女性ビジュアルの発表となる雑誌の発売日。
テレビには女の姿の自分が映っていた。
今日から、女性ビジュアル全て公開だったっけ…
そう思いながら部屋を出る。
寮の公共スペースにあったテーブルの上にある今日発売の雑誌を手に取る。
そこに映る自分に目を伏せる。

これは誰だ?
ここに映るのは私?俺?
わからない。
女性ビジュアルの自分だけが映るページを雑誌から破いて、千切る。
それを床に落として踏みつける。

「おい!!?何してんだよ!?」

私の肩を誰かが引く。

「翔?」
「お前、何してんだよ!?…お前、どうしたんだよ」

自分より下にある翔の顔を見ると、自分が破いた雑誌の欠片が落ちていた。

「びりびりじゃねぇか…」

翔が拾い集める欠片。

「て、これ…礫の女性ビジュアルのページ?」
「だから、なに?」
「なんでこんなことすんだよ!!スッゲェ可愛いのに。テレビ見て、マジで女だったのかと思ってよ〜」

雑誌の表紙で蘭丸さん達と笑う自分は、一体誰だろう。

「礫?」
「…仕事行ってくる」
「は?おい!!?」
「それ、捨てといてもらっていい?」

私はそれだけ言って、仕事に向かった。
車の中、マネージャーがそういえばと話を切り出した。

「コラボCDとソロ新曲の発売日決まったよ」
「そうですか」
「ソロの新曲のジャケットどうするか考えておいてくれって」
「わかりました」

手帳にそれを書き入れて、ペンを止める。

「礫君、疲れてる?」
「…そうかも、しれないです」
「悩み事は抱えない方が良いよ」

この悩みを一体誰に吐き出せって言うんだよ。
寂しくなった耳に触れて、視線を窓の外に向ける。

朱利からもらったピアスや携帯は日に日に朽ちて行っている。
時機にあれは、砂にでもなってしまうだろう。
そうなったとき、私はどうすればいいんだろう?
朱利をやめても、朱利は私の支えだった。
今度こそ本当にそれを失うのだ。
私の溜息をかき消すように携帯が鳴る。

「もしもし?」
『礫?見たよー、女性ビジュアル!!』
「その声…ナギ?」
『正解っ』

嬉しそうな声の向こうでは呆れた鳳さんの声が聞こえた。

『貸せ。』
『あ、ちょっと!!まだ喋ってない』
『後で渡してやる。…悪いな、礫』
「いえ、平気ですよ」

電話の向こうからナギのいじけた声が聞こえる。

『礫の女の姿、凄くいいっ』
「ありがとうございます?恥ずかしいんで、あんまり見て欲しくないですけど」
『恥じるところなどないだろう?』

言う事が真っ直ぐだな…

『なぁ、礫』
「はい?」
『俺達が勝ったら、いや勝つのは確定だが…勝ったら俺達の事務所に移籍しないか?』
「え?」

手に持った携帯を落としそうになった。

「あの、何言って…」
『今よりも、いい状況をお前にやる。お前のやりたいようにできる場所を提供する。どうだ?』
「あ、えっと…考え、させて…ください」
『まぁ、そうだろうな。今回の件は、俺の父。レイジング鳳からの出た話だ。よく考えてくれ』
「はい」

なんで、悩んでるときに…
落とした視線は蘭丸さんとお揃いのブレスを捉える。

『ナギに変わるぞ』
『礫!!一緒に、歌おうよ』
「え?」
『僕ね、礫と歌ってみたい。礫の詩が好きなのもあるけど、御幸礫って言う存在が俺は好き』

なんで、こんなに的確に欲しい言葉をみんな言うんだろう。

『え?ちょ、綺羅!!?』
ナギの慌てた声が聞こえて、電話の向こうが静かになる。

「皇さん?」
『俺も、歌いたい。一緒に』
「あ、あの…」
『待ってるよ、礫』

え?今…礫って呼んだ?

『綺羅がすごい喋った!!』
「俺もビックリ…」
『これだけ、必要とされてるんだよっ。待ってるからね』

切れた電話を握りしめて目を瞑る。

これ以上、ぐちゃぐちゃにしないで…
仕事を終えて寮に帰ると偶然、七海と鉢合わせした。

「御幸君!!今、終わったんですか?」
「まぁ…」
「あの、お礼言いたかったんです」
「え?」

七海が勢いよく頭を下げる。

「大切なコト、思い出しました。勝つための詩じゃ誰にも届かないですよね」
「そうだな」
「ありがとうございました」
「いや、別に…」

七海がニコニコと笑う。

「それから、可愛かったです。女性ビジュアルの御幸君」
「そう」
「みなさん、びっくりしてましたよ」

そりゃそうだろうな…
みんな男だと思ってただろうし…

「あ、そろそろ戻らないと」
「ん、じゃあまたね」

ひらひらと手を振って自分の部屋に入る。
壁一面を埋め尽くす写真を一瞥してベランダに出る。
ベランダの手すりにかけた手をぎゅっと握りしめた。

「朱利が存在していた証明が消えたら、私の過去も消える。そしたら、私はもう必要なくなる、俺だけ、残れば仕事はしていける。けど、それでいいのかな…」

トキヤに言った言葉がずっと、心の中で燻ってる。
あの時は私と朱利が1つだって言えたのに、今は私と俺が一つだと言えない。

「飛び降りる気か、また」
「え?」

後ろに立っていた蘭丸さんがじっと私を見つめていた。

「悪ぃ、勝手に入った」
「いえ、別にいいんですけど…」

ベランダの手すりから手を離す。

「あの時と、同じ目をしてる」
「え?」
「深い闇が広がってる。お前の目には」

真っ暗な部屋の中に佇む蘭丸さんの紅の瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。

「朱利がいたっつー証拠が消えたら、お前は忘れるのか?」
「え?」
「お前が女だって知って、お前の仲間はファンはお前を嫌いになるのか?」
「あ、あの…蘭丸さん?」

蘭丸さんは黙って、傍らに置いていた紙袋をひっくり返した。
バサバサと音を立てて落ちてきたのは色とりどりな封筒。

「読めよ」
「え?」
「いいから」

床に落ちた封筒の1つに手を伸ばして綺麗に封を開ける。
中の紙に書かれた文字。

「お前のファンって、お前の正体を知りてぇって本当に思ってんのか?本当に、お前のファンなら…」

蘭丸さんが小さく息を吐いてから口を開く。

「本当にお前を好きなら…御幸礫って言う存在がいれば満足なんじゃねェの?」

確かに気になるけど、御幸さんは男でも女でも御幸さんだから。
私は御幸礫という唯一無二の存在を応援してます。

可愛らしい字で書かれたその文字。

「お前は、グダグダ考え過ぎだ」
「…私は、このままで…いいんですか?ファンの皆を騙し続けて…いいんですか?」
「お前のファンは、騙されてるなんて思ってねぇんじゃねぇの?」

目の前に散らばる手紙に伸ばした手を握りしめる。

「社長のことはよくわかんねぇけど…多分、お前を応援してるファンの奴らはお前を…御幸礫と言う存在として見てる。もし受け入れてくれねぇ奴がいたら…お前の詩で惚れさせろ」
「え?」
「お前は、歌手であり、作曲家だ。それくらいできんだろ?」
「はいっ」

蘭丸さんが私の前にしゃがみ込んで、頭をポンポンと撫でる。

「抱え込みすぎなんだよ。お前は」
「っごめん、なさい…」

ぽたりと落ちた涙が手紙の文字を滲ませていく。

「謝罪は聞かねぇって言ったろ。お前のマネージャーが、様子がおかしいから様子を見て欲しいって連絡してきたんだよ」
「え?」
「…まぁ、案の定ヤバかったな」

目の前の蘭丸さんが優しく笑う。

「どうだ?悩みは少し、解決したか?」
「え、あ…はい…」
「見え見えな嘘ついてんじゃねぇよ。まだあんだろ?言ってみろ」

涙を拭って、手紙をしまう。

「レイジング鳳さんから、移籍しないかって…話を貰いました」
「は?」

蘭丸さんの手が止まる。

「行く気か?」
「いえ…まだ決まっていません」
「…お前の、言葉は…嘘だったのか?」

酷く悲しそうな声。
慌てて視線をあげると、今にも泣きだしそうに歪められた蘭丸さんの顔があった。

「結局、お前も…アイツらと一緒なのか?」
「違っ」
「いいわ…なんも聞きたくねぇ」
「え?」

私に背を向けて歩き出した蘭丸さんに背中に伸ばした手は届かない。

「蘭丸さん!!!」

ひとつ、悩みが消えれば、ひとつ悩みが積み上がる。
悲しそうだった。

「裏切らないって、言ったのに…私は…」

ずっと、助けて貰っていたのに…
私は、彼が一番嫌がることをしてしまった。
罪悪感と寂しさ私の胸が締め付けられる。

「届かなかった…私の手が…」

伸ばした右手はだらりと下に落ちる。

「嫌われた?…そんなの、嫌だ…」

蘭丸さんまで、失ったら…私は…
下した手を握る。

「もう、失いたくない…もう、何も失いたくない」

朱利を失って知ったはずだろ?
1人の人の大きさを。
ST☆RISHと繋がりを切ってわかっただろ?
どれだけ、息苦しくなるか。
散乱する手紙をそのままに私は走り出した。
寮の部屋には蘭丸さんはいなかった。
多分、外に行ってしまったんだろう。
変装もせずに、走り出す。
絶対に、見つけないと…
戻れなくなる気がする。

思いつくところを片っ端から見に行く。

「いないっはぁ…どこいったんだろう…」

こんなに走るのは、いつ振りだろう…
痛む足を気にせずに走り回る。
ぽつりと、頬になにか落ちる。
それを拭うこともせずに、走り続ける。
いつの間にか大降りになっていた雨が私の体を冷やしていく。
それでも、両足を止めることは出来なかった。

「あの時は、間に合わなかった…」

朱利が死んだあの日。
私は、朱利の死に際に傍に居られなかった。
走って、走って、走って、やっとついた病室には幸せそうに眠る朱利がいた。

「もう、あんな思いはしたくないんだよ…」

視界に入った銀髪の人の腕を無我夢中で握る。

「っ!!?…礫…」
「裏、切ら…ない」
「え?」
「私は…傍に、いる…から」

呼吸が乱れて上手く言葉が出てこない。
びちょびちょの髪が顔に張り付いて、頬を涙と雨が濡らす。

「傍に、いるっから…だ、から……」

足から力が抜けて、手を握ったままそこに崩れ落ちる。

「おい、礫!!?」
「だか、ら…捨て、ないで…」

顔を上げる力も残ってない。
どれくらい走ってたんだろう…

「も、う…独りは、いや……」
「礫…」
「もう、おいてかないで…蘭丸、さん…ごめん、ごめん…なさい」

体を包み込んだ蘭丸さんの服も濡れてるのにひどく温かかった。

「もう、謝んな…俺も、冷静じゃなかった」
「ごめん、…」
「失いたくなかったんだ…お前を」

肩に埋められた蘭丸さんの顔。
温かいな…

そう思いながら、蘭丸さんの背中に手を回す。

「裏切らない…から。絶対、に…傍に、いるから…」



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