それは突然の召集だった。

「何だろうね、急なミーティングって」
「てか、あれ。寿は?」
「麗亜チャン?もう行ってるんじゃない?」

部室に集まった部員たち。
その中に彼女の姿がない。

「あれ、いない。俺呼んでくるよ」
「おう」
「いや、呼ばなくていい」

部室から出ようとした俺より先に外からドアを開けられた。
向こう側にいたのは監督とコーチだった。

「麗亜チャンを呼ばなくていいって言うのは…?」
「アイツがいちゃ出来ない話だ」

真剣なコーチに俺は岩ちゃんの隣に戻って。

「大切な話だ。ちゃんと聞くように」

監督の言葉に俺達ははい、と答える。

「寿にU-18の合宿への参加依頼が来ている」

監督の言葉に俺達は驚きの声をあげて、顔を見合わせた。

「それって…」
「代表の候補に選ばれた。合宿の中でまた人数を削ることにはなるだろうけどね」
「そんな話、一度も…」

俺がそう言えば岩ちゃんたちも頷く。

「きっとそうだろうと思ったよ。寿は参加するか、悩んでいる」
「アイツはここのマネージャーってことに誇りを持ってる。だから、ここを放って合宿に参加したくないんだろう。怪我のことも、あるしな…」
「君達は、どうしたい?結局決めるのは寿だが、君達の意見も聞きたい」

皆それぞれに色々なことを言っていたけど。
俺はただ俯いて、ぎゅっと自分の手を握りしめた。
俺が裏切らなければ、裏切らないと言ってくれた。
ずっとそばにいてくれると言った。
けど、俺は彼女を裏切った。
約束を、守れなかった。

「及川?」

岩ちゃんが、俺の顔を覗きこむ。
約束を守れなかった俺に、彼女を縛ることはできない。
彼女が行きたいと言うなら、止めることは…きっとできない。

「俺は、行けば…いいと思います」
「及川!!?お前、何言って…」
「…正直言えば、行って欲しくないし。ずっと俺達の傍にいて欲しいし…」

けど、と言って監督とコーチに視線を向けた。

「けど、多分それは許されない」

驚く周りを無視して言葉を続ける。

「俺達は負けた。約束を守れなかった。麗亜チャンの期待を裏切った」
「及川さん……」
「何度も負ける俺達を麗亜チャンはずっと支えてくれてた。カッコ悪いところも弱いところも、情けないところも負けるとことも…麗亜チャンはずっと見てきて。それでも弱音も文句も吐かずにずっと俺達を支えてきたんだ」

監督とコーチは何も言わなかった。
みんなも、口を閉ざす。

「けど、もういいじゃん。カッコ悪いところも弱いところも情けないところも負けるところも…もう見せなくていいでしょ」
「それは、そうだけど…」
「努力してるとこなんて、もう彼女に見せる必要ない。麗亜チャンには俺達が勝つ姿を見て欲しい」

俺はそう言って笑った。





封筒を手に持って監督を探す。
職員室に行けば今、部室にいると言われて。
そこに向かえば中から話し声が聞こえた。

「麗亜チャンには俺達が勝つ姿を見て欲しい」
「え…?」

私の話?

「だから、麗亜チャンは合宿に参加して。その間に俺達は強くなろうよ」
「…お前、たまにはいいこと言うな」
「たまにはって何!?」

合宿って、U-18の合宿のこと…だよね。

「アイツが帰ってきたら驚かせてやろうぜ」
「それで一気に頂まで、連れて行ってあげましょう」

私は手に持っていた退部届を見つめる。

「あ、けど…退部は許さない。麗亜チャンにはベンチって言う特等席で見ていてもらわないと」
「それが、君達の答えでいいのか?」
「はい」

迷いのない彼らの声が聞こえた。

「麗亜チャンは合宿に行って、俺達はここで必死に努力して。お互いに強くなってからまた…ここで」
「次は頂上まで立ち止まらないで行くしかないね」
「当然だな」

あーぁ、ホント…
カッコイイな、皆。

「監督、もし麗亜チャンが退部届出そうとなんてしたら破り捨てちゃってくださいね」
「そういう役はコーチの方が…」
「国見ぃ!!」

すいません、と国見が呟いたのに私はクスクスと笑って。
手に持っていた退部届を見つめる。

「ここまで言われたら…行かないなんて、言えないよ」

解散の声が聞こえて私は部室の陰に隠れる。
部室から出てきた彼らの顔を見ながら手に持っていた退部届を破った。

昨日の夜、必死になって探したのに意味なかったな…

彼らに背を向けて、近くのゴミ箱に破り捨てた退部届を捨てた。
足早に教室に戻って財布の中にしまっておいた名刺を取り出す。
携帯を握りしめて、屋上へ行って。
真っ青の空の下、携帯を耳にあてた。

「もしもし、青城男子バレー部マネージャーの寿麗亜です」
『あぁ、寿さん。電話、そろそろだと思っていたよ。返事、聞かせて貰っても?』
「合宿、参加させてください」

屋上の手すりには1羽の鳥が止まっていた。

「足手まといになるかもしれません。もし、そうだったら容赦なく切り捨ててください」
『あぁ、最初からそのつもりだよ』
「翼は、折れたけど。まだ…空がある」

その鳥が羽ばたいて、高く高く空へ上がっていく。
それを見つめて、頬を緩めた。

「また、飛びたいんです。どれだけ無様でも、不恰好でも…飛ばなくちゃいけないんです」
『そうか。じゃあ詳しくはまた、後日に。いい返事が聞けて良かったよ』
「こちらこそ、機会を頂けて…嬉しいです」

電話を切って、私は携帯を握りしめた。

「もう1度…飛びたい」





ミーティングを終えて教室の戻る途中忘れ物をしていたことに気づいて部室に戻った。

部室の施錠をして普段は気にも留めないのに部室の近くにあるゴミ箱が視界に入った。
そちらに近づけば破かれた退部届が見えて。
悪いと思いながらもそれを手に取ればやっぱり彼女の名前が書いてあった。

「聞いてたのかな…もしかしたら」

その退部届をゴミ箱に戻して空を仰げば1羽の鳥が真っ青な空の中羽ばたいていた。

「…麗亜チャン、」

もう1度、飛ぶんだね。
…寂しいような嬉しいような…

「頑張れ」

けど、やっぱり。
嬉しいのかな…

またコートに立つ彼女が見られると思うとドキドキした。
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