菅原君が入った烏野のコートには笑顔が見える。
「前衛は蛍に菅原君と田中君か…」
身長的に狙い目は菅原君の所…
及川もそれに気づいたようで岩泉に耳打ちしている姿が見える。
及川のトスが岩泉にあげられる。
あることに気づいた私は声をあげる。
「岩泉!!」
私の声がコートに響いた。
菅原君がいた位置にいる蛍。
蛍によってスパイクが止められる。
「切替…」
「わりッ」
「ドンマイ岩ちゃん」
菅原君は私が思っているより冷静に自分を理解してる。
そして、チームが見えている。
その後の松川のAクイックも日向君に止められる。
「…彼、厄介ですよ」
「そうだな」
多少なりとも青城メンバーの表情には混乱が見える。
「トビオじゃないんだから神業速攻はないよっ」
及川の声がコートに響く。
及川はまだ冷静だ…
それでも、Cクイックを日向君に決められる。
「ここ1本切るぞ!」
「オオ!!」
徐々に点差がつめられていく。
15-22になった時及川にサーブが回ってきた。
ボールを持った及川がこちらに視線を向ける。
視線を交わらせて、首を傾げた及川に頷く。
こういうときだけ、会話がなくても意思の疎通が出来る。
次の狙い目は…
田中君と夕の間に落ちたボール。
「お見合い…」
「絶妙な所に入れてくるな…」
「練習、頑張ってましたから」
烏野が少し、後ろに構える。
今までの強いサーブから一変して、緩い軟打。
「あれは寿が練習の時に使っていた…」
驚いている監督に私はクスクスと笑う。
「あの後から、練習してたんですよ」
これでマッチポイントだ。
サーブ権はまだ及川。
「及川は、努力を惜しむことはしませんから」
これで決めるよ!とチームメイトに声をかける及川。
「…調子にのったまま次のゲームにはいかせるべきじゃない」
きっと、及川もそれをわかってる。
澤村君と東峰君の間を狙ったサーブは、澤村君に取られる。
やっぱり、主将は冷静か…
菅原君がトスを上げて東峰君がスパイクを打つ。
それを花巻が拾って、相手コートに上がったボールを日向君がダイレクト打ち返そうとして少し空振る。
それによって青城のレシーブが少し乱れる。
なんとかトスが上がり、金田一がスパイクを打つがそれを日向が止める。
「後ろォ!!!下がれ!!」
コーチの声がピリピリと耳を刺激する。
渡が追いかけたボールは、渡の手に触れることなく落ちる。
だが、赤い旗が上がった。
「アウトか…」
一応これで、第1セットは獲った。
タオルとドリンクを配って、私はカメラの映像を見つめる。
「麗亜チャン?」
隣に座った及川に視線を向ける。
「どうかした?」
「熱心に何見てるのかなーって」
「ただ穴を探してるだけだよ」
手元のノートに気になる点を書き入れながら、映像を見つめる。
「あのサーブ…練習してよかったね」
「え?」
「上手だったし、使うタイミングも良かった」
私の言葉に及川が目を丸くする。
「どうしたの?」
「いや…なんか、褒められると思ってなくて…」
持っていたシャーペンをベンチに置いて及川の方をじっと見つめる。
「な、なに?」
「今日はいつもより調子がいいね」
及川の頬に伝う汗を、及川の首にかかっているタオルで拭く。
「確かに菅原君が入ることを私たちは考えてなかった。影山とは違うタイプのセッターだから、結構かき乱されてはいる」
「うん」
「けどね…、彼は天才じゃない」
首を傾げた及川。
後ろから岩泉たちも近づいてくる。
「彼は確かに影山より周りが見えている。だから普通の連携は上手いと思う。けど…」
視線を烏野の方に向けてから、及川を見る。
「私は彼よりも周りが見えていて彼よりも連携が上手くて、そして影山よりも強いセッターを知ってるよ」
「え?」
「…及川。私は…及川よりも優れたセッターは知らないよ」
また、目を見開いた及川。
その後ろでどこか楽しそうに笑う岩泉たち。
「私の予測では、菅原君はそろそろ下げられる。その代り、さっきよりも冷静になった影山がコートに戻ってくる。そこからは、きっと日向君の神業速攻もまた戻ってくる」
「なんで下げられると思うの?」
「まぁ、スペック上影山の方が上だし…囮を囮としてうまく使えてないから」
周りが見えていても、彼は影山には劣る。
みんなをある程度使えても最大限に使えるわけじゃない。
「あの2人は全員を最大限に使えてるわけじゃない。影山は日向君を、菅原君は東峰君を最大限に使えてるけどね。けど、及川はここにいる全員を最大限に使えるセッターだよ」
「…うん」
「だから、焦る必要はない。混乱する必要もない。影山のいない烏野は今まで戦ってきたチームとそう変わらない」
後ろにいた岩泉が及川の頭を小突く。
「痛いっ!!?」
「そういう事だ。寿にここまで言わせておきながら負けるわけにはいかねェぞ?」
「わかってるよ!!」
自分の周りに集まっていた彼らに気になる点や狙い目を話す。
「よっしゃ、行くか」
「寿先輩」
タオルとドリンクを集めていた私に近づいてきた国見に首を傾げる。
「どうしたの?」
「どうして、さっき…及川さんを励ますようなこと言ったんですか?」
不思議そうに首を傾げている国見の頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「焦ってたから」
「そう、ですか?」
「最後の1点は相手のミスで取れたものでしょ?向こうを調子にのせたままだからねー」
岩泉たちと戯れる及川を見て微笑む。
「…よく、わかりますね…。そんなに表情の変化ないですよね?」
「んー…まぁ、付き合い長いからね。けど、心配ないよ。もういつもの及川だから」
もう1度頭をかき乱して背中を押す。
「いってらっしゃい、国見」
「はい」
第2セットが始まるホイッスルが体育館に響く。
「寿サン」
「はいはい」
背伸びをして後ろから及川の髪を撫でる。
「え?」
「行ってこい、徹」
そう言って笑ってやれば及川もニコリと裏表のない、本当の笑顔を見せた。
「いってきます」
さて、第2セットが始まる。
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