うたプリアワード前日の夜。
レッスンルームの窓の外にST☆RISHのメンバーと七海が見えた。
自室のベランダからそれを眺めながらクスクスと笑う。

「仲良しだね…本当に」

ベランダで空を見つめている蘭丸さんに視線を向ける。

私には気づいてないけど…
きっと、嶺二さんの言葉に悩んでるんだろうな…

「ねぇ、朱利。奇跡はきっと起きるよね」

返事はなかったけど、温かい風が頬を撫でた。
部屋に戻って壁の写真に手を伸ばす。

「みんな、綺麗な瞳をしてる」

彼らを邪魔するものはもう何もない。
コンコンと控えめなノックの音が聞こえる。

「どうぞ?」
「こんばんは、礫君」

ドアから顔を覗かせた嶺二さんはひらひらと手を振る。

「どうしたんですか?」
「おとやんとトッキーが出て行っちゃったから寂しくて」
「子供ですか?…まぁ、入っていいですよ」

部屋に入ってソファに座った嶺二さんに冷たいお茶をだして、隣に座る。

「なんだか、緊張しちゃって」
「嶺二さんなにもしないでしょ…」
「そうなんだけどさ〜傍で見てきたからね」

優しい表情の嶺二さんがグラスを傾ける。

「信じてるんでしょう?」
「僕は信じてるよ。けど、少し不安だからさ」
「大丈夫ですよ、きっと」

嶺二さんが壁の写真に視線を向ける。

「あれ?」
「どうかしました?」
「虹になってる…」

壁の写真が背景の色ごとに分けて、虹を作りだしてある。
倒れた日に、暇になって作った奴だ。

「虹に見えます?」
「うんっ!!すごい」
「明日は…きっと虹がかかるんです」
「え?」

首を傾げた嶺二さん。

「7人の紡いだ音がきっと虹みたいに…見た人を聞いた人を幸せにする」
「…そうだね」

安心したように笑った嶺二さんにつられて私も微笑む。

「きっと、綺麗な虹になるよ」
「はい」


****


うたプリアワード当日。
仕事を終えて急いで会場に向かった。
入口まで迎えに行くという蘭丸さんの言葉に甘え、会場に着いてからメールを送る。

「お前にとって仲間ってのはなんだ?」

関係者入口から入ってすぐのところで聞こえた蘭丸さんの声に首を傾げる。

誰と話してるんだろう?

「私にとって仲間はお互いの情熱を感じあえるそんな存在です」

七海…?
情熱って…嶺二さんも言ってたな…

少しして、蘭丸さんが私の前に現れた。

「悪ぃ、待たせたか?」
「平気ですよ」
「そうか」

どこか伏せられた瞳に私は視線を落とす。
蘭丸さんはどんな過去を抱えてるんだろう。
お互いの腕に光るお揃いのブレスを見つめて、蘭丸さんを見る。

「なぁ、礫…」
「なんですか?」
「どうなると思う?今日の対決」

蘭丸さんがこんなこと聞くなんて…やっぱり、少しずつ動きだしてる。
蘭丸さんの心が…

「俺にはわからないですよ」
「そうか…」
「けど、きっと…何かが変わります」

首を傾げた蘭丸さんにクスクスと笑うと髪をぐしゃぐしゃとかき回される。

「笑ってんじゃねぇよ」
「ごめんなさい」

指定された場所。
今回も蘭丸さんと嶺二さんの間に座って、始まるのを待つ。

花火が打ち上げられ、映像が流れるのを眺める。
…解説、日向サンなんだ…

「始まったねぇ〜」
「そうですね」

高笑いをしながら登場した早乙女さんとレイジングさん。
あの二人、なんか似てるな…

「行くぞ、早乙女!!ギブアップせいっ!!いでよ、HE☆VENS!!最強の音楽戦士たちよ、レイジングソウルッ!!!!」

空から青い光と共に現れた3人の歌が会場に響く。

やっぱり、彼らは上手いな…

彼らの演奏が終わり、会場は歓声に包まれる。

「なんなの、あのレベルの高さ」
「あれで新人とはな…」
「以前より力が増してるね」

凄い成長スピードだな…
きっと、一緒に歌ったら楽しいんだろうな…

「はぁーあい、おはやっぷ〜。こちらはリポーターの月宮林檎よ〜」

あれ、林檎ちゃんまで駆り出されてたんだ…
俺が駆り出されなかったのは不幸中の幸いだな。

「HE☆VENSの皆さん、お疲れ様。ステージ対決の先行ということで歌い終わっての感想はどう?」

林檎ちゃんが向けたマイクを鳳さんが奪い取る。

「くだらないな。そもそも俺達に戦いを挑むこと自体無謀だ。とうの昔からHE☆VENSの勝ちは決まっている。」
「ST☆RISHの皆さん、今のうちに解散のコメント考えておいた方が良いよ〜」

ウインクをしながら言ったナギに歓声が上がる。

「こんな茶番より俺達だけのライブ見たくないか?天使たち!!」

会場がHE☆VENS一色に包まれていく。

「ヤバいよ、このままじゃ彼ら…」

立ち上がった嶺二さんの手を掴む。

「おい。ステージの上で頼れるものなんていねぇこと知ってんだろ」
「わかってるよ、わかってる…でも…」
「1度上がった幕はアイツら自身が下すしかねェんだよ」

それだけ言って黙ってしまった蘭丸さん。
私は掴んだ嶺二さんの腕を引く。

「礫君?」
「信じるんでしょ?」
「うん。けど…」
「信じてあげて、彼らを。きっと、大丈夫だから」

私は隣に座った嶺二さんに微笑んだ。

「大丈夫、だよ。ね?」
「うん」

いつの間にか、会場からはST☆RISHコールが聞こえてくる。

ステージに登場した彼らに、歓声が上がった。
初めて見た彼らのダンス。
彼らも随分とうまくなったな…

突然会場が不思議な雰囲気に包まれる。
私以外の全員がうっとりとしているのを見つめる。
一瞬静かになった会場が歓声に包まれる。

歓声がある程度止み、審査が開始される。
画面にはカウントが表示され、ぐんぐんと数字が増えていく。

「待ていっ!!」

それを止めたのはレイジングさんだった。

「審査結果など必要ない!!勝負は既についておる」
「まだ採点が!!」
「わからんのか!!?自らの音で人を幸せにと願うあの真心。奴らのほうが数段上であったわ」

WINNER ST☆RISH
と映し出された画面。
やっぱり、勝っちゃったな…アイツら。

「負けた…この、俺達が…」
「誇り高きレイジングエンターテイメントに負け犬は不要!!ここに、HE☆VENS解散を宣言する」

目を伏せた彼らと、聞こえた悲鳴。

「待ってください!!」
「解散なんてダメだよ」
「俺達は勝ったなどと思っていない」
「そもそも音楽に勝ち負けなんてあるのかい?」

四ノ宮、音也、聖川、レンの順で言った言葉。

「敗者への情けなんていらないよ」
「違いますよ。聞いてください、あの声を」

観客の解散を悔やむ泣き声と悲鳴が響く。

「彼らの解散を取り消してください」
「お願いします」
「た、たわけたことを…そのようなことが出来ると思うか」

シリアスなムードをぶち壊すように聞こえてきた笑い声に溜息をつく。
いつの間に用意したかもわからないゴンドラに乗る早乙女さんにスポットライトが当てられる。

「なるほどなるほど。Mr.レイジング。この大会の副賞をご存知ですか?」
「勝者の望みはなんでも…」
「そう、なんでも叶えられるのです!!つーまり、HE☆VENSの解散はなくてよかバッテン!!それがユーたちの望みなら誰も異論はナイッ」

早乙女さんの言葉に歓声が上がる。

「解散、しなくて済むんだ…」

肩の力が抜ける。
これで、一緒に歌う約束が守れる…

「音楽に勝ち負けはない、か…彼ららしいよね」

嬉しそうに言った嶺二さんに、無言で立ち上がった蘭丸さん。

「ランラン、どこ行くの?表彰式がまだだよ?」
「こんなライブ見せられてじっとしてられっかよ」
「え?」
「やるなら中途半端はねぇからな」

蘭丸さんの言葉に私は微笑む。

「え?何が?」
「QUARTET NIGHTに決まってんだろ!!」
「ランラン…」

驚いていた嶺二さんの顔が笑顔に変わる。

「じゃあ、戻ろう戻ろう」

嬉しそうに、席に座らせた嶺二さんが私に微笑む。

「ありがと、礫君」
「俺は何もしてないよ」

ST☆RISHがマジLOVE1000%を歌い始める。

「みんな凄ーい」

みんながマジLOVE1000%を歌い始めるのを見てから席を立つ。

「礫?」

私の名前を呼んだ蘭丸さんにニコリと微笑んである場所へ向かった。
見上げた夜空には綺麗な虹がかかって見える。

「私には…届かない。けど…きっと幸せになれるんだろうな…」

向かった先のドアをノックする。

「失礼します」
「礫…?」

驚いているナギと鳳さん。綺羅さんも驚いてる…

「お疲れ様です」
「礫、どうして…」
「友人に会いに来るのに理由が必要ですか?」

私の言葉にナギがすごい勢いで飛びついてくる。

「…ナギ?」
「負けた…」

小さく震える肩を抱き寄せる。

「すごかったよ、ナギたちの歌」
「だが、俺達は負けた」
「…鳳さん達が歌ったあの詩はST☆RISHのために書かれた曲なんです。俺が、皆さんにために書いた詩と曲だったら…勝てたと思いますよ」

私の言葉に鳳さんが目を丸くした。

「そんなに驚かないでくださいよ」
「そんなこと言われるとはな…」
「俺はアイツには負けないですよ。…ナギ、泣かないで」

ふわふわの髪を撫でると首を横に振る。

「…話いや、頼みがあってきたんです。皆さんに」
「俺達にか?」
「はい」

涙目のナギがこちらを見上げる。

「聞いていただけますか?」
「あぁ。座ってくれ」
「ありがとうございます」



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