「朱希」
「もう来てたんですか?」
「早く着いちゃったの」

校門の前に止まった1台の車から顔を覗かせたアンナさん。

「乗って」
「ありがとうございます」

助手席に乗るとアンナさんはニコリと笑う。

「1度家に帰ってから病院でいいのよね?」
「はい」

家に帰って私服に着替えているときアンナさんは不思議そうに部屋を眺めていた。

「賞状とか、どうしたの?」
「捨てましたよ」
「1500のやつも?」
「それはクローゼットの中の段ボールにしまってあります。兄さんの遺品と一緒に」

そう、とアンナさんは目を伏せた。

「もう、泳がないの?1500は」
「…どうですかね…」
「まぁ、朱希の好きにすればいいわ。準備は出来た?」
「はい、大丈夫です」

車で病院に向かっている途中に鳴った携帯。
映し出された松岡凛、という名前。

「出ないの?」
「…今はやめておく。いつも通り話していられるようなテンションでもないし」
「いつ、異常が見つかるか…わからないものね」

ごめんな、凛…
きっと怜となにかあったんだろう。
怜が凛の所へ行った証拠はないけどきっと怜は凛の元へ行った。

「朱希」
「なんです?」
「もし、異常がみつかったらどうするの?」

アンナさんの問いかけに俺は笑った。
「潔く兄さんの元へ行きます。それで…この心臓を返します」
「そう…」



俺は検査を終えて兄さんの墓に来ていた。
アンナさんはオーストラリアへと帰っていった。
今頃飛行機の中だろう。

「今回も異常なしだって。また半年生きれるな」

規則的に鼓動する心臓に目を閉じて微笑む。

「そろそろ地方大会なんだ。今度は俺が泳ぐよ。兄さんに正々堂々挑みたい」

コウが言っていた泳ぎ方の違いは俺と兄さんの泳ぎ方の違いだ。
無意識に俺はクロール以外は兄さんの動きを真似ていたんだろう。

「俺の泳ぎで兄さんに勝つから」

相変わらず返事は聞こえない。
ゆるく吹いた風が俺の頬を撫でたときポケットの中の携帯が震えた。

「…凛、か」

凛と和解をしてから電話をすることは何度かあった。
昔みたいに頻繁にかかってくることはなかったけど、たまに電話をして何時間も話をした。
その時間は確かに楽しかったし、コウに宣言した手前凛に冷たくする理由もない。

「無視するわけには…いかねぇか…」

通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

「もしもし」

電話の向こうから返事は聞こえなかった。


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