「麗亜チャン」
「んー?」
「放課後、練習付き合ってくれる?」

いいよ、と言いながらタオルを彼に渡す。

「麗亜さん、俺にもタオルいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます」

国見はタオルを受け取って、すぐに離れて行く。

「本当に麗亜さんって呼んでる…」
「いいじゃん。なんか、近づいた気がするし」
「えーっ俺だけの特権だと思ってたのに」

そう言って頬を膨らませた彼に首を傾げる。

「影山も夕も蛍も繋心も麗亜って呼んでるけど…」
「あ、そう言えば。て、あの眼鏡君も!?」
「うん、知らなかった?」

知らないよ!!と叫んだ彼に苦笑する。

「仲良くなったの!?」
「ん?どうだろう。メールとかはたまにするよ」
「聞いてない…」

肩を落として、タオルに顔を埋めた彼の後ろに般若。
の、ような岩泉。

「おい、クソ川」
「い、いわ…ちゃん?」
「何やってんだ、お前?」

がしっと及川の頭を掴んだ岩泉に苦笑する。

「程々にね、岩泉」
「おう。仕事の邪魔して悪いな」
「いいよ、気にしないで」

彼の肩にタオルをかけて、他の部員にも配りに行く。

「寿」
「あ、はい?」

タオルを配り終えて、次はドリンクの準備をしようと体育館を出た私をコーチが呼び止めた。

「合宿のこと、聞いたよ」
「え、あぁ…そうですか」
「どうするんだ?」

コーチの言葉に私は苦笑する。

「すいません、今…悩んでて」
「そうか」

タオルの籠をぎゅっと握りしめた。

「寿?」
「曖昧で、ごめんなさい」
「…及川達の事、気がかりか?」

コーチの言葉に素直に頷けばお前は責任感がある奴だな、と笑った。

「お前はさ、ちょっと勘違いしてると思うぞ」
「勘違い?」
「アイツらにとってお前は仲間だ。マネージャーだとしても、お前はチームの一員だ」

多分、あの試合の日のことを言ってるんだろう。
その言葉を聞きながら俯けば頭の上に乗せられて大きな手。

「アイツらはお前の事必要としてる大好きだろうけど。お前が本当にやりたいことなら応援してくれんじゃねぇの?」
「え…?」
「…ま、しっかり考えて後悔はするなよ」

髪をぐしゃぐしゃにしてコーチは私の頭から手を離した。

「俺は応援するよ」
「…ありがとうございます」

まぁ、頑張れよと歩いて行くコーチの頭を下げて大きく息を吐いた。

「後悔するな…か」


****


「あれ電話来てる」

部活を終えて携帯を見れば不在着信の文字。

「あれ、ごめん。何か予定あったの?」
「いや、何にもないけど」

着替えを終えた及川が申し訳なさそうに眉を下げる。
携帯の画面を見て、私は慌ててそれを消した。

「麗亜チャン?」
「ん?」
「なんかあった?」

なんでもないよ、と私は微笑んだ。

「そう?なら、いいけど。そろそろ帰ろうか」
「うん、そうだね」

夜道を2人で歩く。
もう随分と慣れたことだった。

「もう暑くなってきたね」
「うん。もう少しで夏休みかぁ…」
「その前に期末だね」

及川が「げっ」と言って眉を寄せた。

「赤点あったら夏休み補習だろうし…頑張ってね」
「うわ〜忘れてたよ〜…」
「また岩泉のスパルタ勉強教室かな」

皆成績悪くないのに。
それぞれ1教科ずつくらい、ヤバい教科がある。

「やだなぁ〜…岩ちゃん怖いし」

今日頭を掴まれていたのを思い出したのか両手で頭を抱えた。

「…思いだし痛い」
「何それ」

私はクスクスと笑う。

「うー…岩ちゃんってなんであんなにバイオレンスなの」
「まぁ、及川が口で聞かないからじゃない?」
「辛辣!!」

泣き真似をした彼の冗談、と呟いて彼の頭を撫でた。

「じゃあ、また明日」
「ん、またね」

家まで送ってくれた及川に手を振って。
及川はまた明日と笑顔で手を振り、背中を向けた。

部屋に入って不在着信の番号に電話をかけ直す。

「…もしもし。急に電話してくるなんてどうしたの?…若利」
『…番号は親から聞いた』
「だろうね。新しい番号教えてないから」

まぁそんなことはどうでもいい、と彼は言った。

『聞いた。お前、召集がかかっているんだろう?』
「…何で知ってるの」
『断るのか』

あぁ、もう。
こっちの質問に答えない。
本当に昔からこうだ。

「…まだ考えてる」
『そうか。なら、1つ言っていてやる』
「なに?」

若利の言葉に私は電話を切った。

「なにそれ」

携帯をベッドに放り投げて部屋の電気をつける。
誰もしない殺風景な部屋。
クローゼットを開けて、物の下にある段ボールを引きずり出す。
中にはいつまで経っても捨てられずにいる代表のときのユニフォームや優勝した時のメダル。
トロフィーや、盾。

代表の時のユニフォームを拾い上げて、見つめる。

『お前は必ず召集に応じる』

彼の言葉にギュッとユニフォームを握りしめた。

「あぁ、ホント。嫌な奴」

私を何でも分かってるから。
だから、気に入らない

「……余計なお世話なんだよ」

段ボールにユニフォームを押し込んで、私は机の引き出しに入れてある高1の時に配られたプリントを取り出して、ペンを持った。

「…ごめんね」
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