新入生が入って一週間が過ぎた頃。
また、呼び出された。
「ねぇ、本当に目障りなんだけど」
体は既に濡れていて、ぐりぐりと踏みつけられる右手。
「さっさと、やめなさいよ」
「断る」
「いい加減にしなさいよ!!及川君は優しいからアンタをやめさせないだけで迷惑してるのよ!!」
あぁ、本当に滑稽だ。
及川はそんなことなら簡単に吐き捨てる。
優しくなんかない。
かき乱すのが好きで、目茶苦茶にするのが好きで、プライドをへし折るのが好きで…
優しくなんかないのに。
皆、騙されてるんだよね。
「なんとか、言いなさいよ!!!」
「…滑稽ね」
「はぁ!!?」
私の一言が気に入らなかったのかパシンッと頬を叩かれた。
ヒリヒリする。
あぁ、これは隠せない。
「ちょ、見えるとこにしちゃバレちゃうよ」
「ど、どうするの!!?」
取り巻きの女子が慌てだす。
「こんな無様な顔で及川君の前に立つ女なんかいないわよ」
彼女は吐き捨てる。
そりゃ、アイツが好きならそうだね。
こんな不細工な姿晒そうとはしないだろう。
「もう、終わりでいいの?」
「は?」
「部活あるから」
「ちょ、ちょっと!!!待ちなさいよ!!そんな顔で行く気!!?」
さっきまで踏まれていた右腕を掴まれる。
「行くけど、何?私はアンタらと違って及川を好きなわけじゃない」
「なに、言ってんのよ」
「私にはマネとしてやるべきことがある」
その手を払って、彼女たちに背を向けた。
頬を伝う気持ち悪い液体を指で拭う。
「無様な姿なんて、もう見られてる」
また垂れてくる液体を無視して部室に入る。
髪を乾かしながらドリンクとタオルを準備して体育館に向かった。
「遅れました」
ドアを開けて、一言告げる。
「遅かったな、寿」
「悪いね、岩泉」
「まぁ、構わねェよって…お前、その頬どうした?」
顔を上げて、目が合うと岩泉が目を丸くする。
「寿先輩大丈夫ですか?血、出てますけど…」
「平気だよ、国見」
「何してたんすか…」
「図書室行ったらさ、上から本落ちてきちゃって」
笑って言うと岩泉に溜息をつかれた。
「いつからそんなドジになった…」
「今回だけだから許して」
「それ、消毒してこいよ」
「はいはい」
救急箱は、部室…
「先輩」
「ん?」
「それ、爪でつけられた傷ですよね」
国見が頬を指差す。
「…叩かれたんですか」
「違うよ」
「女子の先輩に連れて行かれるところ、見ました」
国見が視線を逸らす。
「何も、言わないで。誰にも」
「…先輩」
「私なら、いくらでも犠牲になっても構わないんだよ」
「どうしてですか」
国見の頭に手を乗せる。
「みんなが勝つってわかってるから。」
「先輩はズルい」
「そう?」
「なんかあったら、言ってください。1年で頼りないと思うけど力になります」
ありがとう、と言って髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「手当てしてくるから、練習頑張って」
「はい」
練習に戻っていく国見を見ながら目を伏せた。
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