「リハビリ、どうだった?」
「凄い辛い」
「続きそう?」
もう逃げないよ、と言えば及川は優しい顔をして笑った。
「自由な時間にね、東京の予選見てきたんだけど」
「え、そうなの?どうだった?」
「面白いチームに出会ったよ。音駒ってところなんだけど。烏野と縁があるみたいでね、練習試合したって言ってた」
音駒?聞いたことないなぁと及川は首を傾げる。
「レシーブがね、凄いしなやかで。全体的に落ち着きのあるチーム」
「へぇ、強いの?」
「うちの方が強いと思うけど」
そりゃもちろん、と及川は胸を張って応えた。
「まぁけど、あれほど安定したチームは珍しいよ」
「ふぅん…麗亜チャンにそこまで言わせるか…」
「安定したレシーブ力があるからこその攻撃だからね」
あのチームはきっと強いよ、と微笑んで手の中のボールをくるりと回した。
「楽しそうだね、麗亜チャン」
「及川は楽しくない?」
「楽しいけど。2日も会えないのは寂しいなー」
それは私もだよ、と答え、持っていたボールを上げジャンプサーブを決めて「けどね、」と及川の方を向いて微笑みかける。
「及川達が頑張ってるってわかってるから頑張れるんだよ」
「…なにそれ、ズルい」
「え、ズルくないでしょ」
体育館にぞろぞろと部員が入ってきて、2日ぶりーと手を振る花巻と松川に手を振り返した。
「及川がスッゲェ寂しがってたべ」
「それなー泣きそうだった」
「ちょ!!まっつん、マッキー!?」
泣きそうになんてなってないよ!!と慌てて2人の元に駆け寄る及川を見て笑えばヒョコヒョコと国見がこちらに駆け寄ってきた。
「…どうでしたか?」
「ん、結構キツかったよ。けど、楽しかった」
「……麗亜さんがいないと結構寂しいんですけど」
少しだけムスッとした国見の頭を撫でて笑う。
「ごめんね」
「子ども扱いしてません?」
「まさか。嬉しいなぁって思っただけ」
ちょ、そこイチャイチャしなーいっ!!と及川が私たちを見てそう告げた。
「イチャイチャなんてしてませんけど。てか、五月蠅い」
「ちょっと!!俺、先輩なんだけど!!?」
私と国見が顔を見合わせて笑えば及川はこちらに駆け寄ってきた。
「もう、近いってば国見ちゃん!!」
「男の嫉妬は醜いぞ」
ボソッと岩泉が呟けば及川は顔を紅くして岩泉に駆け寄る。
そんな姿を見て国見がやっぱり麗亜さんがいると五月蠅くなりますねと呟いた。
「あーもう…ほら、練習始めて」
「うっし、及川放っておいて始めるぞー」
練習を始めた彼らを見ていればコーチがリハビリはどうだった、と私に尋ねてきた。
今日はこの質問ばかりだな、と思いながら同じように返事を返す。
「辛かったですけど、続けられると思います」
「そうか。まぁ、こっちのこともちゃんと見てやってくれ」
「そのつもりですよ」
▽
家に帰ってから病院で渡されたストレッチのメニューをこなしてから外に出る。
軽めのランニングくらいはしていいと言われたので、これが私の日課になっていた。
特に決まっているわけではない道を適当に走っていれば後ろから足音が近づいてきた。
「なんだ、やっぱりお前か」
後ろから聞こえた声に振り返る。
「なんでいんのよ」
「ここは白鳥沢の近くだ」
「え?あぁ…本当だ」
気付かないうちにこんなところまで来ていたらしい。
「結局代表合宿に参加するそうだな」
「合宿にはね。使ってもらえるかはわからない」
「…お前なら平気だろ」
何を根拠に、と言えばお前のことはよく知っていると彼は言った。
「若利もユースに入ってたね」
「まぁな。だが、試合で使ってもらえるかはわからないだろ」
「確かにねぇ…」
彼の隣を走りながらあれ、と首を傾げる。
「てかさ、何してんの?」
「見ての通り、ランニングだ」
「そりゃわかってるって。部活は?」
今、部活中だと彼は応える。
その言葉に私は後ろを振り返った。
「…1人?」
「ついて来られないだけだ」
「あぁ、そういうこと」
お前のところは?と言われて私は溜息をつく。
「テスト前で、楽しい楽しいスパルタ勉強教室の真っ最中だよ」
「……なんだそれは」
今頃及川は瀕死状態だろう…多分。
「お前はいいのか?」
「何の冗談?」
「……愚問だったな」
彼と話をしながら走っていたときだった。
聞こえてきた声が若利の名前を呼んだ。
聞こえた声に若利は足を止め、つられて私も足を止める。
彼の名前を呼んだのはよく知る後輩達だった。
「白鳥沢ってウシワカの?」
「俺に何か用か?」
「ジャパン!!」
ジャパンって…それ名前じゃないじゃん…
「用がないなら行く」
「連れないねェ、若利は」
「黙れ」
彼の隣でクスクスと笑っていれば「麗亜さん!?」と驚いた声が聞こえた。
「久しぶり、影山。それから日向君」
「なんでウシワカと一緒に…」
「ランニング中にちょっと会っただけだよ」
知り合いか、と若利が言って昔の後輩だと答えれば興味なさそうに視線を逸らした。
「もう行くぞ」
「あの、待ってください」
影山が一歩前に出た。
「俺達烏野から来ました。白鳥沢の偵察させてもらえませんか?」
「烏野…おかしな速攻を使うチームだな。好きにしろ。お前たちの実力がどうであっても見られることで俺達が弱くなることはない」
相変わらず、ムカつく奴だ。
実力があるうえでこの自信だから、尚のことムカつく。
それにしても、影山は相変わらず真っ直ぐな子だ。
「これから学校へ戻る。見たければついて来ればいい。ついて来られるなら」
「行くだろ。春高で倒す相手だ。見て損はねぇ」
「じゃあ、私はここでお暇させて貰うよ」
そう言えば若利がこちらを見た。
「来ないのか?」
「今の若利達を見たって何の意味もないよ。直前になったら、じっくり研究させてもらうね」
「…気に入らないな」
走り出した彼らを見送ってから、ずっと黙っていた女の子に視線を向ける。
「2人のお友達?」
「え?え、いええっと…」
キョロキョロと目を泳がせる女の子に首を傾げる。
年上、苦手なのかな…
「私、青葉城西高校男子バレー部のマネージャーの寿麗亜。貴女は?」
「え、えっと…烏野バレー部のマネージャーになった谷地仁花です」
「谷地さんか。新しいマネージャーなんだね。1年生?」
こくこくと頷いた彼女に私は微笑む。
うん、可愛いなこの子。
小動物っぽい。
「いつマネージャーになったの?予選の時はいなかったよね?」
「つ、つい最近です」
「そっかそっか。みんな元気にしてる?」
はい、と元気よく答えた彼女に私はクスクスと笑った。
「影山とか無愛想じゃない?」
「え、えぇっと…」
「あ、ちょっと答えにくかったかな。ごめんね」
私には後輩の女の子、と言うものがいない。
青城バレー部にはマネージャーは私しかいないし。
及川がいる間は私以外のマネージャーは取らない。
アイツはモテすぎるからな…
私が学校にいる間は、後輩と言うものは出来ない。
だから谷地さんを見てると、後輩っていいなーと思ってしまう。
「大変なことも多いと思うけどさ」
「は、はい」
「楽しんでマネージャー、やりなよ。谷地さん」
ポンポン、と私より低いところにある頭を撫でてそう言えば彼女は可愛らしい笑顔を見せて頷いてくれた。
「じゃあ、私はまだランニングあるから」
「あ、はい」
「またね。みんなにも、よろしく伝えておいて」
ひらひらと手を振って走り出す。
さて、若利と影山たちはどうなっただろうか…
まぁ私には関係ないか。
家に帰ったらちょっとだけ及川達の様子を見に行こう。
そろそろ岩泉がブチギレる時間だ。
走り出した足は今までより軽く感じた。
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