「久々に数時間空きが出来たと思ったら…早乙女さんからの指令とか…」

早乙女さんからのメールを見て、溜息をつく。
あんたの作曲の依頼のせいで時間ないって言うのに…
手帳を開いてもう一度溜息をついた。

「今日は…6時半から生放送…その後に雑誌…打ち合わせ…」

…終わりが明日の早朝か…

「寮に行け、って随分曖昧な指令だよな…」

寮の前の芝生に敷き詰められた紙。

「…これ、マスターコースのトレーニングの1つか…?」

そして、見慣れないけど見覚えのある1人を見つけた。

「…セシル?…カミュさんもいる」

へぇ、最初の資料に写真なかったカミュさんの後輩が…セシルだったのか…
てか、猫じゃなかった?セシルって。

「で、なんで俺は呼ばれたのかなー」

遠くから眺めているとセシルが木の上に上る。
それにぶら下がった紙をとろうとしてるみたいだけど…
それを阻止しようと翔が他の木から飛び移る。

「…あーぁ、嫌な予感…」

翔がセシルの乗った枝に飛び移ったせいで、上に乗っていたセシルがバランスを崩す。
そして、下の池に落下した。
溜息をつきながらも池に入り、池の中であたふたとしているセシルの手を掴んで立たせる。

「平気?」
「あ…え?礫?」
「そうだよ」

はぁ、ともう1度溜息をついて池の外に出る。

「もう少し、周りを見たら?」

びちょびちょのセシルは地面に手をついた。
鞄からタオルを出して渡そうとすると、彼の視線が横で跳ねる魚に向いた。

「魚ぁぁぁあああ!!!?」

セシルは奇声をあげて、走り去っていく。

「…風邪ひくぞ」

私はもう一度溜息をついた。

「ありゃ、棄権だな」

蘭丸さんが腕を組みながら呟いた。

「うっそー、マジ?何で?」
「データによると彼は砂漠出身。水と魚が苦手みたいだね」
「フンッ口ほどにもない奴め」

…嶺二さんも、藍も、カミュさんも…何してんの?

「あの、何だっていいんですけど…何で俺呼ばれたんですか?」
「え?ほら、一応総監督だからじゃない?」

嶺二さんが首を傾げながら言う。

「…総監督は保護者代わりじゃねーぞ」

ボソッと呟いた声が聞こえたらしい翔と音也が肩を震わす。

「あーもう、やっぱりあの人死なねぇかな…」

髪をガシガシとかき乱しながら蘭丸さん達の横を通り過ぎて、セシルを追う。
やっと見つけたセシルが私の手を握る。

「礫…また、会えましたね」
「そうだね。けど、そんなことはどうでもよくって」
「え?」

彼の手を振り払って、鞄の中のタオルを彼の頭にかぶせる。

「拭きなよ。風邪ひくから」
「あ、ありがとう」
「ミューズに愛された七海にでも会いに来たの?」

濡れた体を拭くセシルの横のソファに腰かけて、手帳を開く。
さっき、捜してる間に届いた早乙女からのメールにはセシルの曲も書けと書かれていた。
ついでに、急遽仕事が入ったこともおまけのように書かれていた。

「そうです。けど、礫にも会いに来ました」
「…そう」
「やはり、礫はミューズに愛されてます」

セシルがニコリと微笑む。

「ありがとう。今ならそれも少しは受け入れてあげるよ」
「それはよかったです」
「さて、と…俺はもう帰るよ」

手帳をパタンと閉じて彼を見る。

「え?もう、ですか?」
「急遽、仕事が入ってね」

じゃあ、またと手を振って寮を出た。
車での移動中カミュさんからマスターコースに正式にセシルが参加したと届いた。
世話を頼みますという、文面を読んで言葉をこぼす。

「…本当に、俺は保護者かよ」

私は何度目かわからぬ溜息をした。



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