『青城タイムアウト』
「昨日寿サンと話し合ったときは録画したやつの音声がちょっと解り辛くて確信が持てなかったんですけど…」
「及川と別れてから音声解析を入れて、ここまでのを見て確信が持てました」
「トビオとチビちゃんの神業速攻と普通の速攻の使い分け方」
私たちの言葉に驚いている選手たち。
「“来い”と“くれ”です」
「神業速攻の時は持って来いみたいに来いって言葉を入れて、普通の速攻の時は俺にくれみたいにくれって言葉をいれてる」
影山がこちらを見ているのに気づいて小さく微笑む。
それにビクリと肩を揺らした影山。
「でもね、あくまでチビちゃんの武器は囮。彼にばかり目が行けばそれこそ向こうの思う壺。だから簡単な決まりだけ作っちゃおう?」
私に視線を向けた及川に頷く。
「来い、のときはマークは1人でいい。くれの時はトスの上がる位置を確認してから跳ぶこと」
「オス!」
「つっても、あの10番次サーブで後衛だけどな」
花巻の言葉に及川が慌てながら言葉を返す。
「わ、わかってるし!知ってたし!」
「つーかこんな序盤の特に動きのないタイミングでタイム取って気付いたことに気づかれたんじゃねェの?」
「それが狙いだよ」
岩泉の言葉にそう答えて、視線を烏野に向ける。
「合図に気づいたことがわかればきっと、多少なりともトビオは焦る」
「焦った人間ほど転ばせやすい人間はいないよ」
「おい、寿が黒いぞ…」
タイムアウトはあと少しで終わる。
「金田一」
「はい」
「サーブの狙う場所はわかってる?」
コートのラインを書いた小さなホワイトボード。
「狙い目はここね」
「はい」
「及川みたいに威力は必要ない。ただここに…」
黒いペンで丸を書いた場所をペン先で叩く。
「ここに入れればいい。肩の力抜いていつも通りね」
「はいっ!!」
タイムアウトが終わって、みんながコートに戻っていく。
一番最後にコートに向かおうとする及川に後ろから駆け寄って手を引く。
「麗亜チャン?」
「サーブの時狙うのはこの人」
手に持っていたノートを見せて言えば及川はニコリと笑う。
私が嫌いな張り付けた笑顔。
けど、試合の時のこの笑顔は…頼りになる。
「わかってるよ。俺も同じことを考えてた」
「さすが及川。いってらっしゃい」
「うん」
背中をポンと叩いて、ベンチに戻る。
金田一が狙い目―後衛の影山が出てくる場所を狙ったサーブを打つ。
計算通りレシーブが乱れる。
狙っている場所がバレやすいからか3本目のサーブは相手の得点となった。
影山と及川が前衛に出る。
スコアを見て焦った影山のツーを及川が難なく止める。
やっぱり焦った人間ほど転ばせやすい人間はいない。
ローテが回って、日向が前衛に入る。
「トスくれーっ」
日向君の言葉に反応した金田一がボールに触れる。
残念ながら、それは止められなかった。
「どう思う、寿」
「ちゃんと反応出来ているので問題ないかと…」
「頼りになるねェ、寿は」
「…コートに立てない人間にはこれしかないんですよ」
影山のサーブで青城が乱れる。
「及川ラスト!!」
及川の打ったボールは影山の元へ返る。
これで、トスは上げれない。
そして、次は及川のサーブ…
「いつも威勢の良いムードメーカーが大人しくなった時の空気の重さったらないよねぇ」
狙いは田中君。
威力もコントロールも申し分ない及川のサーブは田中君の腕に弾かれコート外へ。
「叩くなら、折れるまで…」
及川の座右の銘を呟いてクスリと笑った。
13-7.
青城のリード。
サーブは及川…
ここで烏野のタイムアウトが入る。
「及川」
ドリンクを渡して、彼の頭にタオルを乗せる。
「平気?」
「こんなんじゃ切れないよ」
「知ってる」
タイムアウトが終わり、集中力を切らさずにコートに戻った及川。
2点稼いだところでまたタイムアウトが入る。
「今、トスを呼んでなかった…」
顔をバシンと叩いた彼。
「そう簡単に折れないか」
ベンチに座って目を閉じる及川。
こうも連続でタイムアウト入れられるのは少し困る。
「寿」
「はい」
話し合いをしていた私に監督が及川の方を指差す。
「作戦の方の伝達は、監督にお願いします」
「あぁ」
「行ってきます」
私は目を閉じる及川の元へ歩み寄った。
「麗亜チャン」
パチリと開いた瞳に私を映る。
「いいの?こっち来て」
「監督命令」
「そっか」
もう1度目を閉じた及川の隣に座ってノートを開く。
「麗亜チャンがいると落ち着く」
それから何かを話すわけでもなく、ただ隣に座っている。
タイムアウト終了の笛が聞こえて及川が目を開いた。
「麗亜チャン」
「なに?」
「何度だって、背中押してくれるんだっけ?」
立ち上がってこちらを見た及川に私は微笑む。
「お望みなら、いくらでも」
背中をポンと叩いて、強い力で押す。
「…ありがと」
「いーえ」
及川のサーブ。
それを胸で受けた田中君。
地面に落ちていくそれを日向君が拾い、影山が青城コートへと返す。
及川のサーブに問題はなかった。
やっぱり、田中君は簡単には壊れないか…
田中君が上げたことによって繋がれたボールを渡が上げて、花巻が打つ。
それを夕が拾い、影山が上げる。
そして、そのトスを決めたのは田中君。
「自分で悪い流れを切っちゃうのかー…」
あと3・4点はいけると思ってたけど、これは誤算だったな…
日向君の神業速攻にも反応は出来るようになったけど、止めるまでにはいかない。
「やっぱり、速いですね…」
「目が慣れるまで時間がかかりそうだ」
及川のトスを打った金田一。
「あー、最高打点ですかね。金田一の調子はやっぱり、今日は良好かな」
日向君の上からスパイク決めた金田一。
試合を眺めていて、違和感に気づく。
「烏野、攻撃早くなってますね」
「スピード呪縛…ブロックから逃れたい一心で打ち易さより速さを優先してしまう。無意識に…ほんの少しずつ。でもそれは…」
「徐々に大きなずれとなる」
及川と違い、影山は人とのコミュニケーションがあまり上手くない。
今の彼にはスパイカーを100%の力で使うことはできない。
愛梨と同じだ。
彼には何も見えていない。
折角、いい仲間に出会えたのに…
及川と影山の押し合い。
上手く影山の力をいなして、及川がボールを押し込む。
尻餅をついた彼の顔に浮かぶのは紛れもない焦り。
「これは…勝手に自滅しますよ。影山」
「そうだな」
月島と影山のコンビミスで烏野のボールが乱れた。
「寿は及川と影山どちらが優秀なセッターだと考える?」
「及川ですよ。チームの贔屓とかなしに…彼ほど優秀なセッター知りません。天才ではないけど、及川にはセッターとしての才能がある。そして、それを生かすための努力も惜しまないし、その才能の生かし方も知ってる」
「よく、わかっているな」
「私の全てを預けた人ですから。…今の影山は及川には勝てない」
青城の得点が20点に達した。
そこで、笛が鳴る。
「メンバーチェンジ…」
菅原君、だったかな…
あの泣きぼくろ君。
「彼の情報は?」
「あまり多くはありません。去年も2年だったためあまり試合には出ていないし、今年は影山がいる」
「影山に正セッターの座を奪われたか…」
「まぁ、確かにそうですけど…。コートの外は案外中が良く見えるんです。正セッターではないですけど彼は要注意かと」
一応調べておいた彼のデータを見る。
データが少ない人にはペースを乱されやすい。
これはちゃんと乗り切らないといけない…
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