「礫!!?」
「やっほー、久しぶりだね」
ひらひらと手を振って笑う。
「音君とトキヤちゃんには寿嶺二君」
「よろしくマッチョッチョ」
「神宮寺と聖川には黒崎蘭丸」
「翔ちゃんとなっちゃんには美風藍ちゃん」
3人は7人の方に視線を向ける。
「春ちゃんはわからないことがあったらあたしに相談して?」
「あ、はい」
「それで、最後に御幸礫。まぁお前らの同級生だが…今回の総監督ってとこだ」
「よろしくね?」
七海を除く全員で男子寮へ移動中。
蘭丸さんと藍の間を歩いている。
「僕、先輩がついてくれるなんて知りませんでした」
「教えてくれる人がいるのはありがたいよな」
「マスターコースに来て本当よかった」
那月、翔、音也の会話に蘭丸さんが足を止めた。
「たいしたことねぇな、オメェら。人の力に頼ろうなんざ、この世界生き残れねぇよ」
「どーしたの、らんらん」
嶺二さんが困った顔をする。
「こっちは社長命令で仕方なくやってるだけだ。藍だってどうでもいいってツラしてるぜ」
「そうだね。研究対象としては興味はあるけど」
あーぁ、こうなるとは思ったけど…
本当にこうなるのか…
「黒崎さん、俺達は別に中途半端な気持ちで臨んではいません」
「なに?」
「覚悟ならあるよ?それにさっきの先輩達の歌に負けてるとは思わないけど?」
…は?
「テメェ…」
蘭丸さんが何か言おうとしてるけど、今はそれどころじゃない。
「喧嘩、売ってんの?」
「ちょ、礫君!?」
嶺二さんが慌てたように名前を呼んだ。
「なに、俺の歌が七海に負けてるって言いたいわけ?」
彼らを睨みつけると、みんなが驚いた顔をした。
「礫」
蘭丸さんが私の頭に手を置いて、私を黙らせて代わりに彼が口を開く。
「俺はお前らを教える気はねェ」
蘭丸さんの手が離れて、彼らに背中を向ける。
「礫、後で部屋行くわ」
「ん、待ってる」
「じゃあな」
蘭丸さんが歩いて行くのを見送って、彼らに視線を戻す。
「仕方ない…俺達で何とかするしかないね。それに芸能界の先輩はここにもいるしね、イッチー」
「一ノ瀬トキヤか。HAYATOのとき随分と活躍してたね」
「…私も自力でやるのは賛成です。」
「え?トキヤまで!!?」
それに翔も賛同する。
「あの、先輩達は俺達を見守ってくれるだけでいいです」
「えぇ!?残念だなぁ…色々教えて貰えると思ってたのに…寿先輩に」
「え?寿先輩?…アハハッ嶺ちゃんでいいよ。おとやん」
おとやんって…変なあだ名…
「それに、トッキー」
「なっ!?その呼び名は…」
「まぁ、望み通り手は出さないけど、なんでも聞いてよね。これから同室なんだしさ」
あぁ、そっか。
先輩と後輩が同じ部屋なんだっけ。
「同室?」
「シャイニーさんから聞いてない?」
「マスターコースは担当の先輩と同居するんだよ」
「同居!!?」
あぁ、本当にみんな知らなかったんだ…
「俺も同じ寮に入るからよろしく」
「礫も!!?マジで!!?」
「うん。よろしく」
てか、もやもやするな…
歌を馬鹿にされるとは思ってなかった。
そんなつもりはないのかもしれないけど…
「礫、眉間しわ寄ってる」
「え?あぁ…ごめん、藍」
「大丈夫だよ。礫の歌は僕が知る中で一番だから」
「ありがと」
それぞれの部屋に別れた彼ら。
驚いた声も聞こえるけど…まぁ、二段ベッドだしね…
私は携帯を開いて、早乙女さんの番号にかける。
「もしもし?今、始まりました。えぇ…まぁ、上手くいくといいですね」
最近は暇があれば、作曲をと心掛けている。
いつものノートを開いて、どんな歌にしそうかと考えていれば蘭丸さんが部屋にやってきた。
「蘭丸さん!どーぞ、座ってください」
「悪いな」
お茶をテーブルの上に置いて、隣に座る。
「疲れてんだろ?」
「あ、バレました?」
「お前が怒るのは珍しいからな」
正直、疲れは溜まってる。
新曲の依頼も一気に増えたし…それに、これか…
「明日も、仕事だろ?」
「そうなんですよね…」
背もたれに背中を預ける。
「ライブ終わってから、ずっと働き続けてるよな?」
「はい」
「たく、無理すんなよ」
頭をガシガシと撫でられて、私の頭を肩に押し付ける。
「お前の歌、俺は一番好きだ」
「うん」
「だから、心配すんなって」
蘭丸さんは、いつも私の欲しい言葉をくれる。
「…ありがと」
「これから、もっと会える機会も減るかもしれねぇけど…」
手首をぶつけられかちゃんと音がする。
肩から頭を離して、視線を上げると見えたのはお揃いのブレス。
「…大丈夫だ」
「…そうだね」
「つーか、お前男子寮でいいのか?」
平気です、というと信じらんねーと、気の抜けた声。
「男をこーやっていれてる時点であぶねーぞ?」
「俺、男です」
「建前な」
蘭丸さんが溜息をついて真剣な表情になる。
「日向龍也がいない今、礫の正体は俺しか知らない」
「はい」
「なんかあったら迷わず頼れ」
はい、と返事をして微笑む。
「あ、夕飯どうします?」
「食材あんのか?」
「ないです…あ、外に食べに行きません?」
「金、ねぇぞ」
蘭丸さんが拗ねたように言ったので、つい笑ってしまった。
「今日は俺が奢ります」
「は?」
「お給料入ったんです。これから世話になるってわかってるんで、前払い」
少し考える素振りをしてから、立ち上がる。
「いつか返す」
「了解です」
変装用の眼鏡などをしてから寮の外に出る。
「どこがいい?」
「大通り、でてから決めましょう?」
「そうだな」
****
礫と黒崎先輩が2人で外に出て行った。
「仲が良いみたいですね、あの2人」
「せっかく、同じ寮なのになぁ〜…」
「まぁ、話す機会はあるでしょう?」
拗ねた顔の翔に、立ち上がる。
「トキヤってさ、礫には甘いよな」
「そう、ですか?」
「おう。…やっぱり、礫のこと…」
「翔。わかってるんでしょう?」
私たちは男で、芸能界で生きる身。
「わかってる…けど、」
「少し寂しいですね。離れてしまったことが」
「…おう」
****
隠れ家的なお店でオムライスを頬張る私とハンバーグを食べる蘭丸さん。
「明日からの仕事ってなんだ?」
「PV撮影です。ライブの最後に歌った曲、一応1stシングルなので」
「そういや、アルバム先だったもんな」
「はい」
そのPVが問題なのだ。
あの歌を贈られた経緯をPVで再現して撮影するらしいけど…
「なんか、不安でもあんのか?」
蘭丸さんがじっとこちらを見る。
「あー…PVは俺があの詩を贈られた時を再現するんですよ」
「へぇ」
「で、自分役を自分で演じるんですけど…」
蘭丸さんが首を傾げる。
「あれを貰った時、俺は女でした。けど、今は男」
「…もしかして…」
「PVでは女の人が死んじゃうんですよ。男の人ってあんまり泣かないからどうやって表現しようかなって」
私は泣いて泣いて泣いて…
耐えられなくなって…飛び降りた。
「お前は、そのときどうしたんだ?」
「泣きましたよ。泣いて泣いて。結局逃げたんです。独りが怖くて」
気付いたときにはもう落ちてたんだよな、確か…
「男でも同じじゃねぇか?泣いて、逃げるか…立ち直るか」
「泣くのは、一応ありってことか…」
蘭丸さんが止めていた手を動かして、ハンバーグを口に運ぶ。
「お前の恋人ってどんな奴だったんだ?」
「日向サンと蘭丸さんを足して2で割った感じです」
「なんだ、それ」
笑った蘭丸さんに、つられて自分も笑う。
日向サンみたいに心配性で、たまに甘えたで…けど、蘭丸さんみたいに強くて、不器用で真っ直ぐで…
2人に似て、凄く優しくて…
「今も、好きなのか?そいつ」
「もう、吹っ切れてます。あの詩を歌ったときに…」
「そうか」
頭に乗せられた手。
「お前、強ェよな」
「蘭丸さんには負けます」
「そうか?」
蘭丸さんの腕についたお揃いのブレスに手を伸ばす。
「どうかしたか?」
「これ、買ったとき…こうやって一緒に仕事できるとは思ってなかったです。ここまで、来る気もあんまりなかった」
「…けど、来てんじゃねェか」
ブレスから視線を蘭丸さんに向ける。
「蘭丸さん達に、出会ってなかったら…そのまま学園卒業してましたよ。初めて、歌って欲しいって思った。初めて、譲りたくないって思った。朱利の死に向き合えたのも蘭丸さんたちのお陰でですよ」
「俺も女の歌で歌いてぇって思ったのは礫が初めてだ。それに、向き合えたのはお前の強さだ」
「…ありがとう。なんか、運命的な出会いですよね」
蘭丸さんはそっぽを向いて、そうだなと小さく答えてくれた。
「明日、頑張ってきます」
「おう」
「なんか、蘭丸さんと話してやる気出た」
蘭丸さんが、そりゃよかったと言ってまた食事を再開した。
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