社長室で伝えられたのは、トキヤが今日ST☆RISHの広告塔として歌を歌うという事だった。
「そうですか、わかりました」
これで、全員終わるんだ…。
手に持っていた手帳にマーカーを引く。
「歌を聞かずに線を引くんデスカー?」
「出来ないはずが、ないので」
ST☆RISHのメンバー全員のページのマーカーが引かれた。
「もう、これもいらなくなりましたね」
ST☆RISHのことを託された日に早乙女から渡されたその手帳をゴミ箱に投げ入れる。
「Mr.御幸、ユーはなぜ…HE☆VENSに楽曲を提供しようとしたんデスカー?」
「…貴方への、細やかな反抗心と…鳳さんが、俺の詩じゃなく俺を必要としてくれたからです」
早乙女さんがぴたりと動きを止めた。
「Mr.御幸。お前は、ここでは必要とされてないと言いたいのか?」
「実際に、そうでしょう?貴方が必要としてるのは私じゃなくて俺でしょう?」
乱暴に投げ入れたからか、ゴミ箱が音をたてて倒れた。
「いや、俺というよりは…俺の詩でしたっけ?俺自身も私自身も貴方は必要としてない…私が詩を書くのをやめたら貴方は容赦なく私に死の選択を突き付けるのでしょう?」
初めて出会ったあの時のように…
黙り込んだ早乙女さんに伏せていた目を、固く閉じて息を吐く。
「…失礼します」
「お前は、詩を書くのが嫌いか?歌うのが嫌いか?」
私は視線を彼に向けて、微笑む。
「ファンが、嫌いか?お前の傍にいる仲間が嫌いか?」
「それで、嫌いだと答えたら…貴方はどうするんですか?」
私は早乙女さんに背中を向けて、部屋から出る。
ドアを開けて、目の前に驚いたトキヤの顔があった。
「礫…」
私の名前を呼んで固まったトキヤに溜息をつく。
「邪魔なんだけど」
「え?あ、はい…すみません」
道を開けたトキヤの横を通り過ぎる。
「あの、礫…」
「何?」
足を止めて、トキヤに視線を向ける。
「あ、あの…」
「俺に何か言うよりもやることあんじゃないの?」
「え?」
「最近、七海引き籠ってアレンジしてるみたいじゃん?」
トキヤが目を見開く。
「7人分の夢と、繋がりを両手いっぱいに抱えた彼女だけじゃ歌は出来ないよ。前の曲はアレンジは俺の担当だったし」
「そ、それは…」
「彼女一人に、抱え込ませる気?…繋がりを重荷にしてどうすんだよ」
私はそれだけ言って、止めた足を動かす。
「俺、ちゃんと言っただろ?大切なコト忘れないでって…」
「礫…」
名前を呼ばれたけど私は振り返らなかった。
「今のお前の詩じゃ…誰も幸せにはできない」
私の詩も…今は誰も感動させれない。
****
社長に呼ばれて、社長室にいくと先客がいたようだった。
「実際に、そうでしょう?貴方が必要としてるのは私ではなく俺でしょう?」
礫の声だとすぐにわかった。
私と、俺?
「いや、俺というよりは…俺の詩でしたっけ?俺自身も私自身も貴方は必要としてない…私が詩を書くのをやめたら貴方は容赦なく私に死の選択を突き付けるのでしょう?」
死の選択?
ドアを開けようと伸ばした手を下す。
「…失礼します」
近付いてきた足音から逃げようと方向を変える。
だが、社長の言葉に足が止まった。
「お前は、詩を書くのが嫌いか?歌うのが嫌いか?」
嫌い、なのですか?
その答えが聞きたくなって、視線をドアに向ける。
「ファンが、嫌いか?お前の傍にいる仲間が嫌いか?」
社長の質問に礫は酷く冷めた声で返事をした。
「それで、嫌いだと答えたら…貴方はどうするんですか?」
ドアが開いて、目の前に礫の顔が現れる。
「礫…」
名前を呼んで固まった私に礫は溜息をつく。
「邪魔なんだけど」
「え?あ、はい…すみません」
酷く、冷たい声だ。
少し横にズレて礫に視線を向ける。
「あの、礫…」
「何?」
私の横を通り過ぎようとした礫はこちらを見る。
「あ、あの…」
貴方は、女なのですか?
俺と、私の2つを…貴方は持っているんですか?
私たちが嫌いですか?
聞きたいことはたくさんあった。
けれど、礫の深い闇を持つ瞳に囚われて言葉が出てこない。
「俺に何か言うよりもやることあんじゃないの?」
「え?」
「最近、七海引き籠ってアレンジしてるみたいじゃん?」
七海さんのことは心配している。
けど、礫が知っていたことに驚いた。
寮にいることなんて滅多にないのに…
「7人分の夢と、繋がりを両手いっぱいに抱えた彼女だけじゃ歌は出来ないよ。前の曲はアレンジは俺の担当だったし」
「そ、それは…」
「彼女一人に、抱え込ませる気?…繋がりを重荷にしてどうすんだよ」
礫はそれだけ言って歩き出す。
彼女の重荷は、私たちのためのモノ。
彼女一人に持たせるわけには…いかない。
「俺、ちゃんと言っただろ?大切なコト忘れないでって…」
「礫…」
悲しそうな、声だった。
冷たい声と悲しみが入り混じった声。
名前を呼んでも、振り返らなかった。
「今のお前の詩じゃ…誰も幸せにはできない」
礫の背中を見えなくなるまで見つめてから、社長室のドアを開けた。
社長はいつもと変わらない様子で話を始めた。
「私が宣伝に、ですか?」
「イエース。うたプリアワードの審査投票権を持っているのは審査員だけではなーい。」
「来場客も、です」
「つまーり、一人でも多くのファンを作った方がガチンコファイトに有利だと思いませんか?」
社長はニヤリと笑う。
「それは…」
「勝負は既に始まってマース。ベストを尽くすべし。」
「わかりました」
「頑張ってちょうダーイ」
さっきまでの話を、聞いていたのはバレてないのか?
「あ、社長…聞きたいことが」
「オーなんでも、オーケー」
「七海さんの曲をHE☆VENSに渡したのはフェアな勝負が目的…本当にそれだけの理由ですか?」
社長は笑ったまま答える。
「もちろんのろん。他に何が?」
「あ、いえ…なんでもありません」
倒れたゴミ箱と、そこから見えるよく礫が持っていた手帳。
「これ…」
「見たければいいデスヨー」
そこに書かれていたのは、ST☆RISHのメンバーの改善点だった。
そのすべてはマーカーを引かれている。
「それは、Mr.御幸が捨てたものデース」
「え?」
「もう、全て改善されたからと」
そこに書かれた字に慌てて視線を向ける。
床に落ちた紙の中から、自分の名前を見つけた。
「HAYATOの件について…」
握りしめた手がページに皺を作る。
「気づいていたのですか?」
HAYATOを受け入れること。
そう書かれた文字の上に引かれたマーカーを指でなぞる。
「ユーが練習しているのを、見ていましたヨー」
「そう、ですか…」
その手帳を机の上に置いて、手を握りしめた。
「…失礼します」
社長室から出て、足を止める。
「重荷を背負っているのは…七海さんだけじゃない。貴方も、でしょう?」
私の言葉に、返事はなかった。
****
「え?七海が?」
仕事前、ST☆RISH全員が楽屋にいたときセシルが七海さんの話をした。
「はい。いつもの春歌ではないみたいで。声もかけられませんでした」
「アイツ、ずっと部屋に籠りっきりだよな」
「アレンジは大事な作業です。しかも私たちの解散がかかっている。かなりのプレッシャーを感じているのでしょう」
私たちが、七海さんの重荷になっている。
「七海のことだ。全て抱え込んでいるに違いない」
「え?」
「ハルちゃん、一人で?」
「レディは辛いとき、なにも言わないからね」
礫、貴方も…
私たちには何も言わないですよね…
「…前回、アレンジは礫がしてたよな」
翔が帽子を弄りながら呟く。
「はい」
「…礫の分もって、考えてんだろうな…」
「今回は手伝ってくれないみたいだしね」
「…大丈夫かな、七海…」
****
林檎ちゃんに連れられて行かれた先には七海がいた。
「ハルちゃん、アレンジ完成したんだって」
「へぇ、そう」
七海が林檎ちゃんに渡した楽譜を見つめる。
「すごいじゃない!!ハルちゃん、こんな高度なテクニックいつの間に…全体のバランスもいいし、うん。凄いわ!!」
「よかった…」
安心した七海の声。
「でも〜…」
「え?」
「初めて聞いたときの方がよかったかも」
楽譜から視線をあげて、首を傾げた林檎ちゃん。
「え!!?」
「上手く説明できないけど、なんか減っちゃったような気がするのよね〜どきどきっていうか、わくわくっていうか…礫君は?」
林檎ちゃんが視線をこちらに向ける。
「あ、あの…御幸君は…どう、思いますか?」
「前に、言ったこと…覚えてる?」
「前に言ったこと?」
林檎ちゃんから楽譜を貰ってぺらぺらと捲る。
「確かに、技術は申し分ないと思うけどさ…俺、言ったよね?大切なコト見失わないようにって…」
楽譜を七海に渡す。
「俺がどうこう、言えることじゃないけど…今の七海じゃ勝てないよ」
「どうしてですか!!?」
「この歌は、何のために書いたの?」
七海の瞳に困惑が映る。
「まず、根本から、作りたいものが間違ってると俺は思うよ」
夜、仕事終わりに通った道でトキヤの声が聞こえた。
視線をあげた先の画面に映るトキヤ。
「そっか…今日は、トキヤの広告をやる日だったんだ…」
一度止めた足を動かして、そこから離れる。
途中、誰かと肩がぶつかった。
「すいません」
「いえ、こちらこそ…て、礫?」
「…トキヤ…」
変装をしたトキヤが目を丸くしていた。
「曲、聞いてくれましたか?」
「聞こえてたよ」
「…そうですか。私は、用事があるのでこれで…」
トキヤは頭を下げて歩いて行く。
画面の中のトキヤはHAYATOを受け入れたトキヤが映っていた。
あんなに楽しそうに歌うトキヤは…初めて見た。
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