「三島」
「岩、泉…君?」
「俺は、あんまよくわかんねぇけど…ただ、言っておく」

三島をじっと見る。
覚えている、彼女のことは。
中1のときから寿にボールを上げ続けたセッターだ。
確か、小学の頃から同じチームだったはず。
寿とは仲が良いって、思ってたんだけどな…

「お前と、お前の仲間は…罪の意識を背負って生きていくべきだ。たとえ、及川が寿の人生を背負ってたとしても罪は背負えない」
「…うん…」
「後悔しろよ。寿がいなきゃ勝てなかったのに、寿を壊したこと」
「もう、寿先輩の前に現れないでもらえますか?」

国見が冷たい声で吐き捨てる。

「え?」
「会ったところで貴女には何もできない。迷惑です」
「おい、国見。言いすぎだ」

彼女が泣きながら俯いた。

「ごめん…」

泣きだす彼女に背を向けて、俺達はミーティングを再開した。


****


「麗亜チャン」

バスの中で膝を抱えていた私を呼んだ及川。

「平気?」
「うん。ごめん…」
「これに、怯えてたんだ…」

震えていた手を及川が握って、ひっぱられる。

「うわっ」
「麗亜チャン…泣いてよ」

抱きしめられて、頭を撫でられる。

「大丈夫、だよ」
「嘘だよ…だって、俺がこんなに泣きそうなんだもん…麗亜チャンが哀しくないわけない」

肩に落ちてきた何かが服に冷たい染みをつく。

「…ありがとう」

私の頬に、涙が伝う。

「俺が、背負うから…手足はあげれないけど俺が麗亜チャンの手足になるから…お願い。いなくならないで」
「…いなくなんて、ならないよ…私の人生、背負ってる及川から離れるわけ…ないじゃん」

声も出さずに泣きだした及川の背中に腕を回す。

「ありがと…」

バスの中で気を使ってか、なにもなかったかのようにふるまってくれるみんな。
ミーティングの時、みんなの前に私は立った。

「ごめんなさい」

そして、私は頭を下げた。

「え?」

みんながざわめく。

「私のせいで、みなさんにご迷惑をおかけしました。マネージャーとしての務めがおろそかになったこと謝罪します」

そこにいた監督まで驚いた顔をしていた。
私は今まで一度も脱いだことのなかった長袖のジャージを脱いだ。
半袖のシャツから見える手術の痕。

「中3のある試合で、私は肩と…足を負傷しました。その怪我は思いの外ひどくて…日常生活もままならないと言われるほどのモノだった」

驚く彼らを見ながら言葉を続けた。

「詳しいことは話せない。けど…私はバレーが好き。どんな体になろうとも、バレーを捨てたくないってそう思えたのは及川がいたからで…」
「え?」
「及川がいなかったらこの学校でマネなんかしてなかった。けど、後悔はしてないよ」

傷のある肩を手のひらで撫でる。

「及川に救われて、ここでマネであることを誇りに思ってます。だから…何も聞かずに、私をここに居させてください」

もう一度、私は頭を下げた。

「今更いなくなるとか言われても困るだろ」
「そうだよ」
「そうですよ、先輩」

私は顔を上げて。微笑む。

「ありがとう…」
「さてと、やることは決まったな」

岩泉の言葉に私は首を傾げる。

「寿の為にも、俺達は勝つ。それだけだろ?」
「先輩の信頼には、勝利で答えてみせます」
「…あははっ、やっぱり最高だよ。みんな」

目に溜まった涙を拭う。

「信じてるよ、みんな」
「任せとけ」


深夜。
私は1人明日の準備をしていた。

「麗亜チャン」
「及川?どうしたの?」
「麗亜チャンに、会いたくなった」

及川は壁に背を預けて微笑む。

「平気?」
「平気だよ。みんながいるから」
「そっか」

及川が俯く。

「IH…本当は麗亜チャンもあの舞台に立ってたんだね」
「…そうだね」
「俺ね、麗亜チャンの昔の感じ好きだったんだよね。あたしって、言ってたじゃん?」

手を動かしながらそうだね、と返す。

「いつから、私になっちゃったんだっけ?」
「あの日から、じゃない。バレーに捨てられたあの日から…」
「…そっか」

…及川?
黙り込んだ及川に視線を向ける。

「……無理してない?」
「してないよ?」
「いいの?本当に…このままで」
「……いいんだよ」

俯いていた及川がこちらに視線を向けた。
悲しそうな瞳がこちらを見てゆらゆらと不安げに揺れる。

「俺さ、考えたんだよ。さっきはあぁ言ってたけど…本当は…本当はっ!!!!」

言葉を続けようとした及川の顔の横にバンッ右手をつける。

「…本当は、コートに戻りたいんじゃないかって?」
「……うん」

私の視線から逃れるように俯いた及川の頬に手を添えて上を向かせる。

「あたしは、及川に託した。及川達に託したんだ。いつまでも引きずってんじゃねぇよ」
「それでも、それが本音かわからないじゃん!!何度も、そう言ってくれたけど本当の気持ちなんかわからないじゃん!!」

泣きそうに顔を歪めた彼の額に自分の額をくっつける。

「あたしを、信じろ」
「え?」
「お前が裏切らない限り、あたしもお前を裏切らない。わかるだろ、徹」

及川が目を見開いた。

「馬鹿」
「え?」

私を押しのけて及川が両手で顔を隠して俯く。

「カッコ良すぎるよ、麗亜チャンは」

髪の隙間から見えた赤い耳に溜息を零す。

「相変わらず、名前で呼ばれるの苦手だね」
「そっちだけじゃないよ!!壁ドンとか、普通逆でしょ!!?」
「あーはいはい、ごめんね」

真っ赤な彼に笑いながら準備を再開する。

「麗亜、チャン」
「ん?」
「麗亜チャン…麗亜…」

背中に何かがあたる。
背中に当てられたのは多分及川の頭。

「どうしたの?」
「ごめん、ごめんね」

震える彼の手を握った。

「何に対する謝罪?」
「もっと、早く止めればよかったんだ。そしたら…そしたらっ!!」

視線を下げて見えた震える及川の手を握る。

「後悔してないって言ったでしょ」
「うん…」
「だから、及川も後悔しないでいい」

及川が静かになったと思うと、ゆるゆると崩れ落ちていく。

「及川!!?て、寝てる?」

頬に涙を伝わせたまま眠る及川に苦笑する。

「優しいね、いつだって私のことを考えてんだもん」

なんとか、及川を背負って歩き出す。
大広間は遠いし、待合室でいいか…

私の寝ていたソファに降ろして布団をかける。
頬に伝う涙を拭いて、そこに座る。

「ねぇ、及川。本当に…私は、あたしは後悔してないんだよ」

暗い部屋に私の声だけが響く。

「及川のお陰で、好きなものを嫌いにならずにすんだ。こうやって、まだバレーに関われてる。感謝するだけじゃ足りないくらいなんだよ?」

「だから、私を信じて?…戦う貴方の傍を私は離れたりしない。それが、私の意志なんだよ」


****


何かぬくもりを感じて目を覚ます。
眠い目を擦りながら、お腹辺りに視線を向けると麗亜チャンが腕に顔を埋めて眠っていた。

「麗亜チャン…」

麗亜チャンを起こさないように綺麗な髪を撫でる。

「…麗亜チャンが、嘘つくはずないよね?信じていいんだよね?傍にいてくれるって…」
「信じてよ、私を」

予想もしていなかった返事が聞こえて手を止める。

「麗亜、チャン」

頭を撫でていた手を、麗亜チャンの手が掴む。

「おはよう」
「お、はよう…」
「で?信じるの?」
「し、信じます」
「なら、よし」

麗亜チャンはニコリと笑って俺の頭を撫でた。

「もう少し、寝てな。私は朝食の準備あるから」
「あ、うん…」
「おやすみ」

部屋から出て行く麗亜チャンを見送ってから布団を被る。

「…バカバカバカ、なんでそんなにカッコいいんだよ…」

熱い顔を両手で隠して足をバタバタとさせる。

「…信じてるよ、麗亜チャン。…好きな人を信じない男なんて、ダメすぎでしょ」

ぴたりと足を止めて、自分に言い聞かせるように呟く。

「絶対、勝つ…」

それで、この想いを…
伝えたい。
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