烏野の第2セットのスターティングが変わっていて、私は首を傾げる。
「どうして回したんだと思う?」
監督の言葉にローテーションを見つめながら頭の中で色々な仮説を立てて消していく。
「…確定ではありませんが」
「なんだ?」
「及川のサーブへの対策だと思います」
進んでいく試合を見ながらノートに彼らのローテーションを描く。
「烏野でのレシーブが上手い選手は主将澤村君と夕です」
「その2人だな…」
「及川のサーブの時にその二人が後衛にいて、及川のサーブを上げる…。それから、レフト位置に田中君がいてスパイクを決めやすく…後衛に東峰君がいることからバックアタックの可能性もある…」
監督は黙ってコートを見つめた。
「ローテーション、1つ回しておけばよかったですね」
「そうだな。だが、それで折れるような選手でもないだろう?」
「…はい」
2-2のとき及川にサーブ権が回ってくる。
予想通り、澤村君と夕がコートのほとんどを守る体制になっていた。
及川の集中力は悪くない。
打ったサーブは途中でカーブを描く。
それに、澤村君が追いつき、菅原君がトスを上げた。
その先は田中君。
ブロックを弾きコートに落ちたボール。
「しゃああぁ!!」
コートに響いた歓喜の声。
「…さすが主将君」
及川の顔には焦りはまだ見えていない。
「ここ1本!!」
「オォ!!」
岩泉の声に暗いムードにはならずに試合が進む。
「1本目の及川のサーブを切られるって言うのは…向こうを乗せやすくて嫌ですね」
「そうだな」
「…けど、負けるわけにはいきません」
試合は一進一退。
点差はあまり広がらない。
でも徐々に浮き彫りになってくる菅原君の弱点。
及川も気づいているのかこちらを見てニコリと笑った。
「烏野の基礎攻撃力が高いのは確かだけどそういうチームとは今まで何回も戦ってきた。さあ、突き放しに行こう」
菅原君は確かにレベルの高い選手ではある。
けど、彼には影山みたいに特別な技術があるわけじゃなくて教科書的な攻撃。
無茶なトスは上げない。
それに身長がないから上を抜かれやすい。
14-14.
及川にサーブ権が移る。
「そろそろ均衡を壊してほしいところですね」
交互に点を入れるだけじゃ試合には勝てない。
スコア表から及川に視線を向ける。
及川のサーブを夕が拾い、菅原君が田中君にトスを上げる。
田中君のスパイクをブロックが止める。
「ブレイク…」
「セッターが変わってから烏野はレフトを使ってくることがより多いですね」
「烏野のレフトはどっちも強力だからな。でもあの10番にちょこまか動かれるよりは戦いやすい」
監督とコーチの話を聞きながらノートを捲る。
「寿はどう思う?」
コーチの言葉に顔を上げて首を傾げた。
「私ですか?まぁ10番の日向君はジャンプ力を除けば素人同然。そんな彼を攻撃力に変えるには影山のトス技術が必要です。菅原君じゃ足りないですよ。彼を100%使うには」
段々皆が攻撃に追いつくようになってきた。
17-15になった頃、繋心が影山を呼んだ。
「次で交代みたいですね」
「やっぱり、影山か…」
澤村君がボールを拾い、スガ君がトスを上げる。
それを東峰君が決めて審判が選手交代のホイッスルを吹いた。
コートに入った影山が何をしたのかわからないがみんなの顔が引きつった。
「…なにしたんだろう?」
17-16.
試合は影山のサーブで始まる。
ボールを持つ彼がすごく嬉しそうな顔をしていてつい笑ってしまう。
けど、目を閉じて深呼吸をした彼の目に背筋が震える。
「1本で切るよ!!」
「オオッ」
及川に良く似たモーションでサーブを打った彼。
渡がそれに反応するが弾かれる。
「リベロからのサービスエース…」
また同点に並んだ。
ガッツポーズをした影山に、田中君が両手を上げて近づく。
慣れない様子でハイタッチをした彼に金田一と国見が目を丸くした。
「影山が…」
2本目のサーブを岩泉が拾い渡が上げる。
そして、なんとか花巻が相手コートに入れた。
だが、チャンスボール。
助走をつける日向君。
来いもくれも言わずに日向君が飛んで金田一の頭上を抜けてコートに突き刺さった速攻。
「何も言わなかった…て、ことは合図が変わったのか」
あんな簡単な合図ならいくらでも変えがあるか…
「くっそ…」
「ハァイ。落ち着いて」
焦った顔をした金田一に及川は目を閉じて微笑む。
「焦ってこっちが崩れてやる必要はないよ。一本取り返せば問題ない」
「ハイ!」
「オス!」
及川がコートにいるとすぐに悪い雰囲気を変えてくれるから頼もしい。
「おい、その顔とポーズ…ハラ立つ。やめろ」
「ヒドイな!!」
3本目のサーブは岩泉がきっちりと拾い、花巻のスパイクが決まった。
「影山…平常なリズムを取り戻したか…」
「それだけじゃないですよ、監督。相手ばかり気にしていたのにチームメイトにも意識が向くようになってます。ヤバいですよ…これ」
速攻の合図は言葉じゃない。
多分野球とかで使うような体を使ったサインだろう。
そんなものを今から見つけることは私にも不可能に近い。
日向君のスパイクが決まり先に20点台に乗ったのは烏野だった。
「このあと…どうなると見る?」
「さっきも言いましたけど影山は日向君を扱うには一番すぐれています。けど…他の人を扱えるかと言えばそうではないです」
夕と入れ替わりでコートに入ってきた蛍。
「…影山が及川に追いつくには…蛍との連携が出来るようになることが一番の条件です」
「蛍?」
「11番の月島君です」
蛍と影山は仲が悪い。
だから…蛍にあまりトスを上げたがらない。
「チームメイトを好き嫌いしてる状態じゃうちの及川には勝てませんよ」
「及川が聞いたら喜びそうだな」
コーチがニヤニヤと私を見て言った。
「言ったら調子に乗るので言いませんよ。けど…必要になったら何度でも伝えます。恥ずべき言葉ではないと思ってますから」
「…聞いてるこっちは恥ずかしいんだけどな」
苦笑するコーチと監督に私は笑う。
「言葉にしないと伝わらないこともあるんですよ。沢山」
「それでもお前は真顔で言いすぎ。真っ赤になってる及川が不憫だ…」
「いいじゃないですか。女の扱い慣れてるくせにあんな反応見せるなんて可愛いでしょ?」
クスクスと笑ってコートに視線を向ける。
本音だからこそ、私は伝えられる。
及川は、このチームは強い。
だから、こんな所で負けない。
19-20.
日向君のサーブがネットに当たりレシーブが乱れて、19-21になった。
そして1回目のタイムアウト。
「今のはしようがない。落ち着いているな?」
監督の言葉にみんなははいと答えて。
「ならいい」
監督は満足げに笑った。
「10番下がって11番前衛に来ると烏野はセンター使ってくる回数減るよな」
松川の言葉に及川が頷く。
「うん。単純にトビオはあののっぽ君が苦手なんじゃない?昨日も今日もマトモなコミュニケーションとってる感じじゃない」
「及川の言う通り、影山は蛍を一番上手には使えないよ。蛍もあんまり影山を好いてはいないみたいだったし」
私と及川の言葉に松川と花巻が顔を見合わせて。
「…やっぱ及川とはトモダチになりたくねーなー」
「なんで!」
「弱みとか握られそうじゃん」
「チームメイトの弱み握ってどうすんのさ!!てか、寿サンはいいの!?」
2人はこちらを見て、少し黙る。
「まぁ、マネだし…」
「及川と違って悪用しそうにないし」
「俺も悪用しないから!!」
彼らの会話に私は苦笑して。
けど、落ち着いててよかったと内心安心した。
「ほら、もうタイムアウトは終わりだよ。いってらっしゃい」
「おう」
試合が再開してすぐに1点を取り返し20-21.
影山のあげたトスを打った蛍はどこか打ちずらそうに見えた。
こちらのタイムアウトからすぐに同点に並び、烏野がタイムアウトを取る。
烏野ベンチに視線を向ければ影山と蛍が少し離れて会話をしているのが見えた。
もしここでコミュニケーションをとったのだとしたら攻撃は少し変わってくるかもしれない。
タイムアウトが終わってから1発目。
蛍にあげられたトス。
さっきの打ちずらそうな感じがなく、ブロックをすり抜けたフェイント。
そこからの蛍の攻撃はフェイントばかりで。
22-23.
烏野にとって大事な場面、ボールは景に上がる。
フェイントを警戒して、前に出た渡。
「いかん!!出過ぎるな!!」
私が言葉にするよりはやく監督が叫んで。
フェイント連発からの強打。
ブロックをすり抜け、リベロを弾いてコートに突き刺さったスパイク。
「やられましたね…」
「そうだな。フェイントを警戒しすぎた」
22-24.
烏野のセットポイント。
あと1本、あと1点と騒がしくなる烏野を黙らせたのは岩泉の強烈なスパイク。
「渡さねーよ!!」
岩泉の声がコートに響く。
彼はこういうときもすごく頼もしい。
23-24で回ってきた及川のサーブ。
ここでミスればこのセットを落とす。
だから慎重に…なんて相手は思ってるだろうけど。
「「思いっきりでいいぞ」」
花巻と岩泉の言葉。
及川は静かに頷いた。
思いっきりのサーブはラインぎりぎりを狙って。
「西谷ァァァアア」
澤村君の声に、夕が反応して。
何とか上がったボールはこちらのコートにそのまま返って来る。
チャンスボール。
レシーブは綺麗にセッターに返った。
ここで使うならセンターからの速攻。
影山が蛍のユニフォームを引っ張ったのが見えた。
上がったトスはセンターじゃなく、レフトにいた岩泉。
それが2人にブロックされこちらコートに突き刺さる。
ホイッスルが鳴った。
23-25.
セットカウント1-1…か。
「くっそがァァア!!すまん!!」
悔しそうに吠えた岩泉に及川は笑う。
「何笑ってんだ!!ぶん殴るぞ」
「すぐ殴るって言うのやめなよ、岩ちゃん」
「安心しろ。おめーにしか言わねーし、殴んねーよ!」
及川は静かに、言葉を続ける。
「今のはセンターからの速攻がベターな攻撃だった。でもトビオは俺がレフトにあげると読んでいた。そうだよね、寿サン」
「うん、読まれてた。影山は合図出してたから」
「トビオは今までみたいに機械的に考えるんじゃなくて終盤・こっちの劣勢っていう状況・岩ちゃんと俺の超絶信頼関係「あってたまるかそんなもん」…そういう総合的な判断をしてきたってこと…!」
「彼は…菅原君は一体何を影山に教えたのかな」
ギラギラと肌に感じる闘志や熱気。
「ただの独裁の王様がマトモな王様になろうとしてる。なんだこれ…すごいムシャクシャしてんのにこの感じ…!!」
コートを包み込む緊張感。
ひどく、羨ましくなってスコアブックを握りしめる。
「はやく、早くやろう!!最終セット!!!」
手の力を抜いて小さく息を吐き出す。
「多分もう神業速攻のサインは変わってる」
「やっぱり?単純なサインだからいくらでも替えが利くんだよね〜。それも考えてるのは単細胞っぽい本人達じゃなく外の奴だ」
「それでも何か見分けるヒントは…」
金田一の言葉に松川が首を傾げる。
「球を愛で長く追っているようなら普通の速攻。ただ突っ込んでくるときは神業?」
「確かに10番自体をみるのがいいか」
「あっハイ!!」
「あくまで彼は囮だって忘れないで。いい?」
私の言葉に彼らは頷いた。
「俺のセリフ取られた!!」
「考えてること一緒ってことでしょ」
「そう、だけど…」
少し拗ねた顔の及川に笑いかけて髪を撫でる。
「ラスト、全力で」
「うん!!」
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