「ついに明日からIHの予選が始まる。気を引き締めて行けよ」

監督からの言葉が終わって、視線はこちらに向いた。

「寿、何か言うか?」
「いいですか?じゃあ、少しだけ」

部員の前に立って、息を吸い込む。

「みんなは弱い」

私の言葉に部員がざわつく。

「きっと独りじゃ戦えない。けど、みんなには一緒にここまで戦ってきた仲間がいる。独りじゃない限り、みんなは…私が知る限り誰よりも強いと思う」

ざわついていた部員が水を差したように静かになった。

「3年間、この場所でバレー部を支えてきた。私が見てきた3年で、今年が一番最高なチームだと思う」

嬉しそうに笑う及川や岩泉が見えて、私も微笑む。

「烏野や白鳥沢…勝たなきゃいけないチームは沢山ある。全てに勝ってIHに行かなきゃいけない。けど…目の前の敵が何よりも最大の敵だってことを忘れないで。上を見ていたらきっと足元掬われる」

きっとこのチームなら、勝てる。
誰にも負けない。
ずっと見てきたんだ、みんなの努力を…
悔し涙も、嬉しそうに笑う彼らも、何度も立ち上がる彼らも…

「私は、ずっと見てきた。みんなの努力を…誰よりも近くで見てきた。」

だから誰よりも知ってる。
彼らの強さも弱さも…

「信じてる。きっとみんなは勝てる。…私に頂の景色を見せて」
「見せますよ、絶対に」
「待ってろよ、寿。お前も一緒に連れて行ってやる」

国見と岩泉の言葉にみんなが頷く。

「寿サン」
「及川…」
「一緒に、行こう。頂へ」

伸ばされた手を迷うことなく握る。

「うん」

泣くのはきっと今じゃない。
泣きそうになるのを抑えて笑う。

「怪我だけはしないでね、みんな」


****


帰り道、隣を歩く及川は空を見つめていた。

「今日は珍しく静かだね」
「そうかな〜」
「きっと大丈夫だよ」

何が、なんて言わなくてもきっとわかる。

「麗亜チャン…もし、負けたら…」
「もしもの話は聞かないよ。そうなったとき、その話を聞く」
「…うん」

及川は俯いて、足を止めた。

「俺は…絶対に勝つから」
「うん」
「だから…俺から離れないで」

縋るようなそんな瞳を向ける及川の頬に手を伸ばす。

「離れないよ、きっと」
「うん…」

指先に及川の髪の毛が触れる。

「信じてる。だから、信じて」
「うん」
「それで、みんなを信じよう。及川は、あんなにいい仲間に囲まれてる」

微笑みながら言うと、及川は嬉しそうに笑った。

「うん、信じてる」
「…試合前になると不安になるのも昔と変わらないね」
「えー、そんなことないよ?」

止めた足を動かしまた家に向かって歩き出す。

「中学の時も、試合前に泣きついて来たでしょ?」
「べ、べつに…泣きついてなんかないよ!!?」
「私には、及川をコートで支えることはできない」

暗くなった空を見上げながら言葉を続ける。

「けど、及川の背中を押すことくらいなら…私には出来るよ」
「麗亜チャン…」
「不安なら何度だって、ベンチから背中押してあげるから…安心して戦いなさい。全力じゃなきゃ怒るよ?」

及川はどこか嬉しそうに笑って、私の手を握る。

「えへへ」
「なにその、だらしない顔」
「麗亜チャンはカッコいいなぁって」

及川はぎゅっと私の手を握っている手に力を入れた。

「帰るまで…ダメ?」
「…今日だけだからね?」
「うんっ」

子供みたいに笑う及川に溜息をつく。

「いつもそうしれてばいいのに」
「え?」
「いや、なんでもないよ」

これ以上モテたら、練習の邪魔かな…
私たちを繋ぐ手は、結局家に着くまで離されることはなかった。

「じゃあ、また明日」
「今日は早く寝なよ?」
「わかってるよ。じゃあ、おやすみ」

ひらひらと及川が手を振って自分の家の方に歩いて行く。
温もりの残った右手を見つめて私は微笑む。

「大丈夫だよ、きっと」
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