朝は、多分早い方だと思う。
日向サンの出勤に合わせて起きるから。
朝食は日向サンが作ってくれる。
「俺は先に行くぞ。お前は、後から来い」
「言われなくてもそうするって。食器は片付けとくから。いってらっしゃい」
「いってきます」
この日向サンの部屋は事務所の寮らしい。
学校からは近いが敷地内にあるわけではないので、少し早く家を出る。
あ、食器はちゃんと洗った。
鍵を閉めてマンションのエレベーターに乗る。
そして少し歩けば見えてくる学校。
いつも思うがデカいね…
通行証明書?を見せて学校に入る。
「…まだ、時間早いな…」
携帯で確認するとまだ1時間近く時間があった。
昨日トキヤとご飯を食べたベンチに移動して、ウォークマンのイヤホンをつける。
一冊の黒いノートを出して、流れる音楽の歌詞を書いて行く。
「あとで、譜面に直すか…ピアノにギターに…ベースとドラムもか…」
使われてる楽器を横にメモする。
この黒いノートも2冊目だ。
大切なものを失う前に好きだったボカロ曲や、歌手の歌詞を書いたノート。
聞けば聞くほど、書けば書くほど向こうの世界を思い出す。
「…次は、これ歌おう…」
日向サンに驚かれるくらいに沢山の曲を譜面に起こして、歌詞を書いて…
自分でなんかほとんど作ってない。
まぁ、ズルいとは思うけど…。
やる気がないなりにここで過ごすために、浮いてしまわないようにしている努力のつもりだった。
「けど…どうして、だろう…」
ほんの少し、ここで生きてもいいかなって思ってる自分いる。
私は黒いノートを閉じた。
「さてと、そろそろ教室に行こうかな…」
時間ぎりぎりで教室に入って、トキヤと翔に挨拶をする。
これが、日常になるんだな。
****
HRで日向サンが声を大きくして、話す。
「まず、一学期の最後にペアを組んでもらう。そのペアで卒業オーディションを受けてもらう。それまでにいろんな奴と出会っていろんな奴と歌を作れ。最高のパートナーを見つけるんだ。」
クラスがざわつく。
私には関係ないから、窓の外に視線をずらしていた。
「その前に、お前らの実力を知るためにレコーディングテストを行う。このペアは勝手に決めた。黒板に貼るから見ろよ。あと、御幸。お前は」
「一人でやれ、ですよね?わかってます」
私の言葉に日向サンは満足そうに笑った。
「これは卒業オーディションのペアとは違うから安心しろ。今回はまぁ、練習だ。じゃあ今日はここまで。ペアの奴と、仲良くなっとけよ。いいか、もう1度言う!!恋愛は絶対にダメだ!!心に秘めておくだけにしろよ」
恋愛禁止、ねぇ…
私には一番関係ないな。
いや、関係なくなるように男で過ごすことを選んだんだ。
放課後、1人で図書室に向かうと熱心に勉強している少女がいた。
「…随分、勉強熱心だね」
「え?」
「…音楽が、好き?」
少女は驚いていたけど、確かに頷いた。
「私、楽譜が読めないんです。ピアノは、弾けるんですけど…音を聞いて弾いてて…」
「聞いただけで弾けるんだ、すごいじゃん」
「え?」
「楽譜を見て弾けるより、音を聞いて弾ける方がすごいくない?」
私がそう言うと少女は顔を紅くして慌てはじめる。
なんだろ、小動物みたい…
「俺が、教えてあげようか?楽譜の読み方」
「え?え?け、けど…」
「君がいいなら、俺は構わないよ。」
少女はクラスでピアノを弾くように言われたけど、楽譜が読めずに弾けなかったらしい。
それで、なんとかして出来るようになりたいと…
「君みたいに前向きな子になら、出来るよ。心配ない」
「あ、ありがとうございます。あ、私!!七海、春歌です」
「俺は御幸礫。じゃあ、出来る限り教えてあげるから」
七海は嬉しそうに笑った。
うん、やっぱり笑顔が綺麗だな…この子。
なんか、穢れを知らないんだろうなって思う。
それにしても、吸収が早い。
まだ、出会って10分ぐらいだけど。
この子、本当に音楽が好きなんだ…
何冊か本を持ってきて教えていく。
「あっわかりました!!じゃあ、これが――」
「そうそう、できてるじゃん」
「ありがとうございますっ」
ここの開放時間はあと20分ぐらいか…
「たった一日で楽譜、ちゃんと読めるようになったじゃん」
「御幸君のお陰です!!」
「俺のチカラじゃないよ」
そう言うと七海は微笑んだ。
「ありがとう、御幸君」
「どういたしまして。そろそろ時間ヤバいよ?」
「わっ!!ホントだ!!じゃあ、また明日」
「バイバイ。困ったら俺のとこおいで」
「はいっ」
走り去っていく後ろ姿に私は溜息をつく。
「なにやってんだか…」
もう暗くなった外を歩き、校門から出ようとしたとき後ろから呼び止められた。
「礫!!」
「あれ、日向サン。今帰り?」
「あぁ、ちょうど出てきたらお前が歩いてるのが見えたんだ。こんな時間まで何してたんだ?」
日向サンと一緒に、帰り道を歩く。
「七海春歌って子が、楽譜読めないって猛勉強しててさ…教えてた。Aクラスの子かな?」
「お前らしくないな。」
「なんか、放っておけなかった。綺麗な瞳してたんだよ。ただそれだけ」
頭に手を乗せられる。
「何?」
「いや、なんでもねぇ。お前、どんな歌、歌うか決めたか?」
「ん〜…まぁ、候補は何個かあるよ。けど、まだ決めてない」
「そうか」
日向サンは髪をぐしゃぐしゃとかき乱して微笑んだ。
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