10月25日 仙台市体育館
姿の見えない及川と岩泉を探しに来ていたのだが、見つけた先に見える光景は少しカオスだ。
及川、岩泉、若利…それから日向君と伊達工の青根くんか…
あの中に入るのはやめよう、と少し離れたところで見ていれば踵を返し歩いてきた若利が私の前で足を止めた。
「麗亜、」
「久しぶり、ってほどじゃないね。若利」
彼の後ろ、顔を引き攣らせる及川が見えた。
後で色々問い詰められそうだな…
「試合、見たぞ」
「あら、ありがとう」
「…打つ時の手足を、変えたんだな」
怪我だって言ったでしょう?と首を傾げれば彼はそうだったな、と表情を変えず答えた。
「出場時間は短かったが…」
「余計なお世話。1セット出ることも、今は出来ないレベルなの」
「そうか。それでも、いいプレーだった。お前らしくて」
珍しく、褒められているらしい。
「それはどうも」
「だが、1試合出れないんじゃ戦力にはならないな」
「そんなこと、アンタに言われなくても分かってるけど」
彼は私の着ているジャージを見てから、口を開いた。
「……こんなところで時間を無駄にするくらいなら、リハビリをした方がいいんじゃないか?」
「時間を無駄に、ね…若利なら知ってるでしょ?私、中途半端なのって嫌いなの」
最後までマネージャーの仕事は全うする、と言えば彼はそうかと興味なさそうな返答をした。
「高校最後の大会だ。健闘を祈る」
「それ、及川達にも言ったわけ?」
「言ったが、それがなんだ?」
こういうところも相変わらずか。
「若利ってさ、友達いる?」
「は?」
「…いや、やっぱりいいや。またね」
ひらひらと手を振り彼の横を通り過ぎる。
「及川、岩泉。召集かかってる」
「おー、悪いな」
「麗亜チャン!!」
あ、やっぱり来ると思ってた。
私の両肩に手を置いて、及川が私を前後に揺らす。
「大丈夫!?何もされてない!!?」
「だ、だいじょうぶ…」
「おい、離してやれよ」
岩泉の言葉で及川は動きを止めた。
何か凄い頭が揺れた気がする。
「もー、ホント、ウシワカちゃんムカつくなー麗亜チャンに話しかけるとか」
「…ただ試合の感想を言われただけよ」
「試合?」
代表戦、と答えて歩き出せば2人も隣に並ぶ。
「へー、わざわざ見たんだ。アイツが」
「そうみたい」
「その顔アウトだろ、」
岩泉の言葉に、こんなイケメンに失礼な!!と及川が答える。
「2人とも、試合すぐだから。落ち着いて」
「おう、悪いな」
「岩ちゃんのせいで怒られた」
また口喧嘩を始めた2人に溜息をつき、他の部員たちと合流した。
▽
1試合目を無事に勝利で終えて、部員たちは明日の試合に備えて学校へと戻っていった。
その中で、私は1人体育館に残り烏野の試合を見ていた。
面白いチームを相手していたが勝ったのは烏野。
烏野の次に対戦相手は和久南か…
なんというか、相性が悪そうだな。
そんなことを考えながらスタンドから出れば丁度烏野が出てきたところだった。
私の存在に気付いたのか蛍が澤村君に声をかけてからこちらに小走りでやってきた。
「2回戦進出おめでとう。面白い試合だったよ」
「…ありがとうございます」
「ブロックの精度上げて来たね。前みたいに弾かれてるシーンがあんまりなかった」
私の言葉に彼は少し眉を寄せた。
「あ、」
「なんですか?」
「メガネも変えた?スポーツグラスになってるね」
良く似合ってるし、カッコイイねと微笑めば彼は少し目を丸くしてからどうもと頭を下げた。
「それで、何か用があった?」
「黒尾さんと木兎さんから伝言です」
「え?」
あの2人から?
あー…逃げたからな…
「試合が終わって、落ち着いたら。今度こそ一緒にやりましょう、って」
「…こっちが落ち着いてることには2人は引退じゃない?」
「どう、ですかね。けど受験ってことはなさそうだし…木兎さんとか勉強絶対できない、と思うので」
スポーツ推薦とかかな、もしかしたら。
それか、就職…
「じゃあ、機会があれば遊びに行く」
「…そうしてください。多分ウザいくらいに喜ぶので」
「うん。わざわざありがとう。お疲れ様」
麗羅さんもお疲れ様です、と蛍は頭を下げて烏野の部員の中に戻っていった。
「さてと…帰ろうかな…」
体育館から出て携帯で時間を確認する。
きっとまだ学校にいるだろうし、一応顔を出した方がよいだろう。
携帯を鞄にしまおうとしたときドンッと何かがぶつかった。
「わっスイマセン!!」
顔を上げれば見えた伊達工のジャージ。
背、高いな…
「チョロチョロすんな、黄金川!!」
彼の首根っこを掴んで、グイッと誰かが引っ張る。
「スイマセン、二口先輩!!」
二口…
伊達工の主将か。
なんか、及川に似た雰囲気だと思ってたけど岩泉の方が似ているかもしれない。
「すんません、うちの1年が」
「いえ、私が前を見てなかっただけだから」
鞄に携帯を入れて、笑えば彼は目を瞬かせた。
「寿麗亜って、青城なの?」
「え?」
「青城の女バレって弱くなかったっけ?」
あぁ、そういえば今日は女子も同じ会場だった。
「…青城の男バレのマネージャーの寿麗亜です」
「え?」
「明日はよろしくね。二口…堅治くん」
マネージャー?マジで?と彼は驚いた様子で私のスポーツバックを見てまた驚いていた。
「マジか!!うわ、全然知らなかった。え、何で女バレじゃねぇのに代表出れたんすか?」
「あー、ちょっと色々事情があって」
「へぇ…ますます楽しみになりましたよ、明日」
私も楽しみにしてるよ、と言えば彼はニコリと笑って黄金川と呼ばれた子を引きずって歩いて行った。
黄金川って選手、IH予選の時は出ていなかった。
プログラムを出してみてみれば1年、と書かれていた。
「1年生であの身長…」
IHで出ていないってことは初心者の可能性は高いだろうけど。
「デカいな、やっぱり」
二口と青根。
この両選手は前回大会同様に鉄壁を作る選手だろう。
そこに加えて、先ほどの子。
「ポジション…は、セッター…」
大型セッター…
面倒なタイプだな。
****
大会2日目。
とりあえず、今日の対戦相手は伊達工。
「…どうした?なんか、複雑そうな顔」
「ん?いや、ちょっと考え事」
伊達工か…
IH予選では烏野に負けてたけど。
3年は抜けたがあの時の主力だった選手はほとんど残っている。
楽に勝たせてはくれないだろうな、と思っていたとき聞こえた嫌な音。
「っ!!?」
「?なんだ?」
「接触した」
視線をコートに戻せば、倒れている澤村君の姿があった。
「ラストボール返した直後5番のボーズ君と主将君が激突。けっこうな勢いで顔打ったように見えたけど」
「え、マジか」
「この試合、出られないかもね。澤村君」
ちゃんと立ってるし、フラフラしてるようには見えないけど。
「もし脳震盪起こしてたら怖ぇからな」
「脳震盪起こしたのにそのまま試合続行したら夜になって意識不明って話も聞いたことあるしね。軽いバレーボールが当たるのとはワケが違う」
「ボールも当たり所によるけどな…」
口から血が流れてる。
口の中、切ったかな…
「烏野のボーズ君。試合中のメンタルの強さは相当なモンだけど、それは自分がプレー的に追い込まれた場合。自分が原因で大黒柱を負っちゃった今はどうだろうね?これで負ければ主将君には最後の試合なんだろうしね」
「平気だと思うよ、私は」
え?と及川はこちらを見た。
「柱が折れたくらいで、崩れるようなチームじゃないでしょ」
「そうかもしれねぇけど、問題は…この試合誰があの大黒柱代わりを務めるかだ」
澤村君は3年生。
勝ち残ってもあと数試合で、抜ける存在だ。
2年生の中で、次の主将は決めていておかしくないし…
「ツーセッターとか?」
「普段から二人体制の練習してるとか攻撃も守備もWSに勝るセッターがいるとかでない限りぶっつけでやるのは微妙でしょ。彼に代わるWSが烏野にいるのかは知らないけどね」
お前しかいない、頼むぞと菅原君がコートの方を見て声をかけた。
「練習試合に出てた子だね。どんなだっけ?」
「あんま覚えてない」
「麗亜チャンは?」
2人がこちらに視線を寄越す。
「2年生の縁下君、だったかな、確か。そこそこ安定したレシーブしてたよ。けどまぁ、澤村君に比べたらまだ劣るところはあるけど」
コートに入っていった彼に対して、蛍や影山が声をかけているところを見ると…
「信頼は厚いんじゃない?彼なら、代わりを務められるって皆思ってるっぽいし」
「確かにそうは見えるな…」
「でしょ?ほら、そろそろ移動する時間」
サブアリーナに移動しながら集団の最後尾にいる京谷の元へ駆け寄る。
「コンディションは?」
「……まぁ、」
「そう、ならよかった」
俺って伊達工戦、出ないんすかと彼は眉を寄せながら言った、
「出ない予定だよ。…出たかった?」
「バレーなんて、やってなんぼのスポーツじゃないっすか」
「あー、それは確かにね」
けど先に切り札を見せるわけにはいかない。
それがトーナメント戦だ。
「アンタ、よくマネージャーなんて出来ますね。見ててイライラしません?」
「え?あぁ、多少はね。けど、私はコートに立てないってわかってるから諦めがついてるとこもある」
「……怪我したって噂、本当だったんすか?毎週同じ日にいないし」
あぁ、そうか。
途中から戻ってきたから、何も知らないのか。
「中3で肩と足を壊した」
「え…」
「手術して、リハビリして日常生活が出来るとこまでは戻したけどそこでやめたの」
コートに戻りたくなかったんだ、と笑えば彼は驚いていた。
「けど、及川に誘われてマネージャーをして。少しずつバレーに戻りたいって思った。それで、この間代表の合宿に声をかけて貰った。怪我のことも話した上で、参加させてくれた」
毎週いないのはリハビリで東京に行ってるから、と言えば彼は何も言わずに視線を前に向けた。
「それでも、アンタは変わらない」
「え?」
「怪我しても、バレーから離れても。…アンタの芯はいつだって真っ直ぐだ」
勝つことに餓えてる、そういうとこ俺は好きっすよと彼は言った。
「私、京谷に好かれてたんだ。お節介ばっかりだからウザがられてると思ってたけど」
「……自覚あったんすか」
「そりゃね。けどそれが、このチームのためになるなら躊躇いはないよ。自分ぐらい、いくらでも犠牲に出来る」
▽
「よく普通に声かけられんなー、寿」
「…なんつーか、凄い奴だよな。改めて」
集団の後ろ。
京谷と2人で話す寿の方に視線を向ける。
「で、寿を取られた及川は死ぬほど拗ねてる…と」
「うるさいよマッキー!!拗ねてないし!!」
「最近、本当にあからさまになってきたよな」
それは確かに、と松川が頷いた。
「いつ告白すんの、及川」
「ヘタ川に出来るわけねぇだろ」
「ヘタ川ってなに、岩ちゃん!!?」
そりゃ、ヘタレな及川だろと岩泉が笑った。
確かに、及川には告白なんて出来そうにないな。
けど、俺の勘が間違ってなければ、アイツも及川のこと好きだと思うんだけどなぁ…
「約束守ったら、告白するもん!!」
「皆で見に行くしかねぇな」
「誰かカメラ回しとけよ」
やめてよ、と慌てる及川に岩泉はケラケラと笑う。
もし、約束を守れなかったら…告白しないのか?
まぁ今からそんな縁起でもないこと考えるべきではないけど。
けど、本当にもし…そうなってしまったとき。
2人がお互いの気持ちを打ち明けなかったとしたら、それは凄く悲しいことなんじゃないかと思った。
「あれ、何盛り上がってるの?」
京谷の元から戻ってきた寿が岩泉と及川、松川に視線を向けて首を傾げた。
「ちょっとねー」
「そう?」
「ねぇ、寿ってさ」
なに?と彼女は首を傾げる。
「及川のことどう思ってるの?」
「好きだけど」
「え?」
驚いている俺に彼女もえ?と目を瞬かせた。
「どうして?」
「え、ちょ…なんでそんなあっさり答えてんの?」
「嫌いだったらマネージャーなんてやってないでしょ。及川も岩泉も、松川も勿論花巻も。他の部員も皆、私は好きだよ。いい人達に出会えたこと、本当に感謝してる」
あぁ、そういうことかと答えれば彼女はクスクスと笑った。
▽
サブアリーナに入れば隣コートに伊達工の部員が揃っていた。
WUを始める部員たちを眺めていればこちらにボールが転がって来て、それを拾い上げる。
「すいませーん、ボール飛んでっちゃって」
ニコニコと笑う彼はやはり及川にも似てる気がする。
「気にしないでいいよ、二口くん」
「…本当にマネージャーなんすね」
「あれ、信じてなかったの?」
改めて思っただけっすよ、と彼は笑う。
「負けないんで、覚悟しといてください」
「何で私に言うの?」
「ボールとりに来たついでです」
彼はボールを受け取って隣コートへと戻っていく。
その姿を眺めていれば、お前伊達工とも知り合いだったのか?と岩泉が声をかけてきた。
「昨日の帰りに少し会っただけ」
「へぇ…お前ってどうしてそう、敵との遭遇率高いのかね」
「好きで会ってるわけじゃないよ?」
だとしても及川はご立腹だな、と岩泉は笑った。
「あー…なんか、ごめん」
「もう慣れたっつーの」
ネットの向こう。
伊達工のキャプテンと握手を交わす。
「…しァス」
「まぁまぁそんな気張んないで!君らは来年だってあるんだし?」
「関係無えっスよ。立場とかそういうの。コートに入ったら関係ない」
闘志の宿る瞳が向けられて俺は笑みを零す。
「だよね、知ってる」
3年だろうが1年だろうが強い方が強く、ただボールを落とした方が負ける。
来年があるからと言って、負けていい理由にはならない。
だからと言って、俺も負けるわけにはいかない。
「立ち止まるわけにはいかないんだよね、こんなところで」
約束を守らなきゃ。
彼女のために。
そして、俺の…ために。
「何怖ぇ顔してんだよ、お前」
岩ちゃんはそう言って俺の背中を軽く小突いた。
「勝つんだろ、絶対」
「うん」
「…全員、分かってるよ」
誰も負けるために戦いになんて来ていない。
それでも、そんな奴らを倒して頂点に行くのは俺達だ。
「じゃあ、今日も皆…信じてるよ」
部員の空気が代わった。
「行ってらっしゃい」
彼女が笑う。
あの頃よりも優しくなった微笑みを浮かべて。
あの頃と変わらない真っ直ぐな瞳で俺達を見つめて。
「行ってきます」
あと何回。
彼女が俺達の背を押してくれるだろうか。
あと何回。
彼女とこのコートにいられるだろうか。
そう言うことを最近よく考えるようになってきた。
彼女のこれからの道を俺はもう邪魔できない。
縛り付けることも、できない。
きっとそんなことしちゃいけないってわかってるから。
「1日でも1時間でも1分でも1秒でも長く…」
この瞬間を。
∇
第1セットを先取しベンチに戻ってきた選手にボトルとタオルを配る。
「どう?新人セッターくんは」
「いやー、ビックリするくらいに素人だねぇ」
そう言って及川は笑い隣のベンチの視線を向けた。
「けど、あの高さは嫌だねェ。あれで、技術が伴なったら相当面倒な相手になるよ」
「これからのことなんてどうでもいいんだよ。今、勝てるなら先のことは後で考えろ」
「わかってるよ、岩ちゃん」
及川はこちらに視線を戻して笑顔を見せた。
「安心して待っててね、勝ってくるから。麗亜チャンの頭をフル回転させるのはきっと次の試合だから」
それまではお休み。
先程まで強烈なサーブを放っていた手が私の頭を優しく撫でた。
頭を撫でるなんて、珍しいこともあるものだ。
そんなことを思いながら笑顔を返した。
「ありがとう。安心して、ベンチで待ってるよ」
頼もしいなと溝内コーチがコートに入っていく選手を見ながら言った。
「そんなの今に始まったことじゃないですよ」
「それはそうなんだけどな。前の敗戦から…より一層、頼もしくなった」
コーチの言葉に選手たちの背中に視線を向ける。
大きくて頼りになる背中。
この背中を私は後何度見送ることが出来るのだろう。
きっともうカウントダウンは始まっている。
刻一刻と終わりの瞬間が近づいている。
ずっと考えないようにしていた。
あまり話題に出さないようにしていた。
私たちのこれからのこと。
もう同じ道は歩めないのだろう。
同じ円陣に入ることも、同じベンチに座ることも、コートへ入る彼らの…彼の背中を押すこともできなくなるのだろう。
「カッコいいですね」
「え?」
きっと彼もわかってる。
わかっているから、何も言わないんだ。
今この瞬間を大切に、大事に過ごしているから。
「いつだって、コートに立つ彼らはカッコいいんです。頼もしくて、私を導いてくれる」
「お前も導いてやってるだろ?」
「そうですかね」
終わるその瞬間まで、私は今を生きていたい。
彼と、彼らと同じ今を刻んでいたい。
これからのことは、またその時に話せばいいのだ。
それぞれの胸に秘めた、口にしなかったこれからのことを。
∇
最後岩ちゃんが相手の新人セッターの腕の間を抜き、勝利を決めた。
「俺もまだまだっすなぁ…」
岩ちゃんって無駄に男前だから困るよね、ホントに。
「お疲れー。タオルで汗ふいてね。体は冷やさないように」
次すぐに試合だからねー、とテキパキとベンチで動く麗亜チャンはそれぞれのジャージとタオルを配りながら労わるように選手の背中を叩いて行った。
「はい、お疲れ。ハラハラするとこもあったけど、いい試合だったよ」
「ありがとね」
「及川も体冷やさないで、さっさとジャージ着てね」
ぽんぽん、と背中を叩いた彼女は柔らかく微笑んでもう一度、お疲れ様と言った。
「あ、水分補給も忘れないでね」
「わかってるよ。ありがとね、麗亜チャン」
俺との会話を終えた麗亜チャンは青城の集団の隅っこにいた狂犬ちゃんの元に歩み寄った。
一言二言言葉を交わして、彼女が少しだけ笑う。
「…また拗ねてんのかよお前」
「べっつにー。麗亜チャンと狂犬ちゃんが仲良いから拗ねたりなんてしてないよ」
「……いや、拗ねてんだろ。それ」
まぁ確かに京谷もよく懐いてるよなと岩ちゃんは2人を見ながら言った。
「麗亜チャンってさ、なんでこう変な人に好かれるのかね」
「それ、自分も含めてか?」
「いや、違うよ!?俺変じゃないし!!」
どうだか、と岩ちゃんは適当にあしらって首を緩く傾げた。
「まぁアイツが好かれる理由ってのはあれだろ」
「何?」
「敗北、挫折、裏切り、孤独、絶望…そういうもん知っても人を信じて人を支えて人を助けて…自分の足で立って、歩いて、前に進んでるからじゃね?」
アイツのことを羨んで妬む奴はいても、嫌いにはなれないんじゃねって岩ちゃんが笑った。
「…納得」
「納得しても嫉妬はするんだろ?あーぁ、めんどくせ」
「ひっど!」
さっさと移動すんぞ、と歩き出した岩ちゃんの背中を軽く小突けば倍返しどころではない蹴りが返ってきた。
「まぁ、なんでもいいから。次も勝つぞ」
「あはっなにそれ。当たり前じゃん」
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