「寿サン、いいかしら?」
教室から出たとき、見覚えのある女子が立っていた。
頬叩かれてから呼ばれてなかったんだけど…
またか。
「いいよ」
「寿先輩!!」
「国見?」
彼女たちについて歩きだしたとき聞こえた声。
「どうしたの?」
「監督が、呼んでます」
「え?あー…ごめん。この人たちと話あるから少し遅くなるって伝えておいて」
国見は無言で私の手を握る。
「先輩達の話って、監督の話よりも重要なことですか?」
彼女たちを睨む国見。
「い、いいわよ。行きなさいよ」
「あ、うん」
国見は手を掴んだまま走り出す。
「ちょっと、国見!!?」
「なんで怪我するってわかってるのに行くんですか!?」
彼女たちが見えなくなった階段で彼は足を止めた。
「私が犠牲になっていれば、部員に手は出されないでしょ」
「なんで、自分を犠牲にするんですか?…中学の時も、そうでしたよね」
「え?」
一段下に立つ国見がこちらを見上げる。
「金田一が影山を殴ろうとしたとき、庇った」
「あぁ、あったね。そんなこと」
「いじめられてた俺のクラスの女子を庇ったし。不良に絡まれた女子の身代わりになった」
「…よく、知ってるね」
国見が一度口を閉ざす。
「…それで、何が手に入りましたか?怪我して、恨まれて…何が手に入りました?」
「何にも、手に入ってないよ」
「なら、どうして…」
「今まで、生きてきて手に入ったものなんか何もないから」
右手を見つめて、微笑む。
「手に入ると思ったことない。手に入れようと思ったこともないんだ」
「え?」
「自己満足なんてものも、私は知らない。けど、それが普通だと思ってる」
見つめていた右手を彼の頭に乗せる。
「部活行こうか。監督なんの用だろう」
「嘘です、それ」
「え?」
「先輩を行かせないための」
…嘘なんだ。
「やっぱり、俺達って頼りないですか?」
「そんなことないけど?頼りにしてるよ」
「犠牲になんかならずに俺らを頼ればいいのに」
「それとこれは違うかな」
馬鹿ですね、と言って国見が不機嫌そうな顔になる。
体育館の入り口で、国見が振り返った。
「俺は、そんな風に馬鹿な先輩好きですよ」
「は?」
「早く着替えてきてくださいね」
そう言って国見は体育館に入っていく。
「先輩に向かって馬鹿はないでしょ…てか、好きって…」
好かれるようなこと、してないと思うんだけどなぁ。
「遅れましたー」
ドリンクとタオルをいつも通りベンチに置くと退屈そうな及川。
「遅かったね〜」
「あぁ、国見と話してたらさ…暇そうだね」
「まぁね」
タオルとドリンクを配る。
国見はいつも通りありがとうございますと呟いた。
ノートを開いて練習を見ながら書き込んでいく。
「今日は元気そうだね」
「そう?」
「うん」
及川はそれだけ言って黙り込んだ。
…様子が、変?
気のせいかな?
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