うたプリアワードの次の日。
ST☆RISHの打ち上げが開催されていた。
仕事を終えてそこに向かった私は入口で立ち尽くしていた。
中から聞こえる騒がしい声に溜息をつく。
「入りたくないな…」
「ねぇねぇ、礫君まぁだー?」
「おい、林檎飲み過ぎだ!!」
…うわぁ…
林檎ちゃん飲むと面倒なんだよなぁ…
もう少し時間を潰してから行こう、と入口に背中を向けて歩き出そうとすると誰かに腕を掴まれた。
「え?」
「礫…」
「トキヤ?」
振り返ると私の腕を掴み俯くトキヤがいた。
「…あの、少し…時間、いいですか?」
「話、だっけ?」
「はい」
そこから少し離れた河原にトキヤと向かった。
「お疲れ様、トキヤ」
「ありがとうございます」
トキヤは微笑んでから、目を伏せる。
「…いいよ、トキヤのペースで」
「え?」
「ゆっくりで、いいから。俺はちゃんと話聞くし」
トキヤは私を見て、また目を伏せる。
「礫は…黒崎さんと…付き合っているんですか?」
「…え?」
「あ、いや…あの…」
蘭丸さんと?
付き合う?私が?
「付き合ってないよ?」
「え?」
「仲良くさせて貰ってはいるけど…」
安心した表情になって、すぐに真剣な瞳が私を映した。
「あの…礫…好き、です。…貴方のことが好きなんです」
「え?」
「…すみません…急にこんなこと」
トキヤが、好き?
私を?
「…伝えるつもりなんて、なかったんです。けど…」
「…けど?」
「隠し続けることは…できそうになかったので」
すみません、と小さな声で謝ったトキヤに視線を向ける。
「今すぐに、返事はできない」
「え?」
「…少し、考えさせてほしい…かな」
目を丸くしたトキヤに微笑む。
「ごめんね、すぐには答えられなくて」
「いえ、考えていただけるだけで嬉しいです」
「…トキヤは、気づいてるんでしょ?俺の本当の…」
言葉を続けようとした私の手をトキヤが握った。
「…社長室での話を聞いて…わかりました。けど…嬉しかったんです」
「え?」
「素直に想いを伝えられるってことが…ただ、嬉しかったです」
微笑んだトキヤは、私の手を強く握る。
「貴女がいたからここまで来れたんです」
「トキヤ…」
「好きです、本当に。女性の礫も、男性の姿の礫も…私は本当に、好きです」
「ありがとう」
2人で打ち上げ会場に戻るとすごい勢いで抱き着かれる。
「礫君〜」
「り、林檎ちゃん!!?」
「お〜そ〜い〜」
頬を紅く染めた林檎ちゃんが私をギチギチと力を強くしていく。
「…あ、の…苦し、い」
「おい、林檎!!」
「…日向、サン…」
林檎ちゃんを引きはがした日向サンが溜息をついた。
「大丈夫か、礫?」
「はい、なんとか…」
「アイツらになんか、言ってやれよ」
指差す先にいるST☆RISHに視線を向ける。
「…それは、後でいいかな」
「え?」
「嶺二さんたちとワイワイしてるところ邪魔したくないし」
苦笑しながら彼らを見つめる。
「お前のこと待ってたぞ?アイツら」
「…ん〜…」
「ほら、さっさと行け」
「え、ちょっと!!?」
無理矢理腕を引かれてそこに連れて行かれる。
「あー、礫!!おせぇぞ!!」
「あ、いや…」
「遅いよ〜」
翔に腕を引かれて座る。
「昨日探したのにいねぇし」
「あ―…ごめんね?えっと、お疲れ様」
「おうっ」
それから彼らと話していた私の携帯が震える。
「あ、ごめん。電話だから」
携帯を片手に外に出る。
「もしもし?」
『俺だ』
「こんばんは、瑛一さん」
鳳さんと呼ぶのをやめて、瑛一さんと呼ぶようになったばかりで呼びなれない。
『昨日の話、許可が下りたぞ』
「本当ですか?嬉しいです」
『条件付き、だけどな』
「なんですか?」
瑛一さんが少し、言いにくそうに言葉を詰める。
『一度…俺の父に会うことが…条件だ』
「レイジングさんにですか?」
『あぁ…』
「わかりました。後日、挨拶に向かいますね」
悪いな、と瑛一さんが言う。
「いえ、我儘を聞いていただいてるんですから当然ですよ。じゃあ、これからよろしくお願いしますね」
『よろしく』
電話を切って私は手帳に予定を書き入れる。
「よし…」
打ち上げから数日。
私はレイジングエンターテイメントに行くために準備をしているとノックの音が聞こえた。
「どうぞ?」
「入るぞ」
入ってきたのは蘭丸さんだった。
「どうしたんですか?」
「……お前、どこ行くんだ?」
「え?」
冷たい瞳が向けられて私は首を傾げる。
「レイジングか?」
「あの、蘭丸さん?」
「…打ち上げの日、電話してたろ?鳳瑛一と」
確かにしていた。
けどどうして、蘭丸さんはこんなに冷たい瞳をしている?
「…お前を信じた俺が馬鹿だったのか?」
「あの、蘭丸さん。話がよくわからないんですけど…」
「…もういいわ」
「え?」
蘭丸さんは自分の髪をガシガシをかき乱してブレスレットをこちらに投げてきた蘭丸さん。
「あの…」
「さすがに2回目はねぇよ」
「2回目って…」
バタンとドアが閉じて、出て行った蘭丸さん。
話がよくわからないけど…
手の中にあるお揃いのブレスはきっと、別れを意味してるんだと思う。
自分が、何をしたんだろう?
わからない。けど…今日は、追いかけることはできない。
そのブレスを机の上に置いて、部屋を出る。
寮の前に止まっていた黒い車に乗るとニコニコと笑うナギが私の腕に絡みついた。
「礫、おはよう」
「おはよう」
「悪いな、わざわざ」
助手席に座っていた瑛一さんがこちらを見る。
「平気ですよ」
「…平気そうな顔はしてないぞ」
瑛一さんの言葉に慌てて鏡を確認する。
「…そうですか?」
「何かあったのか?」
「いえ…わからないです」
鏡から視線を瑛一さんに戻す。
「わからない?」
「はい。よく。わからないんです。けど…もしかしたら、終わっちゃったのかもしれないです」
机の上に置いてきたブレスを思い出して苦笑する。
「礫…」
「…大丈夫です、気にしないでください。俺はやるべきことがあるので…」
「無理しないでね?」
「うん」
瑛一さんとナギに連れられて向かった社長室に1人で入る。
2人はドアの前で立ち止まっている。
「直接会うのは初めてだな」
「はい。御幸礫です」
腰を折って挨拶すると独特な笑い声聞こえる。
「そう畏まらんでいい」
「いえ…そうは言われても…」
「フッまぁいい。座れ」
「ありがとうございます」
ソファに座ると、秘書と思われる女の人が紅茶をテーブルに置く。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて出て行ったその人から、レイジングさんに視線を向ける。
「例の件、本当にいいのか?」
「はい」
「初めてだろう?ST☆RISHとじゃなくていいのか?」
「…俺はHE☆VENSとやりたいと思ったんです。だから、お願いします」
頭を下げるとまた笑い声。
「貴様を取れなかったのが悔やまれるのう」
「その件は、すみませんでした。折角お話を頂いたのに…」
「裏切れぬ人がいるのだろう?」
「はい」
もう、戻れないかもしれないけど…
私は裏切りたくない。
湯気を揺らす紅茶を飲んで息を吐く。
「すごく、魅力的なお話だったんですけどね…」
「気が向いたらいつでも歓迎するぞ」
「ありがとうございます」
レイジングさんが、ドアの向こうの瑛一さんを呼ぶ。
「全員、連れて来い」
「わかった」
部屋を出て、少しして綺羅さんとナギを連れて瑛一さんが戻ってきた。
「まだ不安定で未完成なグループだ。どうか、支えてやってくれ」
「俺もまだまだ未完成ですよ。だから、支え合っていきます」
ソファから立ち上がって瑛一さんに右手を差し出す。
「改めて、お願いします」
「…あぁ、よろしく」
繋がれた手に、私は微笑む。
「レイジング鳳さん。ライバル事務所の俺の我儘も聞いていただきありがとうございます」
「楽しみにしている」
「はい。ありがとうございます」
社長室から出て大きく息を吐く。
「緊張した…」
「お疲れ、礫」
「ありがとうございます」
3人の方を向きなおる。
「正式発表は後日になるので…」
「わかった」
「では、俺はこれで」
レイジングエンターテイメントから帰ってきた私を翔が待っていた。
「礫!!」
「翔?どうしたの?」
「時間あるか?」
「平気だよ」
そうか、と嬉しそうに笑った翔は私の腕を引いて丘の上に向かう。
「…綺麗な所だね」
「だろ?俺のお気に入りの所なんだ」
翔が笑って、私の名前を呼んだ。
「礫」
「どうしたの?」
「…ちゃんと、伝えてなかったから…その…」
顔を紅くしながらも、私から視線を逸らさない翔。
私は黙って言葉を待った。
「…す、好きだ。礫のこと…本気で」
「ありがとう、翔」
「俺、ひでぇことしたけど…この気持ちは嘘じゃねぇ。…礫が男でも、俺は…本気だ」
私の本当の性別、知らないんだっけ…確か。
それでも、好きって言ってくれるなんて…
「嬉しいよ、そう言ってもらえて。…けど、」
「返事は…今じゃなくていい。ちゃんと考えてくれれば俺は嬉しい」
「うん、わかった。返事は、少しだけ…待たせちゃうけど。いや、もう結構待たせてるか」
苦笑しながら言うと翔が首を横に振った。
「いつまでも待ってる」
「…ありがとう」
「じゃあ、俺はもう行くな」
顔を紅くして、走って行く翔を見送る。
「3人か…」
翔にトキヤに、日向サン。
得体のしれない私を好きだと言ってくれた彼ら…
「ありがとう、みんな…」
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