部活が終わって、マネの仕事を終えてから体育館に行く。
部活中及川は一度も私と目を合わせようともしなかった。
「及川、ごめん。待たせた?」
1人サーブを打っていた彼に言うと、平気とだけ返事が返ってきて黙ってしまった。
「あー、あのさ…及川?」
「ねぇ、麗亜チャン」
「何?」
及川は手に持っていたボールを床に叩きつける。
「飛べなくていいって言ったじゃん。俺を信じてるって言ったじゃん。俺達を捨てるの?俺はこんなに麗亜チャンのこと離したくないのに…離れてくの?」
「……何言ってんの?」
「え?」
驚いて上げられた及川の顔は捨てられた子犬みたいだった。
「誰も辞めるなんて言ってないでしょ?捨てるわけないでしょ?てか、私が何のために飛べるようになったと思ってんの!!?」
「え?麗亜チャン?」
慌てる彼に溜息をつく。
「私は、確かに飛べるようになった。利き足じゃない方で飛ぶことで痛めた足への負担は極端に減らしてる。右手なら、スパイクは打てる。医者がどうしてもやりたいならって私に提案してくれた」
何か口を挟もうとした彼の言葉が出るより前に私は言葉を続ける。
「出来るようになるのに2年かかった。こないだ、サボった日は私の尊敬する人にフォームを見て貰った。これなら大丈夫だって言って貰えた。そんな私の2年の努力は全て…全て及川のためだよ」
「え…」
「去年、一昨年は部長がいたから自主練の相手してくれたよね。けど、3年になったらそうはいかない。あの練習だけでみんなへとへとでしょ?そしたら及川の練習時間は減る」
一応持ってきていた及川のデータを彼に押し付ける。
「ここ最近、及川のボールは乱れてる。テスト明けとか練習不足の時、いつもそうだったよね」
「うん…」
「不足分を中学時代補ってたのは誰?私でしょ?」
「…うん」
データを見つめる彼の名前を呼ぶ。
「どうしても、勝ってもらいたい。どうしても勝ちたい。だから、私も手伝いたかった」
「うん…ごめん…」
「確かに、飛ぶのは好き。ネットの向こうに広がる景色に心が躍る。けど…私はもう…あそこには立ちたくない。私の代わりに、勝ちを見せてくれるって言ったじゃん…」
及川が目を見開いて、私を見る。
「うん。見せる…そう、言った」
及川が微笑んだ。
「ごめん。怖かった。飛べない麗亜チャンなら鍵の開いた鳥籠で捕まえておけた。けど、飛べるなら簡単に逃げられちゃうって…そう思った」
「うん」
「傍にいて…絶対、勝つから…」
及川の胸にグーにした左手をぶつける。
「傍にいるに決まってんでしょ」
「ははっ、麗亜チャンカッコ良すぎ〜」
ほんの少し泣きそうな声で笑った彼に、自然と笑みがこぼれる。
「俺のために、飛べるようになってくれたんだ〜」
「そうだよ」
「俺嬉しいっ」
キャハッと効果音が付きそうなわざとらしい笑顔を張り付けた及川の頭を叩く。
「痛いっ」
「ほら、さっさと練習するよ」
****
「疲れた〜」
「お疲れ。結構遅いし、帰るか…」
「麗亜チャンはやっぱり最高のスパイカーだよ」
及川が真剣な顔をして言う。
「影山のトスも好きだけどやっぱり、私にとっての最高のセッターは及川だよ」
お互い顔を見合わせてから、私は左手を及川は右手をグーにしてコツンとぶつける。
「帰ろうか」
「そーだねー」
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