入り口で固まっていた彼に駆け寄って、頭を下げる。
「は?おい!!?」
「ごめんなさい。逃げて、ごめん」
「…まぁ、聞きたいことはたくさんあるけど…元気そうで、よかった」
頭に乗せられた手。
あの頃と、何も変わらない。
「俺になんか用か?」
「あー…まずは、謝罪。あと…お願いがある」
繋心が首を傾げる。
「なんだ?」
「もう一回、私にバレーを教えて」
「は?」
目を丸くした彼に苦笑する。
影山も驚いていた。
「やらないといけないことがあって。けど、自分だけじゃ足りないんだ」
「お、おう?」
「お願いします」
もう一度頭を下げた。
このままじゃ、ダメだ。
このままでいいはずがないんだ。
「まず、顔あげろ。で、お前…元代表だろ?教えることなんて…」
「右利き用の、スパイクを教えて欲しい」
「お前、左利きだろ?」
彼の目をじっと見つめると溜息をつかれた。
「今は理由は聞かない」
「…ありがとう」
「で?お前のことだ、自分で形は作ってんだろ?」
「まぁ一応。見て、直す場所があったら教えて欲しい」
わかった、と言って繋心は影山を呼んだ。
「悪い、1回でいいからコイツにトス上げてくれ」
「え?あ、はい」
驚いた顔をしたが、すぐに真剣な顔になる。
「ごめん、練習の邪魔して」
「俺は平気です」
「主将さんも、ごめん」
平気だと笑ってくれた彼にありがとう、と言って笑う。
鞄の中に入れていたシューズを履いてコートに立つ。
「お前ら、見とけよ。元日本代表のスパイクだ」
影山がこちらを見て、頷いた。
「じゃあ、よろしく」
影山がボールをあげる。
私が、一番好きだったネットから少し遠くて、高いボール。
右足を強く踏み込んだ。
向こうのコートに、転がるボール。
静かになった体育館。
ネットの向こうに見えた景色に、心が躍った。
「ス、スゴイ!!!」
日向が目を輝かせ、他の部員は目を丸くした。
「どう、繋心?」
「直すとこ…ねぇだろ」
「…そっか、よかった。ありがとう」
影山を見て、頭を下げる。
「ありがとう」
「いえ、俺は…」
「やっぱり、影山のトスは最高だよ」
髪をクシャクシャとかき混ぜてコートの外に出る。
「ちゃんと飛べてた?」
「文句なしだろ」
「そっか、よかった」
ボールを打った右手をぐっと握る。
これで、これで…大丈夫だ。
シューズをしまって、鞄を背負う。
「えっと、邪魔してごめんなさい。次に戦うのを楽しみにしてる」
そう言ってから前の試合でいなかった背の高い男の人を見る。
「…東峰旭」
「え?」
「知ってるよ、貴方のこと」
彼の肩がビクッと揺れる。
「夕が誰よりも信頼してる、エース」
「え!!?」
「…戦うの、楽しみにしてる」
じゃあ、失礼しました。
頭を下げて、体育館から出る。
「あ!!繋心!!これ、アドレス。連絡してくれたら嬉しい」
「おう。じゃあ気を付けて帰れよ」
「うん。烏野バレー部の皆様、ありがとうございました」
****
麗亜が帰ったあと、体育館はしんとしていた。
「女なのに、日向よりも飛んでなかったか?」
「あんなスパイク…」
「あれで、女かよ…」
ポツリポツリと口にする部員に俺は笑う。
「いい手本だろ?さっさと練習再開しろ!!」
「「「「はいっ」」」」
突然の別れを告げられて、心配してはいたが…
平気そうだったな。
利き手を変えたことは気になるが…
「東峰」
「あ、はい」
「アイツが、楽しみにしてるって言ったってことはお前に期待してるってことだ」
「え!!?」
「頑張れよ」
それぞれ、あいつのスパイクで思うことがあったのか…
全員動きが良くなった気がする。
やっぱり、アイツは
「スゲェ奴だ」
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