久々に朝、ST☆RISHのメンバーと寮で遭遇した。

「あれ、礫じゃないか。久しぶりだね」
「あぁ…そうだね。レン」
「随分と疲れてますね」

トキヤが顔を覗きこむ。

「え?あぁ…朝5時まで打ち合わせだったからね」
「えぇ!!?5時!?」
「ん〜…眠い…」

ソファの背もたれに体を預ける。

「疲れてます、礫」
「そりゃな。最近休みなしだし。今はマネの車待ち」
「また仕事か?」
「そうだよ」

欠伸をして、時計に視線を落とすとこの場にいなかった翔が走ってきた。

「いやっほー、やったー!!聞いてくれ皆ぁ!!」

笑顔でオレンジ色の台本をこちらに向ける。

「…ケンカの王子様2時間スペシャル…え?えぇ!!?」
「まさか、翔ちゃんケンカの王子様に出演!!?」

驚く音也と那月に出演者名簿をバッと見せる翔。

「すっごーい」
「やりましたね、翔ちゃん」
「まぁな」

翔が自慢げに笑う。

「頑張ってくださいね、翔君」
「ということは、念願の龍也さんとの共演か」

…あぁ、日向サンが出てる奴か…
眠い目を擦って、欠伸を噛み殺す。

「僕も早くいろんな仕事がしたいです」
「トキヤはCMやドラマに出てるし」
「レン君も仕事のオファー来てましたよね?」
「雑誌のモデルさ」

あぁ、そういえば…レンと一緒の撮影あったかも。
いつだっけ?
あ、だめだ思い出せない。

「アイドルって歌うだけじゃないんですか?」
「あのなぁ!!テレビに映画に舞台に幅広く仕事すんだよ。才能を生かすために色々挑戦する。それがアイドルってもんだ」

翔の言葉に、おーっと声が上がる。

「何だっていいから…翔」
「え?礫?」
「うるさい。声のトーン下げて」

思いの外低く出た声に翔がビクッと肩を揺らす。
そして、また嫌な声が聞こえてくる。

「聞きましたよー。ミーが折角用意した先輩達を拒んだそうデスネー」
「そ、それは…」
「自力でやつのは大いに結構!!本物のアイドルになれればノープロブレム」

ポケットの中の携帯が震える。
マネからのメールには到着したと書かれていた。

「バッド!!ユーたち、マジアイドルの仲間入りしたと思ってませンカー」
「え?違うの?CDも出たし」
「あのライブ成功したはずじゃ…」

荷物を持って立ち上がる。

「言ったはずデース。この世界、華々しく咲いてーも」

横を通るとき早乙女の持っていた花を奪う。

「花火みたいに散っちゃう人も多いらしいじゃん?」

手の中の花を、手品の要領で手の中から消す。

「俺達が消えるって言いたいのかよ?」
「それは俺には分からないよ。じゃ、仕事行ってきます」

ひらひらと手を振って寮を出る。
後ろからは、うた☆プリアワードをとるべし!!という早乙女の声が聞こえた。

「あーぁ、また…仕事増えそうだな…」

新人アイドルの頂点。
輝かしい新人が現れたときのみ与えられる幻のタイトル…らしい。
まぁ、あのタイトル取っちゃえば怖いものなしって感じか。
車に乗って、携帯で日向サンに電話をかける。

「もしもし?あぁ、俺です。御幸です」

電話の向こうの聞き慣れた声に安心する。

「ケンカの王子様、またやるんですね。聞きましたよ、翔との共演って」

鍵の付けられた赤い手帳を開いてパラパラとページを捲る。

「総監督として、お願いがありまして…はい。いいですか?えっと―――」

電話を終えて、膝に置いた手帳を見つめる。

「御幸君も、随分厳しいね」

マネージャーさんの言葉に微笑みながら手帳を閉じる。

「早乙女さんから頼まれてるし。俺も出来るってわかってるから言ってるんですよ」
「その信頼には皆気づかないんじゃないかな?」
「それでいいんです」

私はカチャリと、鍵を閉めた。
大丈夫。きっと…
翔と日向サンの撮影が始まった。
本当は見に行きたかったんだけど…この仕事じゃ無理かな…

蘭丸さんたちの曲を書きながら溜息をつく。
仕事の合間で作るのも結構大変だな…

「御幸君、移動するよ」
「はい、了解です」

鞄に譜面を入れて、次の仕事に向かった。
いつも通り、夜遅くに寮に帰りついた。

「んー…疲れた…」

既に皆寝ているのか、寮は暗く静かだった。
ただ、1か所だけ明かりがついていた。

トレーニングルーム?
入口からそこを覗く。

「…翔…」

肩の力、抜かないと駄目なんじゃないかなぁ…
ちょっと、やりすぎたかな…日向サンの…

「翔」
「礫!!?」

鞄に入れていたスポドリを彼に投げる。

「少し、休んだら?」

そして、タオルを彼の頭に乗せる。

「肩の力、抜いて」
「え?」

タオルで顔の見えない翔を、緩く抱き寄せる。

「え?」
「大丈夫、翔なら出来る」
「ちょ、礫!!?」

そう思ってるからこその、試練なんだよ?

「無理、すんなよ」

頭をポンポンと2回叩いて、そこから離れた。

「ごめんね、翔。これも、君のためだよ」

真っ暗な廊下で、誰に聞かせるわけでもなく呟いた。


****


夕方、日向サンからメールが届いていた。
内容は翔が一人で居残り練習をしてるから暇なら見てやって欲しいとのこと…

「マネさん、行先変更してもらってもいいですか?」
「え?」
「寮じゃなくて、ケン王の撮影現場に」
「あ、あぁ…了解です」

車は急に向きを変える。
日向サンも、心配性だな…
携帯から彼の名前を見つけて電話をかける。

「もしもし、日向サン?これから、向かう」
『悪いな』
「…どんなこと、言ったの?」
『同じ土俵に立つ役者同士…いや、仕事を取り合う立場じゃ敵ともいえる。いつまでも学生気分で浮かれてるとやけどするぞ。…みてぇな感じか?』

日向サン大好きな翔にとっては少し厳しかったかな…

「跳べなくなったんだろ?翔」
『あぁ…けど、再トライのお願いはしておいてやった』
「出来ないと思う?」
『最初からわかってるくせに聞いてくんじゃねぇよ』
「そうだね。じゃあ、また」

電話を切って、窓の外の撮影現場を見つめる。

「ありがと、ここでいいですよ」
「帰りはどうする?」
「自力で帰ります。そう遠くはないみたいなんで」
「じゃあ、また明日。お疲れ様」

車を見送って撮影現場に足を踏み入れる。
だが、そこで見覚えのある後ろ姿を見つけた。

「…は?何でここに…七海がいるんだよ?」

セットの1つに上っていく七海を慌てて追いかける。

「七海!!!?」

翔の慌てた声が聞こえる。
そして、何か軽いものが落ちた音。
嫌な予感がして、階段を駆け上る。
そして、見えた景色に溜息をつきそうになった。
高いセットから落ちそうになってる七海と、それを助けようと助走をつけて走り出した翔。

「…これは、邪魔しない方が良さそうかな〜」

この下、マット引いてあったから落ちても死なないだろうし…
橋に繋がる塔の中で2人を見つめる。

「男気全開!!!!」

向こう側で踏み切った翔は、余裕でこちらに着地する。

「…やっぱり、人間追い込まれた時の方が強いよね」

七海が落ちるギリギリのところを翔が助けた。
橋の上で、翔が七海を抱きしめる。

「よかった…無事で…」

七海の泣き声が聞こえる。

「お前にもしものことがあったら…俺は、俺は…」

2人にばれないように、少し階段を下りる。

「ごめんなさい、私のせいで」

落ち着いた七海が俯きながら呟く。

「気にするなよ。お前のお陰で、俺は飛べたんだ。俺、この仕事何としても成功させたいんだ。これが上手くいけば、日向先生のファン卒業できる気がして」
「え?」
「俺はもうプロだからな……」

七海がいれば大丈夫かな…
2人に気づかれないように静かに立ち上がる。
やっぱり、七海は人を変える。

「そんな、無理にやめなくても…」
「無理?」
「だって、翔君の大事なものでしょ?私も翔君も沢山の幸せを貰って、それがこの世界に入るきっかけになって…今度は私たちがみんなを幸せにする番だけどあのころの気持ち忘れちゃいけないと思うんです」

七海の言葉を聞きながら階段を下りて、撮影現場から出る。
そこには、見覚えのない車が止まっていた。

「終わったか?礫」
「日向サン?なんで、ここに」
「学園の仕事がさっき終わったんだ。まだ、こっちだろうと思ってよ。迎えに来た」
「…ありがと」

助手席に座って、鍵付きの手帳を開く。

「なんだ、それ?」
「これは、ST☆RISHのみんなと、蘭丸さん達…彼らに足りないものとか、彼らがすでに持ってるものとか…いろいろ書いてある秘密の手帳。まぁ、早乙女さんに押し付けられたんだけどね」
「いつの間に、そんなもの作ったんだ?あの親父」
「俺を総監督って立場にしたのはこれの為だろうね」

翔のページに黄色のマーカーを引いていく。

「やっぱり、出来た」
「…そうか」

日向サンが安心したように微笑んだ。
やっぱり、先生…なんだよね…日向サンって…

次の日、仕事の合間に無理を言って撮影現場に向かってもらった。

「楽な仕事って言ってた割に、大変そうだね。御幸君」
「思いの外、心配事が多いんですよ」
「まるで、保護者だね」

マネさんの言葉に苦笑して撮影現場の中に入る。
ちょうど、翔が失敗を続けていた橋の向こうにジャンプするシーンだった。

「我ながら、ナイスタイミング…」

監督の声で、走り出した翔は軽々とそこを飛び越えてみせた。
そして、笑顔でガッツポーズ。

「やっぱり、ちゃんと出来るじゃん」
「礫?」
「あ、日向サン。お疲れさま」

翔を見ていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
そこにいた日向サンは目を丸くしていた。

「何でここに」
「一応、見届けておこうと思って…仕事の合間に連れてきて貰った」
「大丈夫なのか?」
「平気。次の仕事まで2時間あるからね」

翔がセットから降りてきて、監督たちと話をしている。
日向サンはそこに近づいて行った。

「日向、先生…」

翔が、じっと日向サンを見つめる。

「慕ってくるお前を突き放して悪かったな」

日向サンが右手を彼に差し出す。

「お前の男気、しっかり伝わったぜ」
「ありがとうございます」

日向サンの手を両手で握って、翔が頭を下げた。

「俺、参加させて貰えて凄く勉強になりました」
「そうか。だってよ?…よかったな、礫」
「え、礫!?」

日向サンがこちらを振り返る。

「なんで、俺に振るかな…」
「何でここに…礫が…」

驚いてる翔に首を傾げる。

「俺がいたら、不思議?」
「不思議に決まってんだろ!?」
「俺、マスターコースの総監督だよ?先輩達を拒んだとしても俺には見届ける義務があるからね」

早乙女さんに報告書提出だし…

「ネタバレをしてあげると、日向サンに翔を突き放す言葉を言わせたのは俺だよ」
「は?何で…」
「成長するため、かな…どう?何か掴んだんじゃない?」

ポカンとしてる翔にニコリと微笑む。

「たとえば、翔の目指すアイドルの姿…とかね」
「え?」
「あぁ、そうそう…」

翔に近づいて、彼の耳に口を寄せる。

「七海とセットで抱き合ってたことは早乙女さんには報告しないでおいてやるから」

翔にしか聞こえないように囁くと顔を真っ赤にして、耳を抑えた。

「な、なんで…それ…」
「翔の目指す姿…よかったら今度教えてよ。じゃ、俺は仕事があるから」
「無理すんなよ」

日向サンの言葉にニコリと笑って待っているであろうマネの車に向かった。

「上機嫌だね、御幸君」
「ちゃんと、試練を突破してくれましたから」
「そう、よかったね。電話で日向さんに来栖君を出来る限り追い詰めてくださいとか言い始めたときはどうなるかと思ったけど」

マネさんの言葉に私は微笑みながら言う。

「人は、本当に追い詰められた時に新しいものを見つけるんですよ」



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