雨の中蘭丸さんと仲直りした次の日。
私は鳳さんに電話をかけていた。
「もしもし、御幸です」
『礫か。どうした?』
「この間の件…申し訳ないんですけどお断りさせてください」
電話の向こうの鳳さんが溜息をついた。
『理由、聞いてもいいか?』
「裏切れない、大切な人がいます」
『そうか…移籍は諦めよう。だが…一緒に歌うことは諦める気はない』
「コラボなら、喜んでお受けしますよ」
鳳さんが電話の向こうで笑う。
『楽しみにしてるぞ、礫』
「はい」
電話を終わらせて、寮の部屋から出る。
「礫…」
「蘭丸さん?おはようございます」
私はニコリと微笑む。
蘭丸さんは目を丸くした。
「大丈夫ですよ。移籍の件は断りましたから」
「そうか…」
「グダグダ悩んでた自分が今は、馬鹿らしいです。ファンを信じられなかった俺が悪いです。」
蘭丸さんは安心したように微笑んだ。
「早乙女さんとの件はまだ解決してないし、悩み事もたくさんありますけど…蘭丸さんがいれば、なんとかなる気がします」
「そうか…よかったよ」
嬉しそうに笑った蘭丸さんが私の頭を撫でた。
「俺、仕事行ってきます」
「おう、いってこい」
頭を撫でた蘭丸さんに背中を向けて歩き出そうとした私の体がふらりと傾く。
「あ、れ…?」
「礫!!?」
目の前が白く靄がかる。
「おい、礫!!?」
あー…そういえば…最近まともに寝てなかった…
意識が遠くなっていくのを仕方なく受け入れた。
ふと、気づくと知らない場所にいた。
辺りを見渡して目を丸くした。
知らない場所じゃない。
私はここを良く知ってる…
「礫、どうかした?」
「朱利…?」
ベッドの中の朱利がニコリと笑う。
「なんで、驚いてるんだよ。礫」
クスクスと笑う朱利に頭がついていかない。
今までのは、夢?
朱利は…生きてる…の?
「おいで、礫」
腕を広げた朱利に恐る恐る抱き着く。
「久々の礫の香りだ」
「朱利」
肩に顔を埋めた朱利が背中に手を回す。
「会いたかったんだ、ずっと」
「え?」
「礫の詩、ちゃんと届いたよ」
嬉しそうに言った朱利に目を見開く。
やっぱり、死んでしまったのは夢じゃない…
「嬉しかったんだ、礫が俺の詩歌ってくれたこと」
「ちゃんと、聞こえてたんだ」
「うん。聞こえたよ。花束も、ありがとう」
髪を撫でる手がひどく優しい。
「独りにしちゃって、ごめんね。本当は傍に居たかったんだよ」
「朱利を責めてはいないよ。私の傍にいてくれたことに感謝してるんだよ」
「…傍に居たかったのにな。こんなにも礫を愛してるのに」
背中に添えられた手は震えてる。
「私も、愛してるよ…今だって」
「ありがとう、礫。けどね…俺のことは忘れて幸せになって欲しいんだよ」
「忘れられると思う?」
朱利が苦笑して、私の髪を撫でた。
「…思わない…俺だって忘れて欲しくもないけど…幸せになって欲しいじゃん?俺の愛した人なんだよ?」
「…幸せにか…」
「俺ね、ずっと礫を見てたよ。礫を任せられそうな人がいて俺凄い安心してる」
朱利は私から離れて額をコツンとぶつける。
「幸せになってくれよ、俺が幸せにさせれなかった分も」
「うん…」
「あ、けど…次に会うときは」
額にキスをした朱利がニヤリと笑う。
「次会うときには俺が奪うからな」
「うん」
朱利は私をもう1度抱きしめた。
「そろそろ、時間かな…」
「え?」
「今度こそさよならだよ」
悲しそうな朱利が私の頬にキスを落とす。
「俺があげたものとか前の世界から持っていったものはもうすぐ砂になる」
「え?」
「ごめんね。けど…俺のことは忘れないだろ?」
自信あり気な朱利に笑いながら頷く。
「忘れないよ、絶対に」
「次会うときは、今までの分も愛してやる。幸せになれよ」
「うん」
朱利の体がぐにゃりと歪んで消えていく。
「じゃあね、礫。サヨナラは言わないんだろ?」
「うん。言わない…。愛してるよ」
「俺もだ。じゃあな?幸せになれよ」
朱利が消えた途端、世界も歪む。
…ひどく温かい、夢だな…
「大丈夫か!!?礫」
目を開けて見えたのは心配そうな蘭丸さんと日向サンの顔だった。
「あれ…ここは…」
「お前の部屋のベッドの上だ」
蘭丸さんがこちらに水の入ったグラスを差し出す。
「あ、ありがと…えっと俺どうして…」
「ぶっ倒れたんだよ。黒崎がここまで運んで俺に連絡してきた」
「あ、ごめん…なさい」
冷たい水が体に染みわたる。
そう言えば…朱利に会ってたような気がするな…
「仕事は休みにして貰ったから、今日は休めよ」
「うん、ありがと蘭丸さん」
「じゃあ俺はもう行くから。頼んだぜ」
「あぁ」
蘭丸さんが部屋から出て行って、日向サンがベッドの横に椅子を持ってきて腰かける。
「平気か?」
「うん、大丈夫」
「そうか」
安心した表情の日向サンが私を抱きしめた。
「心配した。休みなんてほとんどなかったから…いつか、こうなるかもしれないってわかってたんだ…」
「俺は大丈夫だよ」
「もっと、気にかけておけばよかったんだ…もっと…」
背中に回された腕が震えている。
自分の腕を日向サンの背中に回して、ポンポンと子供をあやすように叩く。
「心配させて…ごめん」
「お前が倒れたって聞いて、死ぬかと思った」
こんなに、心配させてたんだ…
「ごめんね、ありがとう…日向サン」
「もっと、ちゃんと見ていればこんなことには…ならなかったのに…」
「日向サンは、悪くないよ。俺が自分の管理を怠ったからだ。…迷惑かけてごめんね」
日向サンが、私から離れて俯いた。
「…迷惑ぐれぇ好きなだけかけろよ」
「え?」
「好きな奴に迷惑かけられて嫌な奴なんかいねぇだろ」
え?
顔を上げると日向サンが真剣な瞳で私を見ていた。
「好きだ、礫」
「何、言って…」
「ずっと、好きだった。言うつもりなんてなかった…けど」
お前が言ったんだ。
そう言って、もう1度私を抱きしめた。
「許されねぇ恋は、ねぇんだろ?」
「それは…」
「俺は、礫が好きだ。この気持ちを恥じる気はない。…返事は、今は聞かねェから…」
体が離れる。
「日向、サン…?」
「無理すんなよ。俺はもう行くから」
部屋から出て行った日向サンの背中を見つめながらさっきの言葉を頭の中で繰り返す。
日向サンが、私を…好き?
「…嘘でしょ…」
翔にも、返事返してないのに…
また、悩みが増えそうだ…
枕に顔を埋めて、目を瞑る。
そういえば…さっき朱利が言ってた気がする。
礫を任せられそうな人がいるって。
「誰のこと…?」
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