「おはようございます、よろしくお願いします」

早朝、スタジオ入りした私は服を着替えて監督に近づく。

「あぁ、御幸君か」
「今日はお願いします」

それを見つめる影。

「なんでこんなことに…」
「いいじゃん、トッキー。みんなに見てもらわないといけないんだよ」

礫から見えないところにいるST☆RISHと蘭丸、嶺二、藍。

「見てなにになるんだい?」
「テメェらの考え方が変わる」
「は?」

分からないという顔をする後輩に先輩3人は溜息をついた。

「今日は、お願いします」

恋人役のモデルの人に近づく。

「あ、お願いします」
「ずっと座ってて疲れちゃうかもしれないですけど…」
「大丈夫ですよ。御幸さんのPVに出れるなんて光栄です。この歌聞いて、私泣いちゃいました」
「ありがとうございます」

病室のセットに入った私は棚の花瓶を手に取る。

「どうかしたか、御幸君」
「まだ、最後に迷ってるんです」
「…時間はある。いいモノの為なら、時間はいくらでも割いてあげるよ」
「ありがとうございます」

撮影が始まって、辺りが静かになる。
礫の歌が流れて、演技が始まる。
今までに見たことのないような優しい微笑み。
俺達は言葉を失っていた。
目を逸らせない演技だった。

「はい、OKー。じゃあ、次ラストー」
「礫って、あんなに演技できたんだな」
「そうですね…」

セットの枯れた花を見つめる。

「どうする?最後」
「…決めました。1回撮ってみていいですか?」
「いいよ」

監督のスタートの声が響く。


病室に一人たたずむ礫が窓枠に腰かけて手紙を手に持つ。
贈られた詩が書かれた手紙。
それを読んだ礫の頬に一筋の涙が伝い微笑み、礫の姿が消える。
そして、手紙だけがひらひらと空中をさまよいベットに落ちた。

「はい、カットー」

セットの向こうから礫が出てくる。

「今の、ダメですかね…」
「いやいや、最高だよ。御幸君」
「あ、ありがとうございます」

演技を終えて監督と話すと見ていたモデルの人が駆け寄ってくる。

「最後、感動しちゃいました」
「え?」
「彼女を追って、死んじゃうなんて悲しいけど…それだけ、愛してたってことですよね?」
「そうですね」

本当に、そのままやっちゃったな…
幸せになってって言ってるのに死ぬのはなぁ…

「あ、監督」
「どうかしたか?」
「俺が飛び降りたあと…手書きのテロップで君の居ない世界に幸せなんてないっていれて欲しいんです」

監督は笑って、わかったよと言ってくれた。
そこでの撮影は間もなく終わり、その後すぐに、別の場所に移動する。

「日向サーン」
「お、礫。PV撮影終わったか?」
「バッチリです。今日、よろしくお願いします」

そう、今日は日向サンと広告撮影。
楽しみすぎる。

そこにもまた、彼らの姿。


****


礫が着替えのために楽屋に行ったとき見慣れた奴らを見つけた。

「何してんだ?お前ら」
「日向先生!!?」

来栖が驚いたように目を丸くさせる。

「みんなに礫の仕事を見せようと思ってね。龍也さんもいるとはねぇ」
「寿…お前ら、何考えてんだ?」

先輩組の3人を見ると黒崎がニヤリと笑った。

「もう、お仲間じゃねぇってみせてやろうとおもってな」
「…性格悪いな…」
「同期だろうが先輩は先輩だってわかってもらうには礫の姿を見せるのが一番でしょ?」

まぁ、確かにそうだけど…
同期で先輩っつーのは、関わりづらいよな…

「まぁ、いい。大人しくしてろよ」

礫が出てくる。
初めてみたスーツ姿。

「どう?似合う?」

礫が駆け寄ってきてくるりと回る。

「似合ってるぞ、無駄に」
「無駄かよ」

いつもの銀髪はウィッグで茶髪になってる。

「礫、茶髪でもいいんじゃねぇか?」
「え?銀似合わない?」
「似合ってるけど、それもいい」

礫はスタイリストさんに駆け寄って鏡を見る。

「わかんねぇ…」
「まぁ、いいよ。始めるぞ」
「はい」

カメラの前に立つと礫の雰囲気が変わる。
これで17歳か…

「礫君、視線こっち」
「はい」
「もう少し近づいてー」

礫はカメラマンの指示に正確に答えていく。
こいつ、いつの間にこんなに…
自分より低い位置にある礫の頭を見つめると視線がこちらに向く。

「どうしたの?日向サン」
「いや…」

礫が目を細めて笑う。

「疲れてる?」

頬に伸ばされた手。
カシャッとシャッター音が聞こえた。

「あれ、撮っちゃいました?」
「いい感じだったからつい。いいよー、続けて。セクシーな感じにね」
「あ、はい」

礫は困ったように笑ってもう1度こちらを見る。

「最近疲れてるでしょ?」

頬に伸ばされてた手の親指が目の下を撫でる。

「社長のせいで予算がな」
「…今日学園でやってる?」
「おう」
「時間あったら手伝うよ」

礫は手を離してネクタイを引っ張る。
近付いた顔に、驚く。

「セクシーに、って言ってたし?」
「はいOK〜最後のいいよ、礫君」
「え?本当ですか?やった」

撮影した写真に写る礫はやっぱり、前とは全然違っていた。

「お疲れ」
「お疲れ様、日向サン。今日行けたらお手伝い行くから」

礫はマネージャーの方に歩み寄っていって、すぐに姿を消した。

「いやー礫君いい顔するねー教え子でしょ?」
「そうですよ。昔は無表情だったんですけどね」
「最後のこれ、一番いい」

ネクタイを引いて、妖艶に微笑む礫。
本当に変わったな…
PV撮影を終え、日向サンとの撮影も終了。
次は、ラジオの生収録。ゲスト誰だっけ?

収録場所に着いて、楽譜を眺める。
合間にもやらないと時間がない…

「おはやっぷ〜、礫君」
「林檎ちゃん!!?え、今日のゲスト!?」
「正解っ」

あぁ、これは…大変そうだ…

そして、また礫をみつめる影。

「仕事いっぱいですね〜」
「ここまで詰めていては体がもたないだろう…」
「スゲェな…」

収録が始まる。

「みなさん、こんにちは。パーソナリティの御幸礫です。そして、今日のゲストは…月宮林檎さん」
「よろしくねっ」
「今日は俺と、月宮さん2人で1時間お送りしていきます」

収録を終えて林檎ちゃんに挨拶をして、車に乗り込む。
もう7時か…

「このあとは?」
「今日はこれで、お終いです」
「あー、じゃあ学園にお願いします」

8時ごろ学園について職員室に向かう。

「失礼します。日向サン?」
「お前、本当に来たのかよ」
「約束だったんで」

日向サンの隣の椅子を借りて、資料に目を落とす。

「今日はもう終わったのか?」
「はい。あ、ここ…間違ってません?」
「あ?本当だな…」

それから日向サンの手伝いを終えて、時計を見ると10時。

「お前、何で帰るんだ?」
「タクシーですよ。寮に戻ってから…作曲して…」
「ちゃんと、休めよ?マスターコ−スもあんだろ?」

日向サンの言葉に頷く。

「みんなと仲良しこよしをするつもりはないんで、そこまで負担はないかなと…」

困った顔をする彼に微笑む。

「同級生で友達なのは確かなんですけどね…仲良く上には行けない」

鞄から出した楽譜にペンを走らせる

「蘭丸さん達に、正しい判断をしてくれると信じてますって伝えたんだよ」
「え?」
「正しい判断をしてもらうために、俺が惑わせるわけにはいかない」

情けはいらないだろうし…

「んなこと考えなくてもいいだろ?仲良くしてぇならすりゃいいだろうし」
「今日さ、俺の仕事について来てたでしょ」
「え?…気づいてたのか?」

小さく頷いてペンを止める。

「蘭丸さん達が何を考えてたのか知らないけど…あの人たちのことだから俺のことを考えての行動だと思う」
「…そうだな」
「それは多分ST☆RISHのみんなにしたらいいことじゃないんじゃないかなって」

止まっていた手を再び動かす。

「ST☆RISHのみんなのためにも、蘭丸さん達のためにも…俺は自分の意志で何もしない方がいい」
「社長からはなにか頼まれてるのか?」
「彼らに足りないものを見つけるための道を示すことは頼まれたよ」

それ以外に、私にすべきことはない。

「また一緒に楽しくしてェとか思わねぇのか?」

日向サンの質問に私は曖昧に微笑むだけだった。
家に帰って壁に写真を貼っていく。
ラジオのゲストだったり、番組の共演者だったり、もちろん蘭丸さん達も。
なにか1つ一緒に仕事をしたら写真を残すことにしている。
もう既に結構な量の写真が壁を埋め尽くしていた。

「これが、私の軌跡…」

御幸礫として進んできた道。
それを眺めているとノックの音が聞こえた。

「礫…いいですか?」
「トキヤ?いいよ、入っておいで」

トキヤが部屋に入ってきてドアを閉める。

「何か、用か?」

写真から視線を彼に向ける。
顔を伏せた彼。

「…俺の仕事は、どうだった?」
「え?」
「見に来てたろ?」

驚いて顔を上げたトキヤが小さく頷く。

「先輩達に、なんて言われて見に来たの?」
「え?あ…えっと…考え方が…変わると、言われました」
「変わった?」

冷蔵庫から紅茶を出して、グラスに注ぐ。

「座れば?」

グラスをテーブルに置いてソファに座る。
トキヤは、少し離れて隣に座る。

「変わった、と思います。みんな」
「そう。」
「黒崎さんに言われたんです。礫はもう、友達ではないと」

蘭丸さん…まぁ、あの人らしいか…

「なんとなく、貴方の仕事を見て言ってる意味が分かりました」
「…そう」
「多分、みんな…」

紅茶を飲んで、鞄から手帳を出す。

「正直、何だっていいよ」
「え?」
「友達と思っていようが、いなかろうが…俺達はプロだろ?仲良しこよししてる暇はないよ」

トキヤが、グラスを持って俯く。

「俺とお前らは学園にいたときから道を違えてる。今更どうこうする問題じゃない」
「そう、ですね」

コトッと、テーブルにグラスを置いた音が響く。

「それでも私は…昔のように貴方の友人に戻りたい」
「…だったら、早くおいで」
「え?」

立ち上がって、彼を見る。

「俺のいるところまで」

手を、彼に伸ばす。
その手を取って、はいと返事をしたトキヤに微笑む。

「まぁ、俺はみんな友達だと思ってるんだけどな」
「それでも、あの時とは違います」
「そうかな…」

トキヤは、今日は帰りますと言ってドアのほうに歩いて行く。

「…絶対に、貴方に追いつきます。胸を張って友達と言えるように」
「楽しみに待ってるよ」

トキヤは昔のように優しい笑みを見せて、部屋を出た。

「…さてと、早く曲を作らないとかな…」

鞄から出した譜面をテーブルに広げる。

「俺の歌、歌えるようになれよ。出来るだけ、早くね」



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