「何だ おまえ居たのかよ。どっちが勝ってもむかつくから行かねーつってたろ」
「どっちが勝ってもどっちかの負けっ面は拝めるからね!」
「うんこ野郎だな」

一つ開けて 隣に座った岩ちゃん。

「悠長にイジけてらんないんだよ」

前に進む覚悟は決めた。
だから、立ち止まっている暇は一瞬たりとも ないのだ。

何か言いたげな岩ちゃんに 俺は笑った。
なんだかんだ、心配性な幼馴染だ。

「麗亜チャンとは、付き合うことになった」
「は!?」

みんなにもいつか伝えないとな。
ただ、今は岩ちゃんだけでいいかな。
いじられそうだし。

「お前から、な…わけねぇよな」
「そのとーり」
「…相変わらず男前だな、寿は」

ほんとにね。
どっちが彼氏なんだか、わかんないよ。
けど、麗亜チャンの彼女なら まぁそれはそれでいいやって思っちゃってるよね。

「東京に行くって。麗亜チャン」
「…東京、、そうか。進むんだな、あいつも」
「そういうこと。だから、俺も 立ち止まってる暇なんてないんだよ」

これから リハビリも増やすと行っていたし、会えなくなる時間も増えるだろう。
大学に入れば 月一 もしかしたら半年に一回とかになるかもしれない。
それでも、彼女を引き止めるつもりはない。
お互い、背を向けて戦うことになっても 目指す先で間違いなく彼女に出会えるから。
お互いの気持ちが揺らぐことはないって、何故か確信していた。

「お前は?どうすんの進路」
「まだ決めてない。けど、離れても もう大丈夫だよ」
「……そーか、」

最初っからそんくらい堂々としてろよ、と岩ちゃんが笑った。

「それにしても。ほんっと雑食だな烏野。眼鏡のブロードなんて初めて見たぞ。囮だけど」
「俺達は完成度の高い時間差攻撃を易々と捨てられないし白鳥沢は個人の強さを極めるスタイルを曲げない。それで今強豪と呼ばれてるわけだしね。でも多分 烏野には守るべきスタイルなんて無いんだ。強豪と呼ばれた時代にはあったかもね」

俺たちと戦いながらも、彼らは強くなっていった。
色んなものを吸収して、成長しながら。

「だから、新しい事に手を伸ばす事に躊躇が無い。あの奇跡みたいな神業速攻でさえすぐに捨てて新しくしてきた。古く堅実な白鳥沢。新しく無茶な烏野。どっちが勝ってもムカつくからどっちも負けろ」
「うんこ野郎だな」

そのうんこ野郎てのやめてくれる!?と言えば岩ちゃんは目も合わさずクソ野郎とどっちが良いか選べと返してきた。
腹立つな、と思いながらもじゃあうんこかな!と答えれば彼は満足げに笑った。

「つーか、寿と来なくてよかったのかよ」
「俺は観に行かないって言った」
「…馬鹿だなお前。あいつは?いんの?」

多分どこかにね、と答えて ウシワカを睨んで眉を寄せる。

「幼馴染だってさ。麗亜チャンの」
「ウシワカが?」
「そう」

そうか、って岩ちゃんは眉を寄せる。

「だからこそ、か。寿の強さは」
「きっとね。小さい頃からずっと 麗亜と三島愛梨はウシワカとともに育ってきた。強かったんだよ、三島も。」
「……そうだな」

強かった。
間違いなく。
麗亜チャンに隠れてしまっただけ、彼女のセッターとしての才能は間違いなかった。
皮肉なものだ。
そうでなければ、麗亜チャンを壊すための あのほんの僅かなズレを作り続けることは出来なかった。
三島は影山のように バレーが全てではなかった。
だが、もし彼女がそうであったなら。
そしてもし、麗亜チャンが隣にいなかったら。
コートの王様は 彼女だったかもしれない。

「…いつもより静かじゃねぇか 烏野の10番」
「考えてんだ。ファイナルセットのデュースっていう崖っぷちでどシャット食らって。凹んでる隙さえ無く次の手を考えてる。気持ち悪いね」

彼らは成長をやめない。
捨てることを恐れはしない。
ただ、ただ、ひたすらに勝つために足掻く。
あの勝利への執着は、まるで 寿 麗亜そのものだ。
だがらだろう。
烏野というチームは 眩いくらいの 光なんだ。
腹立つのに。
負けたことが悔しくて仕方がないのに、目が離せない。

21-19。
終了の笛が鳴って、コートの上で勝者は涙を流した。

「ウシワカ野郎はもっと悔しそうな顔しろっつーんだよ」
「影山、良い仕事しやがるな」
「岩ちゃんも気づいた?」

本当に腹立つ後輩だ。

「あの土壇場で嫌な返球。さすがお前の弟子だわ」
「弟子じゃねーし!…ムカつくほど 見えてやがる」
「まぁ、その良い仕事の前提にあるのは一年眼鏡のブロックだけどな」

みんな、成長していた。
足を止めているやつなんて、一人もいなかった。
コートの中も、外も。

「それにしても、チビちゃんはトスを上げてみたくなるスパイカーだね…飛雄が振り回されるワケだよ」
「似てきたもんな。寿に」
「あんなちんちくりんと一緒にしないでよ。さーさっさと帰んべ帰んべ!」






「コンクリート出身 日向翔陽 影山飛雄。次は倒す」

聞こえたのは彼の声から発されるには珍しいものだった。

「絶対同じ舞台まで行ってみせます!!」
「絶対及川さんより上手いって言わせます!!」

影山と日向の言葉に 私は笑ってしまった。
勝っても尚、彼らは上を見ている。

「麗亜、」

笑った私に気付いたのか 若利がこちらを見た。
麗亜さん!と背筋を伸ばした影山に良い試合だったよ、と笑いながら頭を撫でた。

「麗亜さんの話、やっぱり昨日聞いておいてよかったです」
「?そう?」
「バレーできなくなる以上の 絶望はなかったです」

ぱちぱち、と目を瞬かせて なんのことだかよくわからないけど それならよかったと笑う。
影山の陰に隠れていた日向君を手招けば カチコチとロボットみたいに 近付いてきた。

「強くなったね」

嬉しそうに 彼の顔が緩む。
君は 真っ直ぐだ。
影山を救い出した君に 影山と戦う日向君に。
私は 羨ましくなったんだよなぁ。

「ねぇ、今度。一緒に練習しようよ」
「「エ゛!?!」」

隣いた影山までこちらを見て 固まった。

「じゃ、春高も 頑張って」
「「ハイッ!!」」

なんでお前が誘われてんだよって影山の声を背中に聴きながら、真っ直ぐ私を見つめていた 若利に向き直る。

「似ているな」
「なにが?」
「お前と愛梨に」

彼の言葉に私は笑った。

「そうだね」

似ているから 私は触発されたんだろうな。
きっと、あの試合を見て。

「私さ、愛梨に壊されたんだ」

僅かに若利の目が見開かれた。

「愛梨だけが悪かったわけじゃないよ。けど、愛梨の技術があったから、壊れたの」

私が影山のトスを打てたのは三島のそれによく似ていたからだ。
正確無比。
小柄だったし、体力ないし、試合中でも泣くから 代表とかには選ばれなかったけど。
心が育てば彼女は影山のようになってもおかしくはない。

「そう、か」

中学で別々の道に進んだ。
北一と白鳥沢。
私は引っ越したし、私がいなければ愛梨は自分から若利には会いには行かなかっただろう。
よく泣かされてたから。

「3年の終わりに、一度だけ会った。お前を、知らないかと」
「そう」
「そこで、親が連絡をした。お前の親に」

なるほど。
そこから、繋がったんだね。

「…お前が、愛梨に隠し事をするのは変だと思ったから。何も、伝えなかった。けど、そうか。そういう…ことだったんだな」

何か言おうとして、口を閉ざした彼に私は笑った。

「私、東京に行くよ」
「若利君早く戻ってこないとーって、、あれ?」

天童君だっけ。
私と若利を交互に見て目を瞬かせる。

「そうか」
「お腹空いちゃったんだ。だから、全部喰い尽くしてくる」
「お前らしいな。3年も 待てをしてきたんだ。暴れてくればいい」

彼は少しだけ、笑った。

「もう、立ち止まるなよ」
「当然でしょ」
「…じゃあ。また」

若利は背を向けて体育館の中へ戻っていく。
残された天童君がまた私と彼を交互に見た。

「天童君、」
「寿麗亜だよね?なんで若利君と?てか、あれ?青城のマネージャーじゃ、、?」
「前から思ってたの。天童君のブロック 私結構好きだった。今度、コツ 教えてね」

彼は目を瞬かせた。

「若利の隣にいてくれてありがとう。またね」

ひらりと手を振って、体育館に背を向ける。





「若利君、どういう関係!?」
「幼馴染だ」
「幼馴染!?」

そうか。
あいつは、愛梨に。
思い出されるのは 3人で 練習をしていた幼い頃のこと。
納得、してしまった。
愛梨に、と言われて 麗亜が足を止めたことを。
だが。もう、過ぎたことなんだろう。
彼女はまた、彼女の庭に戻ってくる。

「あの二人に よく似た 幼馴染たちだ」

いつかまた、3人で会える日が来るだろうか。
もし、そうなったら。
そんな日が、、来るのなら。
あの二人の コンビネーションが見たい。

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