「国見ちゃんイケるね?」
「ハイ」
国見がこちらを見て、私の名前を呼んだ。
「寿先輩」
「どうしたの?」
「…そこで、待っててください」
国見はじっと私を見つめてほんの少しだけ笑った。
「先輩が自分を犠牲にして守ったこのチームで…勝ってきます。だから、そこで待っててください」
「ちょ、国見ちゃん!?何、カッコつけたこと言ってるの!?」
「俺の思ってることを言っただけです。先輩、なにも心配いりませんよ」
彼は微笑んで、コートに入っていく。
それを及川が追いかけて、みんなコートに入っていく。
ありがとう、国見。
けどね、けど…
コートを見つめながら私は手をぎゅっと握りしめた。
流れはきっと烏野だ。
けど、こんな所では負けられない。
日向君の体はもう限界が近いらしくいつもより低いジャンプ。
影山のあげたボールは指先に触れて、フェイントのようなものになって。
ついに逆転を許してしまった。
24-25.
点差はすぐに埋めて。
次は及川のサーブ。
少しだけ及川の集中力がそれた気がした。
相手コートに向かって行くボールを直前で夕が避けて。
旗が上がる。
「アウト…」
25-26.
すぐに岩泉が素に点差を埋めて。
「これでチャラな。どっちだって同じ1点だ」
「岩ちゃんに負けた気分…!」
「お前は今までのいつ俺に勝ったんだ」
「全体的にいつも俺が勝ってる!」
笑いながら言った及川を岩泉が叩いて。
チームが崩れなくてよかったと内心息を吐く。
26-26は27-27になり。
27-28.28-28と一進一退を繰り返す。
周りが動けなくなる中、目立って動き始めたのは国見だった。
31-31.
烏野は攻撃が単調になって来て。
でも、つらいのは青城も同じだ。
サーブはローテが一周回って及川。
さっきみたいに集中力を欠くようだったらきっとまた決まらない。
「及川」
「お前、試合中にウシワカの顔がチラついてんならぶっ飛ばすからな」
岩泉の言葉に及川の肩が揺れる。
「目の前の相手さえ見えてない奴がその先にいる相手を倒せるもんかよ」
「ふ…ふっふふ…そうだね」
微笑んだ及川に鳥肌が立った。
でも彼は大丈夫だと直感的に思った。
ボールは澤村君が上げたけどそれは真っ直ぐこちらコートに戻ってきて。
走り出した岩泉にブロックがついて、トスは逆サイドに上がる。
走り込んでいた国見のスパイクが影山の腕に当たりこちらコートに戻ってくる。
「チャンスボール!!」
及川がトスを上げる。
そのトスはまた国見に上がって、ブロックをすり抜けて落ちるフェイント。
32-31.
コートの中、国見が笑って。
円陣を組んだまま及川が何かを告げているように見えた。
そんな姿を呆然と見つめていた影山。
周りが何かを声をかけていて。
「影山ァー!!!!迷ってんじゃねえぞー!!」
菅原君の声に影山の肩が揺れた。
「うちの連中はァ!!!!」
「ちゃんと皆強い」
影山のその言葉に、彼はもう孤独な王様じゃなくなったんだと思った。
私と違って彼は孤独から抜け出せたんだと。
嬉しいと感じる反面悔しくて悲しいのは…きっと私が弱いから。
****
「……ああ、嫌だなぁ…ホント厄介」
…飛雄。
急速に進化するお前に…
「俺は負けるかもしれないね」
ホイッスルの音が聞こえて。
視線だけ麗亜チャンに向ければ祈ることもせずじっと俺を見ていて。
信じてくれているんだと嬉しくなった。
俺は負けるかもしれない。でも…
いつも通りの動作でボールは手前に落とす。
麗亜チャンに教えて貰ったこのサーブ。
烏野のレシーブが乱れて。
それでも相手のエースがブロックを吹き飛ばしてボールをこちらコートに運ぶ。
それを、渡っちが繋いでくれた。
「岩ちゃん!!!」
岩ちゃんのスパイクはブロックをすり抜け相手コートへ。
それをギリギリ坊主君が上げる。
ダイレクトに戻ってきたボール。
「やれ、金田一!!」
チビちゃんを弾いたをボールをリベロ君が上げて。
「オラアァァア!!!」
勝ちたいって気持ちは伝わってきたよ。けど…
「金田一、国見!」
「ハイ!!」
俺は笑う。
俺の目の前で、高い高い3枚壁がチビちゃんの速攻を弾いた。
飛雄。
急速に進化するお前に俺は負けるかもしれないね。
ホイッスルが体育館に鳴り響く。
でも…
それは今日じゃない。
「おっしゃあああああああ」
歓声が上がって俺は肩の力を抜いて笑った。
「どうして最後のが神業速攻だって分かった?」
国見ちゃんが逆転してくれた時に円陣を組んで告げた。
次の速攻が使えそうな場面があったらトビオは神業のほうを使ってくるという言葉。
「…トビオが烏野のあの面子の中で進化したからだよ。アイツは初めて信頼を覚え始めた。そして、デュースが続いて身も心もピーク。本当に追い詰められた土壇場。そこへ与えられた貴重なチャンス」
コートに膝をつくチビちゃんに一度視線を向けて言葉を続ける。
「その時、今のトビオの選択肢はひとつしかないんだよ」
麗亜チャンからタオルとドリンクを受け取れば、凄く優しい笑顔を俺に向けた。
「最後のサーブ、よかったよ」
「…うん。麗亜チャンに教わって良かった」
「私も、教えた甲斐があるよ」
背中をポンと叩いて別のところへ歩いていく姿を目で追いながらユニフォームを着替える。
「1人だけ強くても勝てないんだよ、ドンマイ☆いってやるんじゃなかったっけ?」
岩ちゃんの言葉で、昔そんなことを言ったことを思いだす。
「…1人だけ強いわけじゃなかったじゃん。烏野は」
「おまえめんどくせーな」
「酷いな!」
俺は小さく息を吐いて。
「2セット目のラストで岩ちゃんのトスを読まれたとき、トビオが独裁の王様からまともな王様になろうとしてるとわかった。もし昔のままだったら絶対とは言えなかったけどね」
岩ちゃんは何も言わずに俺の言葉を聞く。
「俺の攻撃を呼んでみせたことで今度は俺に攻撃を読まれることになっちゃったわけだ」
「あの影山が…今やっと他人への信頼を覚え始めたってわけか…」
「ホント…厄介この上ないよねぇ…」
****
次の試合も多少の疲れは見えたが無事に勝った。
「今日は体ゆっくり休めてねー。みんなお疲れ様」
「お疲れ様です」
「国見、凄くカッコよかったよ」
私の言葉に彼は微笑んで。
「俺は!!?」
国見の後ろから顔を出した及川にも、カッコよかったと伝えれば嬉しそうに笑う。
「みんな、カッコよかったよ。次の試合も、頑張って」
「おうっ」
学校で皆を見送って、小さく息を吐く。
及川に待ってると言われたけど、断った。
「お疲れ、寿。お前も帰っていいぞ」
コーチの言葉に私は首を横に振って、部室の椅子に座った。
「寿?どうかしたのか?」
「…いえ。ちょっと疲れちゃって…」
次は若利との試合。
絶対に…負けられない。
そう思ってるはずなのに、どこか気持ちが揺れている気がした。
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