「来週の火曜日に練習試合、ですか?わかりました」
「急で悪いな」
「いえ、大丈夫ですけど」

来週の火曜日か。
大丈夫だけど、急だな…

「準備しておきます」
「悪いね」
「お気になさらず」

ノートの予定の欄に試合と書いて、コートに視線を戻す。

「…あれ?」

サーブを打った及川に違和感がある。

「及川」
「どうかした、寿サン」

名前を呼ぶと及川がこちらに歩いてくる。
ひょこ、と足を庇う動作に溜息をついた。

「及川、足痛めてるでしょ」
「ちょっと、調子悪いな〜とは思ってたけど…」
「座って、靴脱ぐ」
「ん」

足に触れて、少し動かすと眉間に皺が寄った。

「軽い捻挫かな…。今練習することが、どういう事か…わかるよね?」
「あ〜うん…」
「一応病院行って」

監督を呼んで、及川の状態を説明すれば彼も呆れたように溜息をついた。

「寿、病院について行ってくれないか」
「はい?付き添いするほどですか?」
「無理をさせないように見ていてもらいたい。まず、ちゃんと行くかも怪しいしな…」
「確かに。わかりました」

及川に着替えるように告げて、岩泉に2人早退することを伝えた。

「着替えた?」
「ごめんね、麗亜チャン」

珍しく大人しくなってる彼の頭を軽くはたく。

「申し訳ないと思うなら、さっさと治しな」
「うん」

及川の鞄を持って、部室のドアを開ける。

「荷物、いいよ」
「無理させないようにって約束だから」
「…ごめん」

及川のスピードに合わせて、横に並んで歩く。

「ねぇ、麗亜チャン」
「何?」
「この間の、頬…どうしたの?」

何も聞いて来ないから知らないと思ってたんだけどな…

「あれは、図書室で「あの日は休館だったよ」え?」
「司書さんが急病で、休みだった。移動教室の時に見たんだよね〜、貼り紙」

めんどくさい。
あの日に限って、休みか…

「ねぇ、本当はどうしたの?」
「………告白して、フラれた女の子が逆上して男子をビンタしようとしたのを庇った」
「なんで」
「体が勝手に動いたんだよね」

及川が呆れたように溜息をついた。

「いつも、人を庇うよね。麗亜チャンは」
「そう?」
「うん。自分を、犠牲にする」

俯いた及川に私は視線を道路に向ける。

「自分が犠牲になって沢山の人が幸せならいいんじゃない?」
「麗亜チャンは幸せになれない」
「いいんだよ、それで」

足の怪我は軽い捻挫。
一週間は安静に。
そんな医者の言葉を監督に電話で告げる。

「火曜日の、授業終わってから病院ね。それでOK出たら試合に出ること」
「うん。病院、一緒に来てくれるの〜?」
「監督命令ならね」

及川がいつも通り、笑った。

「そっか。今日は、ありがとね」
「頑張ることと無茶することは違うよ。じゃあね」

家のドアを開けた及川が振り返る。

「何?」
「麗亜チャン……頑張りすぎないで」
「ん、了解」

ごめんね、その約束は守れない。
頑張る以外には、方法がないんだ…
ドアがガチャンと閉まるのを見届けて口を開く。

「絶対に、及川達の未来への道は邪魔させない」
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