珍しく体育が隣のクラスと合同になった。
及川と、私を呼びだす女子のいるクラス…
「今日、バレーらしいよ」
仲の良い友人がめんどくさそうに言った。
「へぇ…バレーか…」
「興味なさそうね、バレー部マネのくせに」
「そういうわけじゃないけど…」
体育館に入ると、いつも私を呼びだす女子がこちらに歩いてくる。
名前、坂本って言うんだ…
体育着の名札を見て、今更ながら知る。
「寿さん、ちょっといいかしら?」
「いいよ。何?」
「今日、バレーらしいわね」
彼女がニヤリと笑う。
「そうみたいだね」
「賭けをしない?」
「賭け?」
彼女の取り巻きがクスクスと笑う。
その声がすごく耳障りで眉を寄せる。
「今日の試合で、私が勝ったらマネージャーをやめてくれる?」
「私が勝ったら?」
「もう呼び出しはしないわ。貴女を認めてあげる」
…そうきたか…。
体育館の反対側にいる及川が心配そうな瞳でこちらを見ていた。
「…いいよ」
「ふふっ、覚悟してなさい?こっちは全員元バレー部よ?」
「あー、まぁ精一杯頑張るよ。約束は絶対守ってくれるんだよね?」
「もちろんよ」
…まぁ、いっか。
及川のために練習してたんだけど…
黙らせるなら丁度いいか。
それに、スポーツマンシップに則ってくれるなら、私にだって部に迷惑をかけずにやれる。
隣にいた友人に視線を向ける。
「大丈夫なの?」
「余裕だよ」
私はヘラヘラと及川のように笑った。
コートに立つ坂本さん達と私と友人。
先生に事情を話してシューズをバレー用に履き替える。
「出来る限り、ボールを拾って高く上に上げてくれる?」
チームの5人にそう言うとみんな頷いてくれた。
ネットの向こうにいる坂本さんに手を伸ばす。
「よろしく」
「えぇ」
「怪我、させたらごめんね」
サーブ権は相手チーム。
私は一番最初にサーブが回ってくる場所に立つ。
視線をコートから外に向けると心配そうな及川と目が合った。
何か言いたそうな彼に微笑んで俯く。
「本気で、潰す」
試合開始の笛が鳴った。
坂本さんのサーブでボールが上がる。
こちらコートに来たボールを言った通りに友人が高く高く上げる。
相手コートはミスったと思ったのかニヤリと笑った。
「ナイス!!」
高く上げた友人に、叫んで足を踏み込む。
落ちてくるボールに合わせて助走をつけて、力一杯左足でジャンプする。
高く上がったボールは一番高い場所で右手に当たる。
いつ見たってネットの向こうに見えた景色には心が躍る。
大きな音をたてて相手コートにボールが刺さる。
コートの隅に入ったボールがコロコロと転がった。
左足で着地して息を吐く。
静かになった体育館。
及川も目を丸くしていた。
私はその静寂を壊すように口を開いた。
「あたしは坂本さん達みたいに暴力に暴力で答えてあげるつもりはない。けど、コートでは違う」
新しいボールを手に持って、手の中でくるりと回す。
「コートではルールを破らない限り、何をしても許される。絶対的な力の差が見えていたとしても手を抜くことはしない」
「騙したの!!?最低!!!」
ニコリと笑って甲高い声で叫んだ彼女を見る。
「よってたかって大人数であたしに暴力ふるってた奴が何言ってんの?騙す?何も聞いて来なかったでしょ?誰も初心者だなんて言ってないよ」
クスクスと笑う。
恐怖の映る彼女たちの瞳。
「ただあたしに暴力ふるうだけなら何も言わなかったのに。黙って耐えてあげたのに…貴女たちが悪いんだよ?」
「え?」
「バレー部の練習に支障が出るようなことするから。及川たちの邪魔をするから。部員に万全の状態で練習をしてもらうためなら自分を犠牲にしてもいい。けど、それができないと判断したからには…」
サーブラインに立つ。
そして及川の試合の時と同じように坂本さんを指差す。
「徹底的に、潰す。約束、守れよ?自分で売った喧嘩だろ?」
笛の音が聞こえて、ボールを高く上げる。
左足で地面を蹴って、右手で売ったボールは坂本さんの顔の横をスレスレで通り過ぎる。
「キャッ!!?」
腰を抜かして後ろに倒れた坂本さんに取り巻きが駆け寄る。
「な、なにすんのよ!!」
「何って、サーブ?あぁ、一つ言ってあげると…お前らもうボールには触れないから」
宣言通り、彼女たちがボールに触れることなく試合が終わる。
「約束、守ってね?坂本さん?」
「っ!!わ、わかった…わ」
悔しそうに言った彼女に溜息をついた。
視線を逸らすと、及川と目が合う。
まだ驚いた顔で固まる彼に近づいて微笑む。
「及川」
「な、なに…かな〜?寿サン」
「部活終わったら、そのまま体育館で待ってくれる?」
「え?」
何か聞き返そうとした及川に背中を向けて友人の所に行く。
「巻き込んでごめん」
「カッコよかったよ、麗亜」
「うん!!麗亜ちゃん最高」
友人たちに言われて自分も笑う。
「ありがと」
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