり見ないからな…今度見てみる」

学食に行くと随分と沢山の生徒がいた。
空いてる席を探すのも一苦労しそうだ。

「…俺、購買でなんか買って外で食べよう」
「私も、そうします…これは、流石に…」

2人でそう話してると翔は可愛らしい女の子に絡んでいた。
そこにどっかで、見たことある髪の長い男が登場。
確か、同じクラスだったような気がする。

「翔のことは放っておいて、いいよね?」
「多分、彼らと食べるでしょう。私としてはあまり目立ちたくないので」
「双子だもんな…じゃあ、行くか」

適当に食べ物を買って、外のベンチに座る。
丁度日陰で、風が心地いい。

「はぁ…疲れた…」
「何をそんなに疲れるんですか?」
「初日から歌うとは思わなかった」

野菜ジュースを飲みながらそう言うとトキヤは上手でしたよと言った。

「別に上手くないよ。トキヤの方が上手かった」
「そんなこと、ないですよ。クラスの皆さんが驚いてましたし」
「…まぁ、2か月でこれならまだいいのか…」
「え?」

トキヤがこちらを向いた。

「何?」
「2か月…と言いましたか?」
「ん?言ってないよ」


多分これ言ったら色々大変な気がする。
絶対、色々ヤバい…うん。

「てかさ、今日ってこのあと何してばいいんだ?」
「寮の片づけじゃないですか?まだ、段ボールだらけでしょう?」
「あぁ…」

そういえば、みんな寮なのか…
私は日向サンのところに居候のままだし。
放っておいたら死ぬって思われてるみたいだね。
それに、女だから男子寮には入れたくないと…アイツは私の母親か何かか?

「礫の部屋って何号室ですか?」
「え?」
「あぁ、別にお邪魔するわけじゃないです。ただ、何かあった時に便利かと…」

あー、どうしようかな、この状況。
やっぱり、私も寮に入りたい。

「内緒」
「え?」
「そんな怖い顔しないでよ」

空になった野菜ジュースをゴミ箱に投げ入れて立ち上がる。

「折角の綺麗な顔が台無しだよ」
「貴方が綺麗なんて言うと嫌味にしか聞こえません」
「どういう意味だよ、それ」

まぁ、なんとかはぐらかせたかな…
え?って言った時のトキヤの顔怖かったな。

「さてと、食べ終わったしそろそろ寮に戻る?」
「そうですね」
「俺、職員室に寄らないといけないから」
「わかりました。また明日」

トキヤに手を振って私は職員室に向かった。

「日向サン」

職員室で、日向サンを呼ぶ。
またコーヒー飲んでるよ。

「どうした、礫」
「トキヤと飯食べてたんだけどさ…寮の部屋どこ?って聞かれた」
「あぁ…」
「こういう時、どうするべきなんだ?」

日向サンは横にあった机にマグカップを置く。

「逃げろ」
「…随分と勝手だな。いや、最初からそうか…」
「今は、どうしたんだ?」
「はぐらかした」

私の言葉に日向サンは笑う。

「次も頑張れよ」
「はぁ…何で、寮に入っちゃいけないんだ?」
「お前女だし、放っておいたらそのまま死にそうだし。男子寮にいたら襲われるかもしれないし」

…襲われる?
……男の容姿でも襲うのか…随分と面白い趣味してるな…

「でも、日向サンも男じゃん」
「まぁな。けど、林檎とか社長よりはマシだろ?」
「…まぁ、そうか…」

なんとなく納得した。

「あ、礫後ろ」
「後ろ?」

引き攣った日向サンの顔。
恐る恐る振り返ると視界はピンク。

「礫ちゃん可愛い!!!!」
「うっ…」
「いや、礫君ね。超カッコイイ、可愛い!!もう最高〜」

…潰れる。
この人の抱擁は痛い。

「あの、痛いです…離して…」
「林檎、礫を殺す気か」
「あら?ごめんね」

離れた体に、私は盛大に溜息をついた。

「…日向サンでよかったかも」
「だろ?」
「え?何が?」
「「なんでもない」」

寮については頑張ってはぐらかそう。

「じゃあ、俺は先に帰ってる」
「おう、気をつけろよ」
「俺は子供か」
母親みたいな日向サンに苦笑しながら、歩き出した。



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