私は翔をあの丘呼んだ。
翔を待ちながら口ずさむ詩は、今日彼に贈る詩。
足音が聞こえて歌うのをやめる。
「歌うのやめちまうのかよ」
「待ってた人が来たのに歌ってるわけないよ」
「そりゃそうだけど…」
私は自分より低い位置にある翔の頭の上の帽子を取る。
「あ、おい!!」
「ねぇ、翔。真面目な話…聞いてくれる?」
「おう」
翔の帽子を自分の頭に乗せて、翔に微笑む。
「俺、女なんだ」
「は?」
「俺じゃなくて、私なんだよね」
目を丸くする翔にクスクスと笑う。
「お前、何言って…」
「雑誌の写真みたいに可愛い服は着ないけど、ちゃんと女なんだよ」
驚いている翔はなんか、可愛い。
「礫が、女…て、ことは…俺、同性愛者じゃねぇの?」
「うん、違う」
「マジかよ…悩んだ意味がねぇ」
頭を抱えて蹲った翔に目線を合わせるようにしゃがむ。
「ずっと、隠しててごめんね」
「それは、別にいいけど…お前、学園で俺がお、襲おうとしたとき…どうするとつもりだったんだよ!!?」
「なんとかなるかなって」
私の言葉に盛大に溜息をついた翔の頭に帽子を乗せる。
「男でも、女でも…翔は私を好きでいてくれるんでしょ?」
「当たり前だろ。御幸礫っつー存在が好きなんだから」
「カッコいいこと言っちゃって…」
私はクスクスと笑って翔に譜面を差し出す。
「あげる」
「は?もう俺貰ったけど…」
「あれは、翔が歌う奴。これは歌わなくていいの」
君に贈る最初の詩というタイトルの書かれた譜面を受け取った翔が首を傾げる。
「朱利が私に贈ってくれたみたいに、私も贈りたくなったの。好きな人に」
「へぇ、そうなのか……ん?」
「ん?」
「お、お前…今、なんて…」
目を丸くして、頬を染めた翔に微笑む。
「好きみたい、翔のこと」
「マジで!!?」
「うん、気づいたら好きだったみたい」
翔は嬉しそうに笑って私を抱きしめた。
「やべぇ、嬉しすぎてどうにかなりそう」
「待たせてごめんね」
「全然平気だ!!あー、幸せ」
翔はすぐに顔を紅くして私を離した。
この初心な感じはどうにかなるのかな…
「そういや、礫」
「ん?」
「木の上で書いてたのって結局誰の歌だったんだ?」
ベンチに座って、手を繋いだまま翔が首を傾げた。
「あれはST☆RISHのみんなへの歌」
「そうか。あれ、スゲェ嬉しかった」
「喜んでもらえてよかった」
視線を横に向けて、見えたお揃いのピアスに手を伸ばす。
「礫?」
「…また、新しく買いにいこうか」
「え?」
朱利のピアスがなくなって寂しくなった耳を撫でる。
「今付けるものがなくてさ」
「また、お揃いで買うか」
「うん」
翔は嬉しそうに笑う。
「ねぇ、翔」
「なんだ?」
「幸せにして」
翔は驚いていたがすぐに真剣な瞳になる。
「んなもん、当たり前だろ」
「そっか」
朱利。
貴方に届けられなかった分の愛も、全て翔に捧げるよ。
だからさ、そこで見守っていて?
「嫉妬してそうだなぁ」
「誰が?」
「朱利が」
翔が困った顔をした。
「一番の強敵が残ってた…」
「次会うときは奪うって宣言してた」
「うわぁ…絶対奪われたくねぇ」
翔は私の手をさっきよりも強く握った。
「俺が、幸せにするから」
「うん、楽しみにしてる」
数日後
私と彼の両耳には同じピアスが光っていた。
****
最近公私共に両立している。
なんて、初っ端から言いながらも私はHE☆VENSとST☆RISH、そしてQUARTET NIGHTの3組が同時に出演する歌番組の撮影に来ていた。
しかも、司会は日向サンと林檎ちゃん。
「人多いな…」
「礫!!」
私に飛びついてきたナギの頭を撫でる。
「今日はよろしくねっ」
「んー、よろしく」
綺羅さんはじっとこちらを見つめ、瑛一さんは溜息をついていた。
「お前は何故、すぐに礫の所に行く」
「え?だって、僕…礫のことだーい好きだもん。ねー?」
「ねーって言われても困る」
溜息をついた私の腕に抱き着いたのは茶色のふわふわした髪。
「ダーメ。礫君は僕らの!!」
「嶺二さん、大人なんだから…ナギみたいなこと言わないでよ」
「わー、今日も可愛いです〜」
逆の腕に抱き着いたふわふわの髪に私はまた溜息をつく。
「四ノ宮も、離れろ。動けない」
「あたしも、ぎゅー」
後ろから私に抱きついた林檎ちゃん。
「林檎ちゃんもなにしてるんですか…」
「お前、なにしてんだよ」
「林檎、お前までなにやってんだ」
呆れた顔の蘭丸さんが嶺二さんを、困った顔をしている日向サンが林檎ちゃんを引き剥がし、翔とトキヤが四ノ宮を引き剥がす。
そして、無言で綺羅さんがナギを剥がした。
「あーありがとう、みんな」
「礫、平気か?」
顔を覗きこんできた綺羅さんに微笑む。
「平気ですよ。わざわざありがとうございます」
番組の撮影が始まる。
始まる前と変わらずワイワイとした撮影。
そのまんまじゃんか…
カメラの前で切り替えるってことを知らないのか…
私はまた小さく溜息をついた。
「それじゃあ、ラストに御幸と3組でメドレーを」
「はい」
「今回は何とー!!?」
「なんと、俺が歌っちゃいます。皆と一緒に」
カメラに手を振る。
「今回限りの特別メドレー、お楽しみに」
ギターを持ってカメラの前に立つ。
私はこれからも迷い、足を止め、後ろを振り返る。
けど、きっと私は…貴方と一緒になら前に進んでいける。
カメラを指差して微笑む。
「まだ見ぬ未来へ…貴方と一緒に」
キャーッと聞こえた歓声。
ギターを奏で始める。
私は、きっと…
私として…未来へ行ける。
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