なんとか落ち着いた私に蘭丸さんが教えてくれた。
セシルがアイドルを目指そうと決意したこと。
そして、七海がST☆RISHに誘い入れたこと。
まぁ、それはそれでありかな…
なんて思いながら温泉から上がる。
一応更衣室の入り口で蘭丸さんが見張りをしてる。
「ありがと、蘭丸さん」
「いや、平気か?」
「うん、平気」
コテージに戻ると嶺二さんと藍は既に眠っていて、蘭丸さんもすぐに眠りについた。
「大丈夫だったか?」
外にいたカミュさんが私にそう問いかける。
「大丈夫ですよ」
「そうか」
「…セシルの件聞きました」
「散々アイドルを否定してた割に呆気なかったな。だが…」
カミュさんの顔が険しくなる。
「礫が戻ってくる少し前に…1人でどこかに向かっていた」
…セシルが?
「…戻ってこないとか、言いませんよね?」
「どうだろうな」
カミュさんが目を伏せた。
「何を、隠してるの?」
「…お前は鋭いな…」
「え?」
カミュさんが紅茶を淹れてこちらに差し出す。
「アグナパレスに帰った。だが必ず戻ると、言っていた」
「…そっか」
紅茶を飲んで微笑む。
「じゃあ、大丈夫だよ」
「どういう意味だ?」
「アイツは帰ってくる」
カミュさんがわからないという顔をした。
「どうして、そう思うのだ?アイツは…王位を継ぐために戻ったのだぞ?」
「…関係ないですよ。大切なもののためなら人はなんでも捨てられるんです。それが…」
命だとしても。
人は、そういう生き物だ。
「もう、寝ましょう?明日も、大変そうですから」
「…そうだな」
ベッドに入って目を閉じる。
アグナパレスの王位を継ぐ…か。
カミュさんの寝息が聞こえてきて、私は目を開いた。
「…それでも、セシル…お前は…」
帰ってくる、よな?
次の日の早朝。
カミュさんが出ていくのが見えて後を追いかける。
「おはようございます」
「…早いな」
「どこへ行くんですか?」
カミュさんは黙って前を見る。
そこにいたのはST☆RISHのみんなと七海だった。
「伝えるんですか?国へ帰ったこと」
「それが、俺の義務だ」
「…そうですね」
近付く私たちに気づかない彼ら。
「僕、セシル君を呼んできます」
四ノ宮の言葉が聞こえて、カミュさんが口を開いた。
「愛島ならもうここにはいないぞ」
「は?」
驚く彼らをセシルのコテージに連れて行くカミュさん。
私はその後ろをついて行く。
「これは…」
「王位を継承するためにアグナパレスに帰ったのだ」
ベッドの上に置かれた七海の書いた楽譜とセシルがつけていたペンダント。
「帰った?」
「王位を継承?」
「セシル君が王様になるってことですか?」
カミュさんが淡々と言葉を続ける。
「アグナパレス国王はそろそろ退位を考えていたらしい。だから愛島を呼び戻したそうだ」
「そんな…」
カミュさんはそれだけ言ってコテージを出ていく。
その背中を追いかけて私も外に出る。
「…戻ってくると言っていたことは言わないんですか?」
「変な期待をさせてどうする?」
「貴方は優しいですね」
カミュさんが目を見開いた。
「なんだと?」
「好きですよ、カミュさんのそういうところ」
「ふんっ、何を言っている。俺は優しくなどない」
素直じゃないし、不器用だし…
それでもやっぱり、この人はセシルの先輩なんだよね…
「カミュさんが、セシルについてくれてよかったです」
それだけ言って、コテージの中に入る。
「セシルは俺達と歌うの楽しみにしてたはずだよ」
「何かの間違いではないのか?」
「だってハルちゃんに貰った楽譜を置いて行くはずありません」
また、みんながバラバラになってるな…
「でも、帰ったのは事実」
「楽譜を置いて行ったのは全てを忘れるため、とも考えられます」
「そんな…違う、違うよ!!」
七海がセシルの置いて行ったペンダントを拾い上げる。
「…御幸君」
「なに?」
七海が私の前に立った。
「私たちとセシルさんの繋がりは切れたと思いますか?」
私にだけ聞こえるくらいの声で七海が問いかける。
「切れたと思う?」
「…思いません。思いたく、ありません」
「なら、大丈夫。どんなに細い糸だとしても…ちゃんと持っててあげて」
七海が首を傾げた。
「俺は君達の目の前で繋がりの糸を切った。けどセシルはそうじゃない。」
自分がいた証を、ここに残してる。
ペンダントと、楽譜。
たったそれだけかもしれないけど、セシルにとって何よりも大切なもののハズなんだ。
「だから七海だけでもちゃんとその繋がりを持っていてあげて」
「はい」
「そしたら、ちゃんと…帰る場所がわかるから」
私はそう言って自分のコテージに戻った。
「おはようございます」
「礫!!?昨日、大丈夫だったの?」
「礫君、心配したんだよ!!?」
藍と嶺二さんに大丈夫だよと答えてカミュさんの隣に並ぶ。
「アグナパレスに帰っちゃったらしいよ?ミューちゃんの後輩君」
「カミュさんから聞きました」
「なんかすごいことが始まる予感がしたのにな〜」
嶺二さんが残念そうに呟く。
「チッだから仲間ってのは嫌いなんだよ。期待した分だけ裏切られて馬鹿見るに決まってる」
「えーランランってば、冷めすぎ〜」
そう吐き捨てた蘭丸さんに後ろから抱き着く。
「俺は、裏切りませんよ?蘭丸さんのこと」
「礫!!?お前、突然抱き着くなよ!!」
「蘭丸さん達を裏切ったら…本当に何もなくなりますから」
蘭丸さん以外には聞こえないくらい小さな声で呟く。
「…俺も裏切らねぇよ」
「ちょっと、イチャイチャしないでよ。まぁ…セシルが帰ってくる可能性はほぼゼロだね」
藍の言葉に蘭丸さんに抱き着いたままカミュさんに視線を向ける。
「…ゼロじゃないなら、アイツらは信じるよ」
「「え?」」
藍と嶺二さんが私を見た。
「アイツらは、そういう奴らだよ。…聞いてみたいな、7人の歌」
****
昼食を食べているとき、隣のテーブルでは七海が作った7人用の曲に歌詞をつけていた。
「彼が戻ってくるのを信じて7人曲の歌詞を作るのか…」
「ふんっ愚かな…王族のしきたりを考えれば戻ってくるなどあり得ん」
「甘ェな。仲間ごっこでこの世界生き残れたら世話ねぇぜ」
蘭丸さんが見ていた雑誌を閉じる。
表紙に映る3人。
HE☆VENSだ…
雑誌から顔を上げると嶺二さんがじっと彼らを見ていた。
「…本当に、お兄さんだよねぇ」
「どうした?礫」
「なんでもないよ」
私は微笑んで、彼らに視線を向けた。
「幸せだね、みんなは…」
自由時間、私は作曲作業をしていた。
「礫君、お願いがあるんだけど」
みんなそれぞれ違う場所で時間を過ごしていたため私一人だったコテージ。
そこに入ってきたのは嶺二さんだった。
「来ると思ってましたよ」
「え?」
ピアノを弾いていた手を止めて、書きかけの楽譜に重ねてあった楽譜を差し出す。
「礫君、なんで!!?」
「…なんででしょうね。嶺二さんが欲しかったものは、これでよかったですか?」
「うんっありがと!!」
私に抱き着いて嶺二さんが笑う。
「やっぱり、礫君はすごいよっ」
「すごくないですよ。ほら、早くしないと駄目なんじゃないですか?」
「そうだった!!じゃあまた後で!!ありがとねん」
凄い勢いで出て行った嶺二さんに苦笑する。
「本当に、優しい人達だよ。みんな」
微笑んで、私は作曲を再開した。
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