私の一件があってから、幸か不幸かみんなの動きは極端に良くなった。
「いい動きだな」
「そうですね」
監督も満足そうに笑う。
「金田一」
「はい?」
及川のトスを打っていた金田一に駆け寄る。
「及川のトス打つ時、気持ち半歩後ろで踏み切ってみて」
「え?」
「そっちの方が楽だと思う」
それだけ言って、また別の所に走って行く。
「岩泉、休憩入れて。動き鈍いよー」
「おう」
レストの指示を出しながらノートに文字を書き入れていく。
「渡、もう少し軽く踏み込んでいいかも」
「はいっ」
「あと半歩前に出るイメージで踏み込むと案外届くよ」
トスを上げ続ける及川に視線を向ける。
随分と気合い入ってるんだよね…
「寿」
「どうしたー?花巻」
「テーピング頼む。少し足に違和感」
「ん、了解」
ベンチに座る花巻にマッサージをしながら、テーピングをする。
「これで平気?」
「サンキュ」
「無理せず、頑張れー」
練習に戻っていくのを見送ってドリンクの準備をする。
「休憩だよー。ドリンク、ちゃんと飲んでね。あと、汗は拭いてー」
タオルとドリンクを配りながら言う。
「ありがと、寿サン」
「どういたしまして」
まぁ、この調子なら…平気かな。
私は小さく微笑んで、調理場へ向かった。
そして、時間は早く過ぎる。
****
GW合宿最終日。
私はコートに立っていた。
「え、寿サン…?」
驚く及川を無視して、ジャージを脱ぐ。
「監督とコーチからの提案、なんだけどねー…」
何度か手足を回してボールを手に持つ。
「これでも私、サーブ得意でね。…これから徹底的にサーブ打ちこむから」
ニコリと笑って、監督の方に視線を向ける。
「6人入れ。それで、3本取れたら次と交代。はいじゃあ、スタート」
コートに入ったのはレギュラー6人。
渡は次に入るかな。
「はいじゃあ、1本目」
ボールを高く上げる。
「みんな、あんまり甘く見たら痛い目見るよ〜」
及川が顔を引き攣らせながら言った。
ボールはコートの端。
ラインぎりぎりに叩きつけられる。
「は?」
「マジかよ…」
驚く及川以外の部員を無視してボールを取る。
「次いくよ!!」
へとへとになっている部員にドリンクとタオルを配る。
「はい、お疲れ様〜」
「寿先輩、なんでそんなに元気なんすか…」
恨めしそうにこちらを見る彼らに首を傾げる。
「もう2セットぐらい余裕だよ」
「マジかよ…」
自分用のドリンクを飲んで、汗を拭く。
「寿サン」
「ん?」
「なんで同じ動作なのにボールが前後に打ち分けられてるの?」
私は籠からボールを取って、コートに入る。
「前から見て動作が同じに見えるだけ」
「え?」
「横から見たら分かるよ」
ドリンクとタオルを床に落としてサーブを打つ。
「これが、ラインぎりぎり」
「うん」
「で、次が…」
ネットギリギリにボールが落ちる。
「…トスの位置か…」
「正解。これで威力が変わるから、ボールの位置が変わる。まぁ、及川の長所は威力だから…たまに使うならいいかもね」
「ちょっと、練習してみる」
真剣な瞳の及川に微笑む。
「いつでも相手するから呼んでよ」
合宿最後の夕飯を食べてミーティングを始める。
合宿で変わったこととか弱点とかまだまだ未完成だけど…
大丈夫かな、このチームなら…
「じゃあ、最後に寿。言いたいことあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、及川ー」
「はい」
及川が前に出てくる。
「これで、合宿を終わりにする。予選までまだ時間はある。俺達のやるべきことをするよ」
「「はいっ」」
「じゃあ、解散」
8時過ぎを指す時計。
片づけは一応終わってるから最後に忘れ物の確認してから帰ろうかな…
「寿サン」
「なに?」
「一緒に帰ろう?」
ニコニコと笑う及川に少し待っててくれるならというと、わかったと椅子に座る。
「ごめん、お待たせ」
「全然いいよ〜」
外はもう暗くなっていて、所々星が輝く。
「合宿お疲れ様」
「及川もね」
「三島さんのあれは予想外だったけど…みんながまとまって良かった」
あ、珍しく部長の顔してる。
「麗亜チャン、失礼なこと考えてない?」
「考えてないよ」
クスクスと笑いながら体を伸ばす。
「久々にあんなに動いた」
「楽しそうだったよ、スゴイ」
「楽しかったよ。バレーは、楽しいね」
及川が目を丸くしてから、優しく微笑む。
「そうだね」
「…明日からまた、頑張ろう」
自分の家の前で、及川にそう伝えると嬉しそうに微笑んだ。
「頑張るよ。じゃあ、また明日」
「また明日」
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