部活に遅れていくと寿先輩の姿がなかった。
すぐに、嫌な予感がした。
ずっと俺が迎えに行ってたのに、いなくなったら…

「及川さん」
「国見?どうしたの〜?」
「寿先輩は?」
「…サボり、かな〜」

一瞬、哀しそうな顔になってから、いつもの飄々とした雰囲気に戻る。

「男の人と帰ってるの見たって女の子が」
「及川さん、それを信じたんですか?」
「え?」

及川さんは、気づいてないのか?
あんなにボロボロになりながら、バレー部を庇ってる先輩を。
先輩が男のために部活をサボる人かどうかなんて、考えなくてもわかる。

「寿先輩が、そんな人だと思うんですか?」
「それは…」
「自分を犠牲にして、バレー部を守るような人が…そんなことすると思うんですか?」

及川さんの肩が揺れた。

「…何か、知ってるんだよね?国見」
「知ってます。けど、言いません」
「なんで?」
「言わないでって、言われました。けど、先輩も気づいているんですよね」

及川さんは頷いた。

「怪我してるとかは、知ってる。原因は俺のファンだろうってことも分かってる」
「なら、なんで助けようとしないんですか…」
「それを、望んでくれないから」

哀しそうに、笑った。
この人、こんな顔するんだ…

「助けたいよ。俺のせいだから尚更だ。バレー部に呼んだのも俺だ。だから、責任は俺にある」
「なら…」
「けど、言われたんだよね。寿サンに『たとえ、何がその瞳に映っても前だけ見て勝ち続けて』って」

寿先輩らしい言葉に、溜息しか出ない。

「先輩らしいですね」
「そうだよね〜…そんなこと、出来るわけないのに」

困ったように眉を寄せ及川さん。

「帰ったとは、思ってないし思いたくない」
「帰ってないと思います」
「うん。けど、俺は助けに行けない。俺は気付いてちゃいけないからサ。だから…」

じっと、及川さんが俺を見た。
言葉にせずとも、言いたいことはわかった。

「…探してきます」
「よろしくね〜」

いつも通り笑ったつもりなんだろうが、どこか寂しそうな及川さんに苦笑する。

「あ、見つけたらさ…帰って貰って」
「え?」
「ここに来たら危ないデショ?」

わかりました、と言って体育館から出る。
教室を片っ端から見て行って、鍵をさしたままのドアを見つけた。
そこは普段使われない資料室。
恐る恐る鍵を開けて中を見ると探していた姿があった。

「国見?」
「見つけましたよ、先輩」
「ありがとう、見つけてくれて」

いつも通りの先輩が笑う。

「何、してんですか?」
「女の子たちに閉じ込められちゃってさ。暇だったからみんなのデータのまとめを…」
「馬鹿ですか!!?なんで、ついて行くんですか…どれだけ、みんなに心配かければ気が済むんですか」

口にしないだけで、金田一も岩泉さんも心配してた。
部の中がいつもと違う雰囲気だった。
ドリンクもタオルもなくて…

「あぁ…ごめんね。いい加減に、私も我慢の限界かな」
「え?」
「なんて、嘘だよ。迷惑かけてごめんね。今日は帰るわ」

机の上のノートやルーズリーフを鞄にしまって先輩が笑う。

「ありがとね、国見」
「いえ…」
「じゃあまた明日」

ひらひらと手を振りながら歩いて行く背中を見つめて首を傾げる。

「…先輩?」

いつもと、違う。
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