静かになったその場で一番初めに口を開いたのは影山だった。
「どういう、意味ですか…」
「質問が多いよ、影山。ただ1つだけ言っておく。私はもう女帝じゃない。私は、青葉城西のマネージャーだよ。まぁインハイで及川に勝ったら真相を教えようかな」
「そうだよ、トビオちゃん。インハイ予選はもうすぐだ。ちゃんと生き残ってよ?」
及川が影山を指差す。
「クソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからサ。レシーブ、頑張ってよ?」
「レシーブなら特訓する!!」
「レシーブは一朝一夕で上達するものじゃないよ、6番君」
「ちゃんと主将はわかってると思うけどね」
及川が背中を向けて歩き出す。
「大会までもう時間はない。どうするのか楽しみにしてるね。麗亜チャン、先に行くよ」
「はいはい。…ごめんね、あいつも私もかき乱すの大好きだから。けどまぁ、秘策はあるみたいだね」
私はクスクスと笑う。
「バレバレみたいだな」
「思い当たる節が1つあってね。まぁまた戦うのを楽しみにしてるよ。次は最初から分析させて貰うね」
「怖いな〜」
主将さんが困った顔をする。
「引きとめてごめんね。私の可愛い後輩の影山をよろしく」
「大変そうだけど、頑張るよ」
主将さんから視線を影山に向ける。
ちょいちょいと手招きをすると首を傾げならこちらに来た。
「麗亜さん」
名前を呼んだ彼の頭に手を乗せて髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「ちょ!!?」
「影山は、強い。こんなにいい仲間が傍にいる。もう、独りにはならない」
「はい」
「けど、勝つのは私たちだから」
頭に乗せていた手をグーにして、彼の左胸にあてる。
「胸張って、戦いな。王様」
「…はい」
「じゃあ、またね。あ、これ私のアドレス。いつでも連絡して」
名刺を押し付けてひらりと手を振り、歩き出そうとしてくるりと振り返る。
「本来の目的忘れてた」
「え?」
「5番君」
5番君の腕を掴んで、ジャージの袖を捲る。
「ちょっと、」
「及川のサーブは私が誰よりも受けてきた。だから、どうなるかなんて嫌でも分かるよ」
真っ赤になった腕にタオルを巻いた保冷剤を押し付ける。
「ちゃんと、冷やしておきな。もちろん反対もね」
「…どうも」
目を逸らしながらいう彼に苦笑して、今度こそと頭を下げて歩き出した。
試合が終わってみんなが帰ったあとの体育館で一人、ボールに手を伸ばす。
「羽は折れた…か」
自分で影山に伝えたその言葉を呟く。
「麗亜チャン」
「及川…」
「後悔してる?マネやってること」
及川がどこか泣きそうな顔をして呟く。
「してない」
「そっか…もし、さ…」
「ん?」
「もし、辛いならやめてもいいんだよ?」
初めて彼の口からそんな言葉を聞いた。
「翼の折れた鳥は鳥籠からは逃げれない」
「入口の鍵は閉まってないのに?」
「踏み出す勇気がないから。鳥は地面では生きれない。鳥の生きる場所は空だよ」
手に持っていたボールを彼に投げる。
「初めてだね、私に逃げ道を提示したのは」
「麗亜チャンは逃げないと思ってた。けど、もしまだバレーに未練があるなら縛れないな…って」
相変わらず困った顔のままの彼に溜め息をつく。
「未練はある。けど医者に言われたの覚えてる?」
「次に飛んで、スパイクを打ったなら…」
「日常生活さえ、出来なくなる」
彼の方に歩いていって、左手をグーにして彼の左肩に弱い力でぶつける。
「私は、信じてるよ。及川が勝ってくれるって。私の代わりに」
「勝つよ。約束だから」
「だから、いいんだよ。もう飛べなくても、コートに立てなくても」
「うん」
また飛びたいよ、コートに立ちたい。
未練が全くないわけじゃない。
けど、それ以上にある恐怖。
及川が代わりにしてくれる。
なら、私はそれを手伝う。
「私は、青葉城西のマネージャーだから」
「うん」
「帰ろっか」
「そうだね」
慣れてしまった二人での帰り道。
「足は、もう大丈夫そうだね」
「麗亜チャンのおかげだよ〜」
「…そう」
「冷たいな〜」
及川が少し拗ねた顔をする。
「拗ねないでよ」
「拗ねてないけど〜?」
目を逸らした彼に苦笑する。
「麗亜チャン」
「なに?」
「ありがとう」
彼が笑った。
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