自分の新曲の録音が終わった。
この後はHE☆VENSと収録で、そのままコラボの話か…

「じゃあ、お疲れ様です」
「お疲れー、頑張ってね」
「はい」

収録のためにテレビ局に入るとHE☆VENとST☆RISHがいた。
ニコニコと笑う帝さんが四ノ宮の手を弾いた音が耳に届く。

どんなふうに話してたらこうなるんだ…

「僕達HE☆VENと戦おうなんて百万年早いよ。ね?綺羅?」
「うん」
「そのくらいにしておけナギ」

鳳さんが帝さんを止める。

「行くぞ」
「なんで?もっと話そうよ〜…ん?」

帝さんが七海に視線を向ける。

「ねぇ、君はマネージャー?」
「え?あ、あの…」
「春歌はST☆RISHの作曲家です!!」
「え?…僕等の新曲を作ったのって君?」

帝さんが驚いたように言った。

「へぇ、こんな娘があの曲を書いたとは…」
「あの曲はいい。とても」
「おー、綺羅がこんなに喋るなんて珍しい」

鳳さんが笑う。

「ST☆RISHは時機に解散する。俺達の手でな。解散したらどうするつもりだ?」
「ST☆RISHは負けません!!」

鳳さんが七海に近づく。

「いい眼だ。最高にな」

顎を掬って、ニヤリと笑う。

「俺達の作曲家になれ」
「え?」

肩を引き寄せた鳳さんにST☆RISHが詰め寄る。

「その顔が見たかった。堪らないねェ…もっと見せてくれよ。勝利も、お前も必ず手に入れる。必ずな」

凄い自信だな…
そう思いながら彼らに気づかれないように控室に行こうとした。

「あ、礫!!!」
「え?」

後ろから何かが飛びついて来て振り返るとふわふわとした髪が見えた。

「ナギ?」
「ナギだよっ!!今日はよろしくね?」
「ん、よろしく」

満足そうに笑ったナギが体から離れる。

「礫…」

トキヤが私の名前を呼んだ。

「収録お疲れ様。俺、これから収録だからまたね」

そう言って歩き出そうとすると七海と視線が交わった。

「あの…御幸君…」
「どうしたの?七海」
「あ、あの…」
「あぁ、悪いけど…今回は君達のお手伝いをしろと命令は出てないよ」

七海が目を見開いた。

「今回はHE☆VENとST☆RISHの戦いだよ。」

それだけ言って歩き出すと隣にナギが並ぶ。

「収録、一緒だよね?一緒に行こう?」
「あぁ…別にいいけど」

鳳さんが笑いながら私の隣に並ぶ。

「この後、どれくらい時間が取れるんだ?」
「今日はこれでオフだから満足が行くまでお付き合いしますよ」

私と違って全てを手にしているのに絶望なんかしてる暇があるなら…
その手で持ったものなんか捨ててしまえばいい。

「七海ー」

背中を向けたまま言葉を続ける。

「今、自分の手で掴んでるモノは一体何だ?」
「え?」
「俺は伝えたはずだよ。大切なものが何か。それを守りたいなら、自分のやるべきことはおのずと見えるだろう?あぁ…けど、大切なものを守るために大切なコトは見失わないで」

横にいた鳳さんが首を傾げる。

「どういうことだ?」
「そのままですよ」

私は微笑んで、歩を進める。
どうか、伝わりますように…
夜遅く寮に帰るとトキヤの姿が見えた。
そして聞こえてきた歌声。
歌い終わった彼の視線の先にいたのは溜息をつく七海。

「七海を想って歌ってる?」
「え?礫!!?」
「いい夜だね」

私は微笑んでトキヤの隣に立つ。

「HE☆VENSとのコラボはどうでしたか?」
「ん?うん、順調かな」
「そう、ですか…」

トキヤが目を伏せた。

「どうして、彼らに詩を書いてるのかって思ってる?」
「え?」
「…今、俺が君達に詩を書いたとして…ただでさえ不安定な七海はどうなる?」

水面が風に揺れて波を作る。

「…大丈夫だよ」
「礫…」
「今までだって何回も試練を越えてきたじゃん」
「そこには、いつも…礫がいました。けど今回は、礫がいない…」

水面に映るトキヤの顔が歪む。

「…俺はいなくなってないよ」
「え?」
「君達の敵にはなってないでしょ?」

本当だったら、私もあの舞台に立っていたのだから。
それよりは、マシな状況だと思う。

「手助けはしない。今回は君達8人の繋がりで勝たないといけないから」
「はい」
「応援してる」

トキヤが私の手を握る。

「トキヤ?」
「もし、勝ったら…聞いてほしい話があります」

トキヤの瞳に映る自分が目を丸くしていた。

「いいよ。勝ったら、聞く」
「ありがとうございます」
「…じゃあ、頑張って」

そこから離れようとした私の手をトキヤは離さない。

「トキヤ?」
「どこまで行けば、貴方に追いつけるのですか?」
「え?」

伏せた顔からは表情は見えない。

「貴方に追いつこうとしても、触れることさえできない。貴方は何を目指して進んでいるんですか?貴方は…」
「俺はね…絶対的で普遍的な何かを探してる」

絶対に揺るがない変わることのないモノ。
みんなと違って過去を持たない私が求めるものは…多分、過去と同等なもの…

「そんなもの、あるんですか?」
「あるじゃないか」

トキヤの心臓を指差す。

「君の鼓動と共に、刻んできた過去。それは絶対に揺るがない変わることのないモノ」
「礫にだって、あるじゃないですか」
「俺にはないんだよ。俺には過去がない。トキヤが知る俺が俺の一番古い俺なんだよ。だからこそ…求めるんだ。絶対的なそれを」

トキヤが何か言おうとして口を閉ざし、そして小さく呟いた。

「過去は、そんなに必要ですか」
「え?」
「過去がなくとも、礫は今ここにいる。それ以上に必要なものは何ですか?」

優しく微笑んだトキヤが私の名前を呼んだ。

「過去がないという、意味は分かりません。けど…貴方は今ここにいる。それだけで、私は十分だと思いますよ」
「違うんだよ。それは、トキヤだからそう思うんだ。俺とは、違う」
「いつかわかります。何かきっかけがあれば…きっと」

トキヤと別れて、さっきの言葉がぐるぐると頭の中を回る。

過去がなくてもいい?
そんなはずない。
だって、過去がないから私はこんなにも俺を見失いそうになってて…
みんなが求めるのは俺だから、私はもういらなくて…
でも、過去を持つのは私だけで…

「あーもう、わけわかんない」

考えることをやめて、目を伏せる。

「今は、そんなこと考えてる暇ないんだった…」

握りしめた手を開いて息を吐いた。



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