倒れた次の日。
私はすっかり元気になっていた。

「礫、本当にもう平気か?」

心配そうに私の顔を覗きこむ蘭丸さんに微笑む。

「平気ですよ」
「そうか…」

蘭丸さんと嶺二さんのもとに行くと藍とカミュさんはもうそこにいた。

「こんにちは」
「礫、大丈夫だった?倒れたって聞いたけど」
「平気。心配かけてごめんね」
「貴様は、相変わらずだな」

呆れたように言ったカミュさんが頭を撫でる。

「ごめんなさい」
「礫君〜心配したよ!!?」

抱き着きながら言った嶺二さんに苦笑しながら視線を1階にいるST☆RISHに向ける。

「衣装合わせか」

林檎ちゃんと渋谷さんが持ってきた衣装を嬉しそうに見ている彼らを眺める。

「いいね〜楽しそうだなぁ〜」

嶺二さんが身を乗り出しながら彼らを見つめる。

「僕等もユニットの活動もっと増やしてもらわない?」
「俺達は基本ソロ活動がメインではないか。」
「わかってるよ〜。だけど、4人での活動も楽しいじゃん?」

そう言われれば、4人で歌う曲を書いたのはマスターコースが始まるときのだけだ…
一緒にいることは多いのになぁ…

「社長の命令だからたまに一緒に歌ってやってんだ。これ以上増やしてどうすんだよ」
「えぇ〜、ランラン!!そんなこと言って、本当は気に入ってるんでしょ?QUARTET NIGHT。だって、ポワゾンKISSも楽しかったし〜?僕達4人って意外と相性いいと思うんだよね。礫君もいるしさっ」
「冗談じゃねぇぜ。俺は馴れ合いは嫌いなんだよ。礫の詩は1人で歌えばいいだろ?」

そんな2人のやり取りをカミュさんは黙って見つめていた。

「カミュさん」
「どうした、礫」

ST☆RISHのダンスレッスンを見に行くと言い出した嶺二さんが蘭丸さんと藍を連れてさっさと歩いて行ってしまった。
カミュさんと2人なった私は視線を先ほどまで彼らがいた場所に向けながら口を開く。

「何か…考え事ですか?」
「…皆、変わったな」
「そうですね」

蘭丸さんも、藍も、嶺二さんも…もちろん、カミュさんも…

「変わりましたね」
「貴様は変わらんな」
「…変わりませんよ、俺は。」

クスクスと笑うとカミュさんが首を傾げた。

「…4人の曲。作るの楽しかったんですよ」
「だからどうした?」
「ユニット活動、して欲しいなって」

嫌そうな顔をしたカミュさんに苦笑する。
私がどうにかしなくてもきっと…みんな、七海に変えられる。

「ごめんなさい。俺、用事があるので蘭丸さん達に伝えておいてください」
「今日はオフじゃなかったか?」
「…やらないといけないこと…あるので」

1人部屋に戻った私はファイリングしていた楽譜を取り出す。

「これも、早乙女さんに提出かな」

ペアの曲を作ったのと同じ頃、内緒で作った4人用の詩。
それを持って、私は社長室に向かった。

「失礼します」
「どうしマシター?」
「これ、提出です」

渡した楽譜を早乙女さんがぺらぺらと捲っていく。

「前に依頼されたペア曲と、ST☆RISHのソロ曲。それから…これから必要になる4人曲です」
「OKOK〜。受け取りまショウ。BUT!!ST☆RISHのソロ曲はユーが手渡ししてくだサーイ」

つき返された楽譜を受け取って、視線を落とす。

「いつがいいですか?」
「うたプリアワードのあと、ユーの重大発表をする素晴らしい場を設けマース。その時に報告後に渡しちゃってくだサーイ」

素晴らしい場、ねぇ…

「ユーは、うたプリアワードに出たかったデスカー?」

突然の質問に私は早乙女さんを見た。

「…お前の様子がおかしいことは気付いていた。朱利をやめてから段々と、崩れていったのは知っていた。」
「どういう意味ですか?」
「壁の写真…」

壁1面を埋め尽くした写真を思い出して目を伏せる。

「…お前は、どうしたい?確かにお前をこの世界に引き入れたのは私だ。だが…進むのはお前だ」
「…貴方はズルい人です」

手に持った楽譜に視線を落としながら言葉を続ける。

「正直、私は貴方にいい印象は持っていないです。出会ってすぐに貴方に生死を決められ、いい印象は持つはずないですよね。日向サンに無理矢理生かされて結局こんなところまでズルズルと来ました」

やめてしまおうかとも、思った。
朱利を失って逃げた私にはお似合いの結末。
けど…

「裏切らないと、約束しました。だから、逃げません。けど…私は貴方の操り人形にはもうなりません」

早乙女さんの返事を聞かずに部屋を出る。

「胸を張って、蘭丸さん達の隣に立つ」

そして…ファンのみんなの前へ…


「ランラン、なにしてんの?」
「お前らなんで毎日アイツらの面倒を見る」

蘭丸さんと嶺二さんが話す声が聞こえて足を止めた。

「え?いやぁ、何もしてないよ。手伝おうと思ったんだけどね〜…あれ、ランラン気になるんだ?彼らのこと」
「あ?」
「あ、あははは…冗談冗談…。ねぇランラン、この前言ったことだけど本気で考えてみない?」

…ユニットの活動のことか…
この間勝手に出した楽譜を思い出して苦笑する。
バレたら怒られそうだな…

「馬鹿か、テメェは」
「仲間の情熱を近くで感じるのって素敵だと思うんだよね〜」
「くだらねぇ…」

小さく吐き捨てた蘭丸さんの言葉を聞きながら背中を壁に預ける。

「俺はいい。礫以外とつるむ気はねぇ」
「あ、ランラン…」

離れていく足音を聞きながら、嶺二さんに歩み寄る。

「嶺二さん」
「礫君?」

驚いている嶺二さんに微笑む。

「俺は、賛成ですよ。ユニット」
「え?」
「4人の詩、作るの楽しかったですから」

驚いた表情から、笑顔に変わっていく嶺二さんの表情。

「ありがとっ」
「いえ。届いてますよ、蘭丸さんに」
「え?」
「嶺二さんの言葉はちゃんと、届いてますよ。あとは、きっかけがあれば…」

そうだね、と笑った嶺二さんは凄く嬉しそうだった。

「礫君が来てから僕等は変わったんだよ」
「え?」
「昔は一緒に行動することなんてほとんどなかった。けど、礫君が来てからね…礫君を中心に僕らが揃うんだ。それが凄く、嬉しいんだよ」

ギュッと抱き着いてきた嶺二さんのふわふわの髪を撫でる。

「ここが、僕の居場所なんだ」
「…俺の居場所も…ここです」
「えへへ、嬉しいなぁ」

髪を撫でていたのと逆の手を嶺二さんが握る。

「礫君」
「はい?」
「どんなことも、僕等は一緒に背負うよ」
「え?」

真剣な瞳が私を映す。

「礫君だけ背負う必要なんてないんだよ?」
「あ、あの…嶺二さん?」
「頼ってね。いつでも。泣きたいなら胸貸してあげちゃうよっ」

…嶺二さんにも、気づかれていた?

「ランランだけじゃないよ?気づいてるのは。ミューちゃんもアイアイも気づいてる。けど、何も言わないのはね…礫君の言葉で礫君の意志で話してほしいんだ」
「え?」
「全部話せとは言わない。けど、礫君が伝えられるって思った分だけでも、僕等に話して」

体が離されても、繋がれた手離れない。

「温かいよね」
「はい」
「ランランにも、わかって欲しいんだよね〜。この、温もり」

嶺二さんは手を離して、手の平を見つめていた。

「多分、誰よりも…蘭丸さんが温もりを求めてる」
「え?」
「そんな気がするんです」

裏切ってしまったときの表情で、悟った。
なにか、トラウマになるような過去がある。
だからこそ…蘭丸さんにはみんなと歌って欲しい。

「楽しみですね」
「え?」
「4人で歌った俺の詩が世間に出るのが」
「そうだね」


****


藍はST☆RISHのダンス練習に付きっきりだ。
何をするわけでもなくただ、練習を眺めていた。
蘭丸さんとカミュさんも考え込むことが増えた。
嶺二さんは相変わらずかな…

聞いた話ではセシルがダンスを踊れなくて大変だったらしい。
翔がマンツーマンで教えてるんだっけ?

「あーっ、疲れた」

仕事から帰ってきた私の耳に届いた翔の声に苦笑する。

「お疲れさま」

ロビーのソファに寝転んでいた翔の顔を上から覗きこむ。

「うおっ!!?礫!!?」
「お疲れみたいだね」
「まぁな」

ソファにぐったりと座った翔にさっき買ったばかりのジュースを差し出す。

「飲む?」
「あ、サンキュー」

プシュッと炭酸が抜ける音がしてすごい勢いで飲む翔にクスクスと笑う。

「セシル、大変なの?」
「おう。て、そういや…1回も見に来てねぇな」
「忙しくてね」

本番で完成した姿が見たいっていうのもあるけどね…

「本番楽しみにしてろよ?絶対勝つからな」
「うん、楽しみにしてる」
「そ、それから…」

ペットボトルを握って目を逸らした翔に首を傾げる。

「勝ったら、今度こそ…」
「ん?」
「今度こそ…ちゃんとこ、告白させろよ」

だんだん小さくなっていく声でも、はっきり聞こえた。

「それも、楽しみにしてるよ」
「あー、恥ずかしい!!練習戻るな!!」
「あ、うん。頑張って」

走って行こうとした翔を呼び止める。

「肩の力、抜いて。無理しないで」
「おうっ」

キラキラとした笑顔で、右手を突き上げた翔に微笑んだ。

「それの返事も考えないといけないのか…」

悩みは消えないなぁ…
「礫」
「あれ、藍?」

ヒョコと顔を出した藍に手を振る。

「どうしたの?」
「礫は、どう思う?ST☆RISH」
「勝つかどうか、ってこと?」

コクリと頷いた藍。
藍は本当に変わったな…

「…俺はね、わからない」
「わからない?」
「うん。ST☆RISHの力もHE☆VENSの力も知ってる。だから…わからない」

どっちも、スゴイ力を持ってる。
嶺二さんだったら、ST☆RISHが勝つよとか簡単に言っちゃうんだろうな…

「データじゃ、彼らは負ける。なのに、何であんなに…」
「データは、覆せちゃうんだよ」
「え?」

私を見上げて首を傾げる藍に微笑む。

「過去のデータで出来ることは予測だから。本当の未来なんか見えないよ」
「けど…」
「天気予報ってさ、結構な確率で外れるじゃん?」

突然の私の言葉に藍はわからないという雰囲気になる。

「もし、雨だと予報されても突然止んで虹がかかるかもしれない」
「虹?」
「何が起こるかわからないのが…この世界だよ。俺はね、綺麗な虹が見たいな」

7人で紡いだ歌で、空にかかる虹。

「諦めることは誰でもできる。逃げることほど簡単なことはない。逃げない彼らを信じることは出来なくても…応援することはできる」
「応援…」
「奇跡は、信じれば起きちゃうものだよ」

私が、朱利にもう1度会えたように…

「強い気持ちは、案外届いちゃうんだ」
「そっか…」
「応援してあげて?彼らを」
「うん」

頷いて、レッスンルームに戻っていく背中を見つめる。

「死んだ私が生き返るような、奇跡が起こる世界なんだ。きっと、また…奇跡が起きる」

彼らの次は、私の番だし…
頑張るかな…



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